やれることをやる
「それはそれとして――」
伝えるべきことはすべて伝えた、だが問題が解決したわけでもない。
「今真っ先に対策を練るべきは最後に話した悪魔の件なんですよね」
これについては明かすか迷ったが、あの悪魔がミリティアを襲って人質にと言うことが十分考えられる以上、話すのは止む得ぬことだった。狙われる可能性があることを知らなければ技能があるから大丈夫と単独で出歩いてしまうかもしれないのだ。
「僕の技能の熟練度が上がれば、何らかの対抗手段になりうるものを復元して取り出せるようになるかもしれませんから」
「熟練度上げは避けて通れず、効率を考えるなら私の前で隠すことなく技能を使える状況の方がありがたいって訳ね」
「ええ」
呑み込みが早くて助かった、偽りなく僕はそう思う。思うが。
「と言うことはまたあんな本が出てくるかもしれないってことよね? それに、確率を考えればアレが初めてとは思いづらいのだけど」
「そこには思い至らないで欲しかったなぁ……」
僕が思わず遠くを見てしまったのは、きっと仕方ないことだと思う。ミリティアに知られたくなくてわざわざ手間をかけ、リスクまで背負っていかがわしい本だけ回収したというのに。
「それと、ミリティアには念の為にこの技能書を後で使ってもらうことになると思います」
言いつつストレージから取り出したのは、街で盗まれて使われ、僕が復元し取り出した例の技能書だ。
「……話は聞いたけれど、本当に反則級ね」
「これに関しては近くで消失したのと直接ではないものの僕が関わったから熟練度不足でも復元できたんでしょうけどね」
悪魔自身がそれを使ったぐらいではどうにもならないと言っていたが、打てる手は打つべきだ。あの悪魔の言葉に嘘が無いなら、明日になるまで襲撃はない。
「技能書から得た技能が身体になじむまで、普段通りに身体を動かせなくなるそうですからね」
この部屋で休憩してる分にはまともに動けなくなっても何の問題もないだろう。
「悪魔によると、追っ手も放たれているようですし」
僕とミリティアの二人がともに剣を扱って戦えるようになっていれば、逃亡もより容易になる。




