出てきたもの
「考えてみれば、これまで結構な幸運が続いてますし――」
そろそろ幸運のストックが尽きても不思議はないような気がする。
「反動で不幸の連続とかは勘弁してほしいですけどね」
別に技能の結果が今後の未来を占う訳ではないだろうが、若干ソワソワしつつ袋の中を覗き込んだ。
「あ」
本であることは、重さなんかからわかっていた。だから、思わず声が出てしまったのは、形状に関してではなく。
「これ、僕の日記だ」
昔どこかで無くしたものが出てきたという純粋な驚きによるものだった。
「何冊目の日記だったかな?」
ふいに浮かんだ疑問もナンバリングを確認すればすぐに解ける類のモノ。
「とはいえ、望んでいたモノじゃありませんでしたね」
個人的には懐かしいが、抱えた問題の打破につながるようなモノでないのは明らかだ。
「まぁ、最有力候補が紙屑のままですから――」
そもそも凄いモノを取り出す確率は低かった。
「あってあの紙人形ですよね」
とはいえ、世の中そうそう思い通りに行かないことは、解かっている。
「何度か試行すれば、また会える可能性はありますけど、今は準備を終わらせないと」
次は食料の調達でしたね、と記憶を頼りに手頃な価格で保存食を売る店へと僕は向かう。
「しょっぱくておいしくもない」
日記が出てきたからか、ふいにそんな初めて保存食を食べたときの感想を思い出す。
「確かあれは先生がもって来てくれて」
実地で、貴族として生きるならば本来教える必要もないことも多岐にわたって家庭教師の先生は教えてくれた。
「『いざという時の為に、こういうことは覚えて居た方が良いですよ』でしたっけ」
こんな状況になることを見通していたとは思わないが、先生の教えのおかげで僕は色々と助けられている。
「けど、先生のありがたみを再認識するからこそ思うんですよね、助言者の必要性を」
技能のことを明かせない以上、矛盾してはいるが、例えば付与品の紙人形には大いに助けられている。
「最近自分でも独り言が多いなと思いますけど」
これも無意識に誰かに相談したい、意見を求めたいと僕が思っているからかもしれず。
「結局のところはないものねだりですね。自我を持ち会話ができる付与品も過去にあったらしいですけど、殆ど伝説として語り継がれてるようなモノですから」
僕の技能で取りだせそうなモノであれば、しゃべる本なんてものが存在したらしいが、今の熟練度ではとてもじゃないが取り出せる気がしない。
「逆に言うなら、熟練度さえ足りてしまえば取り出せるかもしれないというのが――」
僕の技能の恐ろしいところであり、強みだ。
「さてと」
強みを生かすためにも、やらなくてはならないことが解かっているなら。
「それを最優先にすべきですよね」
だから、準備を終わらせる。袋を覗き込んだりで足が止まっていたこともあったが、その後は考えながらも足を動かしていた。
「保存食って、保存できるよう加工する分お高いんですよね」
故に、僕が購入したことは必要に駆られたときであり、片手の指で足る回数だ。
「それに」
保存食を買うというのが、どうしてもあの日の約束を思い出す。二人で旅をしようという、あの日の。
「実際やってみると、かなり大変なんですよね。遠出の準備」
あの頃の僕は、そんなことも知らない子供だった。
「百聞は一見に如かず、でしたっけ?」
実際、旅人が保存食を買いに来た場面を目撃したことのある僕は、過去の自分の浅はかさを思い知ったものだ。日程から必要な量を計算し、それに人数をかけて不足なく用意するなんてことは考えもしなかった。万が一の場合の予備を用意するということも。
「天候によって足止めを食うことも考えるとか、そんなことにも思い至れない有様でしたし」
家庭教師の先生から話を聞いておきながらと自分で自分がちょっと情けなくなった、あの日。僕はこの先にある店で一つの戦場を知った。




