騒ぎの後で「フロント公爵視点」
「しかし、まさかあの者が裏切っておったとはな」
わたしは窓の外を見やりつつポツリと呟いた。突然届いた付与品である手紙。半信半疑ではあったが、具体的すぎる暗殺計画の内容に信の置ける者を密かに呼び出し調べさせてみれば、まさに記載されていた内容の通り。
「わたしが呼んだわけではないが、八衆はいずれもわたし自身が目をかけ、信頼していた者達だ」
誰もが他の者から羨まれるほどの技能を持ち、わたしは彼らに幾度も助けられている。故に裏切られていたなどとは露にも思わなかった。だからこそ、付与品の手紙で知らされることが無ければ、あの男の企てた計画はうまくゆき、数日後にはわたしの命もなかったことだろう。
「手紙の主には感謝せねばな」
わたしはまだ後継者を指名していない。あのまま討たれていたなら、血で血を洗う凄惨な後継者争いが起きていてもおかしくはない。
「裏切者はまだ息がある。首謀者かどうかを吐かせ、黒幕が居るならそちらも聞き出さねばならん」
公爵と言う身分ともなれば、狙われる心当たりとて片手の指では収まらない。
「が、そうだな」
いかな方法かは知らぬものの、わたしに悟らせることなく綿密に立てられた暗殺計画を詳細に調べ上げ警告した、恩人。
「欲しい」
どのような素性のものかはっきりしないとまでは言わん。あの付与品でわたしに手紙を送ってこられたということは、縁戚関係にあるかわたしが親しくする者の誰かであるからだ。
「八衆の席も一つ空いたことだ。何とかしてこの手紙の主を招くことはできまいか……流石にどこかの家の当主や嫡男となると厳しいかもしんが」
それならそれで手もある。わたしにはまだ独り身の孫娘がいるのだ。部下と言う形では無理でも孫娘を嫁がせることで身内に抱え込むという手もある。
「先祖から預かったこの領地の運営、公爵としての役目、いずれも完ぺきにこなしているとは言い難い」
だからこそ優れた臣下が必要だと思っていた。
「そうして集めた者から裏切者が出るとは、笑い話にすらならぬよ」
このままでは同じことを繰り返さない保証がない。だから、手紙の忠告者の様なわたしの身を案じ情報を探ることに長けた者が必要なのだ。
「しかし、何者であろうな」
すぐに思い当たる該当者が居ないことが、わたしを唸らせる。だが、あきらめるつもりもなかった。




