それから
「追っ手の回避も余裕というか、普通に反則ですよね、未来予知」
最上級悪魔によって追手がどちらに向かうかが判明してしまうというのもだが、それ以上に複雑だったのは、悪魔の未来予知で知らされた僕とミリティアの実家の末路だった。
「世界が変わる、ですか」
今まで無価値とか厄介ものにされていた技能に目覚めなかった者や使えない技能しか持てなかった者に付加価値が見いだされ、この国は大混乱に陥るのだという。
「最初に発見したのはこの国の盗賊ギルドの上層部らしいが、主のような立ち位置の者が隣国に出現してな。そちらは隠すことなく強力な技能の持ち主であると公言していたものの、実際にできることは何もなかった為に嘘つき呼ばわりされていたらしい」
だが、僕同様熟練度を上げ、目に見えて成果が出せるようになると評価が一変。しかもそれによって、全く役に立たない技能というのは真価を発揮できるところまで成長できていない強力な技能なのではと人々が疑いを持つようになるらしく。
「トドメとばかりに自身を守れるようになった未来の主が、今度は自己の防衛のため自身の能力を公表した。どう逆立ちしても勝てない相手に挑んでくる者はいないだろうという判断だな」
「あー。まぁ、最上級悪魔一人従えてるってだけでよほどの馬鹿でなければケンカを売ってきたりしませんよね」
企んだ段階で未来予知によって察知され、潰されるのだ。ぶっちゃけ敵に回した場合、どうすれば勝てるのか、僕にも見当がつかない。
「まぁ、いつまで逃亡生活が続くのか気になって質問したのが僕ですから、どうこう言う資格はないんでしょうけど……未来がわかるっていうのも考え物ですよね」
こう、結果がわかってしまうとモチベーションが維持できないというか。
「まぁ、そのおかげでわかったこともあるんですけど」
例えばこれから合流する予定のムレイフさんは信用して良い、とかだ。臆病者の僕としては他人を信じるのは怖いのだが、実際生涯裏切らなかったと未来を知る最上級悪魔に言われてしまうと反論の余地はなく。
「そろそろ北門に向かった方がいいぞ。そうすれば待つ必要もない」
「そ、そう」
至れり尽くせりな助言に微妙な顔をしつつ、僕はカウンターへ向かった。これから宿を出てムレイフさんを迎えに行くのだ。
「ヴァルク、そろそろなの?」
「う、うん」
ロビーのソファに座り僕を見かけて声をかけてきたミリティアに頷きを返すと、そのままチェックアウトの手続きもする予定だ。
「南は安直すぎたんですよね」
知らされた追手の動きを思い出しつつ、小声で漏らし僕はすみませんと宿の従業員へ声をかけるのだった。
という訳で、物語はいったん幕となります。
こう、書いてて微妙にこれでよかったかなと首をかしげる部分があったというのもあるのですが、このままだと惰性で続いちゃいそうなので。
この話を仕立て直すか、第二部に続けるかはまだ未定ですが、まだ筆を止めるつもりはありませんので、またどこかでお会いしましょう。
それでは。