睦み事?
「あっさり出られたわね」
なんだか拍子抜けだわとミリティアが漏らしたのは、町の入り口を出て暫くしてからだった。門番の兵士には聞かせられないから、そこまでは夫婦を装って取り留めない会話をしていたわけだけれど。
「まぁ、変なトラブルに巻き込まれたりしなかったのは喜ばしいことですし」
想定外のアクシデントに見舞われた記憶のまだ新しい僕としては、退屈でも平穏で何もないことは大歓迎だ。
「無事町を出たとはいっても、ダーハンまではまだ距離があるんですよね。徒歩でも数日かかるような距離ではないとはいっても、町の外。危険な獣とか居るかもしれませんし」
捨てられて野生化した犬、いわゆる野犬でも群れれば僕にとっては脅威だ。ミリティアならばあっさり眠らせて終わりだろうけれど。
「まぁ、確かに警戒するにはこしたことはないかもしれないわね。町に居られなくなったならず者や流民、食いつめた村人が山賊や盗賊に身をやつすなんてこともあるかもしれないもの」
「この国は、その中でもこの辺りは比較的そう言うのは希少とも聞きますけどね」
あの日二人で旅をすると約束してから、その手の情報には僕もミリティアも耳を傾けるようになった。集めた情報を基に、あっちは治安が悪いから避けようだとか、北は寒すぎるから行くなら南がいいとかいろいろ話をしたものだ。
「けど、危険ですか……」
「ヴァルク?」
「いえ、僕の護身術が通用するかなと思いまして……」
訝しんだミリティアに明かすのはふと考えたことの半分だけ。流石に技能書を使うべきか考えただなんて明かせない。
「大丈夫よ、いざとなれば獣でも悪人でも眠らせちゃうもの」
「あー、心強くはあるんですけど……その、大丈夫ですか?」
ミリティアは笑い飛ばすが、僕としては気になることがあり。
「っ、そうね。ヴァルク‥…いい?」
「ええ」
どことなく恥ずかしそうに顔を染めつつこちらを窺うミリティアに、僕は頷くと自身の襟元に手を伸ばす。ミリティアの技能には過度に使用すると副作用があるのだが、これを逃れる方法も存在する。
「とりあえず、誰か近づいて来たら教えますね」
「お願い」
短く答えたミリティアは、肌蹴させた僕の胸元に顔を寄せ、大きく息を吸い込んだのだった。




