戦い
「特売会場」
戦場の名をそう言った。
「保存食ってそもそも日持ちするモノですから、安売りの時に買っておきたいッて心情は僕にもわかるんですけど」
それは僕の想像をはるかに超えていた。干し肉の形が悪いモノ、千切れて半分になっているモノ、通常の商品にはなりえないモノを格安で纏め売りするというのが、僕の赴いた会場の趣旨の様だったのだが。
「あそこの札が見えねぇのか! お一人様二袋までってあるだろうが!」
「はっ、よく見てみろ、あの壁際! うちはパーティーで来てんだよ! 荒事担当の俺が纏めて持ってるだけで――」
罵り合い、奪い合いなど当たり前。買いに来て実際に商品を手に取っているのは、それこそ荒事が専門ですと言わんがばかりの男たちが殆どだった。
「頂いた」
「なっ、早ぇぇ?!」
少数ながら細身の人物も居たが、こちらは身のこなしがまるで風。
「まるで何が何だかわからなかった上に商品なんて一つも買えず、結局安売りは諦めて普通の保存食を買ったんでしたっけ……」
一般客の来る場所ではなかったのだ、そこは。
「だというのに、なぜ僕はまた来てしまったんでしょうね」
先ほどの罵り合いは、僕の回想ではなく、現在進行形で少し先から聞こえてくる現実のモノである。
「いえ、理由は解かってるんです」
少しでも多い保存食を手にすることを考えた場合、安売りに飛びつかない筈はない。
「こう、猛者同士がぶつかり合って」
共倒れしたところで漁夫の利を狙えたら、なんて考えたが、甘すぎた。かと言って、ここで技能書を使うのはちょっと違う気がする。そも、先の技能書窃盗による街の厳戒態勢は解けてないのだ。
「そう言う意味で言うなら、街を出る僕も引き留められてあれこれ聞かれそうではあるんですけどね」
その時は袋の中を見せて、これの処分を頼まれたが街でたき火はできないので外で燃やしてくるつもりなんですと話すつもりでいる。
「ごみ処理に関しては冒険ギルドに依頼が持ち込まれることもありますからね」
実際、処分するモノは別だが、仕事としてやったことだってある。だからこそ、その説明で切り抜けられると僕は思っているわけだが。
「でやぁ」
「おらぁっ」
「とりあえず……今回も諦めるしかなさそうですね」
いつの間にか罵り合いは殴り合いに発展したらしい。バキッだのメシッだのと痛そうな音が聞こえ始めた時点で、嘆息と共に踵を返すことは決めていた。量が少なくなることは仕方ないと受け止めて、向かう先は前に来たときと同じ、通常の保存食が並ぶ一角。
「はー、やっぱり無理だわ、あれは」
諦め妥協する利用者も僕だけではないらしく、視線だけ戦場の方に向け嘆息している旅装の男が一人。
「ですよね」
苦笑しつつそう同意したくなったのは、僕が一人だからか。
「まぁ、仕方ないことですよね」
とんでもない技能を所持しているという明かせない秘密がある以上、己の身を守れるようになるまでは、孤独も甘んじるしかない。
「さてと、さっさと買い物を済ませてしまわないと」
時間は有限で貴重なのだ。公爵の暗殺までにどれだけ猶予があるかすら今の僕にはわかっていないのだから。
「確か肉の保存食は塩味が強いから調味料としても使えるんでしたよね」
ふやかして柔らかくする意味合いでも、細かく刻んでスープの具にするといいと先生は教えてくれた。もちろん、火が使えて耐熱性の容器、そして水があることが前提での話だが。
「水は川の水を沸かして使えば、いいかな?」
紙屑が大量にあるので燃料には困らない。大きめで金属製の直接火にかけられるマグか何かがあれば、いける筈。
「と言うことは、もう一軒店に寄らないといけなさそうですね」
しっかり考えて居たつもりだったが、後から必要なモノを思い出す辺り、迂闊さにため息が出る。もっとも、まだ保存食の数を減らせば取り返しがつく段階ではあるのだが。
「容器を買うお金を保存食で使いきってたら、また資金調達しないといけませんでしたからね」
古本屋をもう一度は流石に勘弁願いたかった。




