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隣の君に


「もっとも、そんなことを気にしてる暇があるなら技能を使えって話ですよね」


 技能書を使ったことで、晴れて僕達は世の中でも希少な技能を複数持ちの仲間入りは果たしたわけだが、この程度であの悪魔がどうにかなるとは思い難い。


「前の時はいつ現れたかもわからなかった」


 技能書で戦闘技能を得たことで知覚力も増したであろう今なら気配的なモノを察知できるようになっているかもしれないが、それで悪魔の気配をとらえられるかといわれると疑問が残る。


「せいぜい少しマシになった程度でしかないと考えたほうがよさそうですよね。相手の力が未知数なら脅威度は盛って考えたほうがいい筈」


 となると、やはり技能で出てくるモノ頼りになってしまうわけだが。


「ヴァルク、いつもこうなの?」

「いえ、前と比べるとマシな方ですよ。熟練度が足りなくて紙くずになってしまったモノを燃やして処分したり、使って消費してしまった付与品がある分、付与品みたいな強力なモノの出る割合は上がってます。紙人形もですけど、技能書は三回復元して取り出せてますし」


 その三回目に取り出した技能書はムレイフさん用のつもりでストレージに戻してある。


「とはいうものの、決め手になるようなモノは取り出せてないわけですし」


 今できるのはこうして当たりを引くまで延々技能を使い続けることぐらいだろう。悪魔の襲撃を考えなくていいのは今日だけなのだから。


「あ」

「どうしたの、ヴァルク?」

「いえ、悪魔で思い出したんですけど、件の悪魔がどう言う悪魔で、その主の方もどういう存在なのかも調べようと思ってて、結局調べられていないことを今思い出したんですよ」


 こう、いろいろなことがあっていっぱいいっぱいだったので大目に見てほしいと切に思う。


「なるほど、調べてみる価値はありそうね」

「ええ。ですけど、調べものと技能の行使を同時にやるのは」

「あぁ、それもそうね。けど、悪魔を直に見たのはヴァルクだけなんでしょう?」

「問題はそれなんですよね」


 ミリティアに代わりに調べてもらうとなると、僕が口で説明した悪魔の外見をもとに探してもらうことになる。思い返すとあの悪魔は名乗っていないのだ。手がかりが容姿という情報しかない上にそれが僕の語彙と表現力の及ぶ範囲という制約をされてしまう。見つかる可能性がさらに低くなるということであり。


「ううん、けど全く情報がないってわけではないし、こうして寝転んでるだけも手持無沙汰だから」


 ダメもとでもやってみるわと言うミリティアに僕はすみませんと軽く頭を下げてからストレージ内にあった悪魔関係の書籍を取り出し、隣で横になっているミリティアに手渡すのだった。




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