時と場所を選んでほしいというのは贅沢なのか・後
「危機感のない貴様のことだ。何故我がここにいるかもわからぬかもしれんだろうから、敢えて言おう」
どうやら説明はしてくれるらしいが、内容がありがたいモノになるとは到底思えない。
「用を足しに来たとか」
と想像力が空気を読まずアホなことを浮かべたのは、この現実から逃げたいという僕の願望によるものか。当然だが、口には出さない。悪魔と名乗った相手の機嫌を損ねるようなことをここで口にすれば自体が悪い方に向かうことはあっても、良い方に向かうことはありえないからだ。
「我が主は貴様に焼かれた」
「え゛」
悪魔の口にした内容に引きつった僕の口から、声が漏れる。何と言うか、ものすごく心当たりがあった。そう、街の外で紙屑を纏めて燃やした時に上がった断末魔を数日で忘れる程、僕は耄碌していない。
「じゃ、まさか――」
「まさか? あれだけのことをして、何もないと思っていたのか?」
呆れ以外の感情を見せず、ただ僕を見据える悪魔の視線は僕の想像を肯定しているようであり。
「貴様の罪、ただ貴様の命だけで償えるようなモノではない。故にまずは貴様の家族を」
「えっ」
予想が外れた僕は思わず悪魔の方を振り返った。
「ぬ? なんだその反応は? ここは『僕の命はどうなってもいいから家族だけは』と泣きつくところではないのか?」
ただ、僕のリアクションは悪魔にとっても想定外であったらしい。
「あ」
思わず素の反応をしてしまったが、ここで悪魔の言う通りの反応を見せて居れば時間が稼げたのかもしれない。とはいっても、時間稼ぎのためとは言え、折り合いも悪く僕を冷遇していた家族の命乞いをするのにも若干の抵抗があり。
「くそっ、どうなっている」
立ち尽くす僕の前で鎧の様なモノの隙間に指を突っ込んだ悪魔は折りたたまれた紙を取り出し、広げて目を落とす。
「ふむ、何々……」
「えーと」
何かメモみたいなの確認し始めたのですが、この悪魔。
「なる程、貴様は家族との折り合いが悪いのか。ぐうっ、言葉選びを間違えた」
こう、直前までの強者感が台無しと言うか、酷く残念な印象を僕に抱かせるも、気にせず悪魔はどうやら僕のリアクションが微妙だった理由にたどり着いて顔を歪めた。
「と言うか、そんな事まで記載してあるんですか、それ」
「フン、当然であろう」
思わず尋ねてしまうと、悪魔は得意げに胸をそらすが、記載してあるのに失念しておるのってかなりダメダメなのではないだろうか。
「それだけではない、貴様の技能のことも我は把握済みよ。熟練度が足りず、我を退ける術すらないこともな」
「なっ」
ただ、ダメダメなのは僕の方であったらしい。秘匿していた事まで知られている何て想定外が過ぎた。




