一つの矛盾
「もしあの悪魔の主がこの時を司る悪魔だとするなら――」
気になるのは、まず危険視されたという時を遡る力がどうなっているかだ。書物に封印された時点でなにもできなくなっていたならまだいい。
「全く何もできない訳ではなくて、『書物から出られないけれど修行みたいなことは可能で、時を遡ることもできるようになってました』とかだと――」
封印されていたモノから出た瞬間、時を遡ってやりたい放題しかねない。
「こう、封印されたのをなかったことにするみたいな過去と矛盾することは出来ないと思いますけど……ん?」
「どうしたの、ヴァルク?」
「いえ、封印が解かれてて過去にさかのぼれるなら、僕に燃やされた件とかどうにかなっていたんじゃと思いまして」
それに、恥をかかされた上に燃やされたことに復讐するのであれば、僕を差し向けるだろうか。
「普通そういう場合の逆襲って本人が出張ってくると思うんですよね」
そこに僕しか来ていないという時点でちぐはぐさがぬぐえない。
「だいたい、僕の技能って取り出したモノを支配できるんですよね」
しかもそれが封印されていた中身であっても、のはず。
「支配されてしまうとしたら、封印どころじゃありませんよね? 僕が相手なら技能が封印された書物を取り出せるようになる前に……あ」
そこまで考えて一つの仮説が立った。
「ヴァルク?」
「ちょっと思い至ったことがありまして」
僕の思いたことが正しいかはわからない、だが現状と照らし合わせてみると矛盾はなく。
「それはそれ、これはこれですね」
僕は引き続き技能を行使する。技能の熟練度上げ自体はやっておいて損はないモノであるし、予想をはずしているということだってありうる。
「もっとも、こっちの方もどうにかしないと拙いんですけどね」
苦笑しつつベッドの脇に視線を向けるとそこにあったのは本を積んでできた複数の塔。
「暖炉で燃やしてしまうとまたこれが戻ってきてしまう、と言うのはあるんですけどね」
モノが燃えるにも時間はかかる。持って帰れない以上は処分し始めるしかなかった。