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予期せぬもの(閲覧注意)

食事中の方はご注意ください。


「絶体絶命」


 その四文字で現状を現すには、情報が不確定すぎる。女性はこちらを見ていたが、バレたかどうかは定かでない。とはいうものの、今の僕が後ろを振り返ったところで、幼い少女が一人横たわって寝て居るスペースが存在するだけだ。


「逃げ場はない」


 バレた時点で、四文字は現実となる。僕にできるのは、女性が気づかず立ち去るという僕にとって都合のいい未来が訪れるのを願うことぐらい。


「んんっ」

「っ」


 ただ、息を殺し、外に集中していたばかりに、突然後方から聞こえた小さなうめき声で、心臓が止まりかけた。


「あ、あぁ……寝ていたんですよね」


 横たわっていることは認識していたはずだし、薄情かもしれないが、今の僕にとっては外の女性への警戒でいっぱいいっぱい、神経を張り詰めさせていたのだ。むしろ、意表をつかれて悲鳴を上げなかったことをほめて欲しい。


「とはいえ――」


 寝て居て具合が悪そうという訳ではないなら、少し申し訳ないがこの子の事は後回しで良いだろう。


「今はそっちを気にしているような状況じゃ――」

「ん……おしっこ」


 ないと言おうとした僕は、少女が口にした言葉に固まった。


「ちょ」


 言葉の意味は分かる。言わんとすることと言うか、したいこともわかるつもりだ。


「だけれども――」


 時と状況とか、そう言うモノがありますよねとツッコむことは出来ない。喚き散らすことも。板を支えているので手を自由にすることもままならず。


「あ」

「ん……」


 止めることすらできぬまま、少女は板の隙間から外へと。


「この時間に外に出るんは自殺行為じゃありませんでしたっけ?」


 などと呟いてみるが、板のすぐ反対側なら危ないと思えばすぐ隠れられるから大丈夫とか、流石に寝床で用を足すわけにもいかないとか、理由はあるのだろう。だが、今しがたまで女性はこちらをみていたのだ。少女が目撃されたのは間違いなく。


「あぁ」


 板の隙間から覗けば、女性の顔の向きは僕の支える板とは別の方に向いていた。


「まさか、こんなことでバレるなんて……」


 想定外だった。急いでこの板の裏に隠れて散々心臓に悪い思いをしたのは、何だったのだろう。へたり込みそうになりながらも、視線は女性から放せない。


「今視認できてるのは、女性だけ」


 裂け目からは部下らしき人物の姿は確認できておらず。


「まだどこかに乗じる隙が――」


 あるかもしれない、と言うより早く女性が顔の向きを変えた。と言うか、身体ごとくるりと背を向け。


「え?」


 何がどうしたのかを理解するより早く、近くで水音がした。


「あー」


 少女がナニをするかを察して目を背けたのだと思う。僕もできるだけ音は聞かなかったことにして板の隙間から空を仰いだ。


「一番星、かはわかりませんけれど……」


 いつの間にかずいぶん夜の色に近づいた空に、輝く星が一つ見え。


「ん……」


 目じりをこすりつつ寝ぼけ眼で少女が戻ってくるまでそれほど時間はかからなかった。僕は少女が引っ込むのに合わせて板の隙間を閉じ。


「あれ?」


 隙間を閉じるためにいったん視線を切らざるを得なかった隙間から外を除くと、女性が背を向けたまま去ってゆくところだった。


「どうし……ひょっとして、見つかったのはこの子だけで、僕に気づかなかったとか?」


 この少女は元々ここを寝床にしていた路上生活者の様だ。もしあの女性がそこまで把握していたなら、いつもの場所にいつもの少女がいた、で興味を失ってもふしぎはないような気もする。


「少々僕に都合が良すぎる気もするんですけど……これって助かったんですかね?」


 どことなく腑に落ちないモノを感じつつも、窮地を脱したかもしれないのは事実であり。


「はぁ」


 今度こそ脱力した僕はその場にへたり込んだのだった。


12日分をフライング更新。

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