22.ガロルドとの戦い‐2※
予行演習だ、と薄く笑う。
「自分で脱ぐ手間が省けていいだろ? 晒し者にしてやる」
そう言うと、ひときわ強く刃を突き出す。
肩のあたりが大きく裂けて、白い肌があらわになった。
おおっと野次馬の中から歓声が上がる。
「やれやれ、ガロルドーっ」
「脱がせちまえよっ」
「やっちまえガロルド、あと少しだ!」
ステラの様子が変な事に気づいたのか、ラグラスが何か言いかける。だが、その前にガロルドの仲間に押さえ込まれた。
オレッセオとカイルはどこにいるのか、姿が見えない。
ふらつく足を踏みしめて、ステラは必死に剣を握った。
(体が熱い)
じわっと熱が染み出るような、奇妙な感覚。
呼吸が荒くなり、背中を汗が伝い落ちる。
体が火照り、今すぐに座り込みたくなる。だが、唇を噛んでそれに耐えた。
(苦しい、水が飲みたい、あつい、あつい……あつい)
目の前がくらくらする。視界の端に虹が散って、吐き出す息に熱がにじむ。
媚薬と彼は言っていた。だとすれば、それは興奮剤の一種だ。
心拍数が上がり、神経が過敏になり、少しの刺激でも反応する。本来なら身体機能を高めてもおかしくないはずだが、これは逆だ。感覚だけが鋭敏になり、体の力が抜けていく。
(時間を……稼がなきゃ。この薬が抜けるまで、逃げ切らないと……)
「逃がすかよ」
だが、後ずさろうとした体が追い詰められ、ふたたび服を切り裂かれる。今度は太ももがあらわになり、周囲から口笛が沸き起こった。
「ガロルド、じらすなよ。もういいだろ」
我慢しきれなかったのか、そんな声まで飛ぶ。
「さっさとやっちまえ。全部見せろよ」
「脱がせろ、次はスカートだ」
「焦るなって、お前ら」
ガロルドが余裕たっぷりに首をめぐらす。
次の瞬間、腰当てが切り落とされた。
肘当て、小手、膝当てと、少しずつステラの防御を削いでいく。刃がひるがえるたび、衣服が破れ、ステラの肌が晒されていく。
今の状態なら、楽に一本取れるはずだ。だが、彼はそうしない。宣言通り、この試合でステラを辱めるつもりなのだ。
衆人環視の中で、裸にされる。
それがどれだけひどい事なのか、分からないはずはない。――それなのに。
焼けるような太陽がぎらつき、濃い影が地面に刻まれる。
この間よりも大勢の人間が見ている。あの時の騒ぎに加わらなかった者達が、後ろめたそうに目をそらしているが、止めてくれる様子はない。
「やめろ、お前ら! ローズウッド、降参しろ!」
大声でラグラスが叫ぶ。
「そうすれば試合は終わりだ。審判、早く――」
言い終える前に口をふさがれ、彼はふたたび押さえ込まれた。
「審判に期待してるなら無駄だぜ、ローズウッド」
ガロルドが舌なめずりをした。
「こいつは最後まで試合を見届ける。お前が裸に剥かれようと、俺に押し倒されようとだ。棄権も降参も認めない。逃げられないぜ、ローズウッド」
「ガロルド……」
「団長と副団長は、ありもしない魔獣出現の通報を受けて、緊急離脱中だ。お前を助けてくれるやつはいない」
「……っ」
「さあ、次はどこにする? 選ばせてやるよ」
剣の先で胸に触れ、ガロルドはにたりと笑った。そのまま、くっと先端を押し込まれる。
「!」
ピッと音を立てて布が切れた。おおっとどよめきが沸き起こる。
「胸か、尻か? どこを最初に脱がされたい?」
「ガロルド、あなた……」
「選べないなら決めてやるよ!」
そう言うと、ガロルドはふたたび剣を振るった。
まるでストリップを楽しむように、じっくりと服を切り刻まれる。
布が破れ、ステラの肌が晒されていくたび、歓声と口笛がこだまする。いつもは防具に隠れているため、まったく日に当たらない箇所だ。
どきりとするほど白い肌は、張りつめていて瑞々しい。汗で濡れた髪がかかると、周囲から息を呑む音がした。
ごくり、とガロルドが唾を飲み込む。
「ノーショアのくせに……悪くねえな」
ステラの足元はおぼつかず、剣を握る手にも力が入らない。狙いを定めようとしても、ぐらぐらと重心が揺れている。顔が熱い。耳の後ろがジンジンする。風が通り抜ける刺激でさえ、ゾクゾクと背中に鳥肌が立つ。太陽に雲がかかり、地面の影が薄くなった。
(このままじゃ……)
は、と息を吐いた瞬間だった。
ガロルドがふたたび襲いかかってくる。臍の下あたりに刃を引っかけたかと思うと、それを一気に引き裂いた。
「っ!!」
急激に涼しくなった胸元に、ステラが身を固くする。
臍から胸まで、一直線に裂かれた布が、かろうじて肌を覆っている。その下にちらちらと見え隠れするのは、服の下に巻いたサラシだった。
反射的に腕で隠すと、ガロルドが嫌らしい顔になる。
「その下がどうなってるか、じっくり確かめてやるよ。全員の前でな!」




