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この一時が


「ふぅ」


 この一時の平穏が朝まで続いてくれるのか、ただの嵐の前の静けさなのか、僕にはわからない。


「予想外に走り回ったりしましたし、明日本格的に動くなら少しでも休んでおいた方がいいような気もするんですけどね……」


 この状況下で寝られる程太い神経の持ち合わせが、僕にはない。時間を有効利用するなら、技能を行使するというのもありだが、役に立たない本なんかが出たとき置くスペースについてはかなり心もとなく。


「荷物に水筒入れてましたっけ?」


 思い出したように再認識した喉の渇きに、付与品の虫よけを出してそのままだった荷物袋を引き寄せる。


「あ、あった……そうか、場合によっては複数の古本屋回ることもありえましたもんね」


 喉が渇くこともあるだろうと思って自分でいれたのだろう。それどころではない事態の連続で忍ばせていたことも忘れていたが、この際ありがたい。すぐさま取り出して封を開け。


「んっ、ぷはっ」


 一気に飲み干したい誘惑に駆られたが、軽くするのは三分の一程度にとどめ、触れていた口を水筒からはなす。


「ただの水の筈なのに、沁みますね」


 ともあれ、一心地つけたのは事実で。


「さてと」


 せめてこれからどうしようか考えましょうかと思った身体に何かが触れた。


「……お姉、さん」

「えーと、僕は男なんですけど」


 仕込まれたのは護身術までで本格的に戦闘向きに身体を鍛えたわけではないし、貴族の出と言うこともあって、ギルドで出会った肉体労働で生きてきた日雇い労働者と比べるとひょろひょろなのは否めない。


「けど、それでも異性と勘違いされる要素はない筈なんですけどね」


 訝しむが、この少女はある意味で恩人でもある。邪険にするつもりはない。添い寝するつもりもそんな広さもないが、少女に触れられたところはそのままに、僕は水筒を荷物にしまった。


「それよりも――」


 少女の言で思い出したが、夕方も外が危険地帯になるというのはこの子が「お姉さん」から教えられた話だった筈だ。


「姉、もしくは面倒を見てくれる同性の年長者が以前は居た、ということですよね」


 治安も良くなく生活環境も劣悪。今そばに居ない理由についてはいくらでも思いつくが、どれも想像の域は出ない。


「結局のところ現状は身寄りなしということで――」


 病の原因を取り除きはしたが、僕がしたのはそれだけだ。自身がこのスラム地区を抜けて宿に帰ることすらできていない僕に、この子の居場所を作ってやることなんて不可能だ。あの飲食店の店主の話にのって店で働き、ある程度のたくわえができたら小さな少女一人を養うことぐらいなら可能かもしれないが。


「達成しなきゃいけない条件が多すぎますね」


 いずれにしても、僕がしないといけないのは、この地区を出ることだ。


「そして、忘れてはいけないのが僕を追いまわしてくれた連中ですけど」


 街中を騒ぎになることすら辞さず僕を追いかけまわしたのだ。僕がここに居るということで未だ成果なしの状況ではある筈だが。


「スラム地区に入り込んだあの辺りで僕が出てくるのを待ってる……なんてことは流石にない筈」


 この時間では地区の入り口も十分危険地帯になってると思う。スラムの住人に襲われてみぐるみを剥がされたり命を奪われていようが、僕としては欠片も同情しないが、そこまで考えなしだとは思わない。


「大方、僕はスラムの中で犠牲になったとでも見て、起こした騒ぎのことで衛兵につかまっているか、衛兵から逃げてる最中とかそんなところですよね」


 問題は連中が僕に直接被害を与えて居ないが故に、捕まってもせいぜい半日牢屋にぶち込まれるぐらいで出てくるのではないかと言うことだが。


「いろいろうまく行ってここを抜けたら、釈放されたあの連中と鉢合わせ……はぁ」


 全くないと言いきれないだけに、一応うまく行った想定の話の先のことだというのにため息が出た。


明日の分のフライング(以下略)

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