服とスカートと
「これなんか似合うんじゃない?」
「お〜! 似合うと思う!」
二人がきゃっきゃとあれこれ服を選んでいるのを横目に、俺は何度目か分からない溜息を吐く。
今いるのは街の大通りにある一軒の服屋の中で、エレナとゼナが嬉々として選んでいるのは自分たちの服――ではなく、俺の服である。
あれから二人に両腕を引っ張られながら半ば引きずられるような形で服屋を回り、累計五件程の服屋を巡ってきた。
あれでもないこれでもないと言いながらまるで着せ替え人形かのように数々の服を着せられてきた俺は、正直かなりグロッキー状態になっている。
「……もう適当にこの辺にある服でいいんじゃない?」
元々服というものに然程拘りがある訳でもないので、さっさと現状から解放されたいがためにそう提案するのだが――
「何言ってるの、これより似合う服は幾らでもあるわよ?」
「うんうん。せっかくなんだからお洒落しないと!」
――と、即座に断られてしまうのだった。
ちなみに今の自分の姿は、当初のものとは少し変わってしまっている。
上半身に纏っているのは胸元が少し空いていて前面を覆う部分から二の腕部分に布が伸び背中部分に繋がっている、黒を基調とした独特なデザインの服だ。
若干露出が多い気もするが、上に着るもの次第では気にならないだろう。
実際今も元々着ていたシャツを羽織っている状態になっている。
この服は一番最初に訪れた店で選ばれるがままに試着して購入したものだが、デザイン自体は割と気に入っているのだ。
そして長らく忌避していたブラジャーなるものも買う羽目にもなってしまった。
まぁその点は今の成長した姿だと胸も少し大きくなっているため、確かに必要ということで受け入れたのだが……
今までつけたこともない物をいきなりつけろと言われてもつけ方が分からない状態で、エレナにレクチャーされながらようやく一人でつけられるようになった。
密室で女の子――もちろんエレナの事だが――からブラジャーのつけ方を教わるというなんともいえない体験をしたが、恐らくこの世界に来てから得た知識で一番微妙なものだったと思う。
何故なら元に戻ったらつける気がさらさら無い上に、元々男だった俺がこんな知識を得てどうするのかという話だ――当然前者も後者も二人には言えない事なので、心の中に留めておくけど。
もっとも店員曰くこの服はブラをつけないで着るタイプらしいので、今はつけていない状態だが……まぁ、次回以降この姿になる時はつけといた方が良さそうではある。じゃないとまた二人にお小言を貰ってしまうから。
次に下だが、三件目くらいの店で二人が選んできた膝上くらいの長さの生地の薄いスカートを履いている。
流石の俺もスカートの下にズボンを履くのはどうかと思ったので、代わりに店で見かけたスパッツのようなものも着用してはいるのだが、これがなんとも落ち着かない。
というのも初めてスカートを履いた時から思ってることなのだが、やたらとすーすーしているのだ。
まだ暑さが残る気候とはいえ、ちょっとした風が吹いたときにお尻や内股へ直に風が当たるあの感覚は慣れそうにもない。それにスカートがめくれ上がる感じも。
移動中に辺りから視線を感じていたのは気のせいじゃ無いだろう。きっとこのスカートのせいだ。
――というか女の子って何でこんな服を好んで着るのだろうか?
機能面で考えたらズボンの方が遥かにいいと思うんだけどなぁ。
まぁ見ている側としてはスカートの方が女の子らしくて良いと思ってたけど、いざ着る側になると話は別だということがよく分かったよ。
やっぱり履くなら断然ズボンがいいね、うん。
……そんな俺の思いなんて知る由も無いエレナとゼナの二人が、次から次へと可愛らしいスカート付きの服を持ってくるからたまったものでは無い。
しかもそれを着なくちゃいけないのがまた余計に気分を憂鬱にさせてくる原因となっているのだった。
そうしてどれくらいの時間が過ぎただろうか。俺を着せ替えるのに満足した様子の二人からようやく解放されたころには、街並みはすっかり茜色に染まっていた。
そして俺の両手はあの店で買ったインテリアの入った袋と、大量の服が入った袋によって塞がった状態に。
割と重量があってキツかったので、一応肉体強化の魔法を使っておく。
魔法があるって便利だよね。
「わ、もうこんなに陽が落ちてる!」
「結構時間を掛けて見てたのね」
あっという間だったねと話し合う二人。
うん……かなり掛けてましたからね、俺の着せ替えに。
俺も最後の方は開き直って楽しむようにしてたから、なんとも言えないんだけど。
「そろそろ宿に戻ろうか。まともに寝れてないもんね、三人共」
「そうね。今日はベッドでゆっくりと休みましょ」
「賛成!」
そんな会話の後、宿への帰路に着く。
来る時よりも少し高い視線から見る街の風景は、赤く染まっている事もあってか全く違うものに見えた。
宿へと戻って来る頃には陽も完全に沈み込み、夜の帳が下りていた。
三人揃って宿屋の一階にある食事処で夕飯を済ませた後に順番で風呂へと入り、ベッドへと沈み込む。
この二日間で色々な事があったなぁと考えているうちに、両脇から規則正しい寝息が聞こえ始めた。
――明日は手伝いもあるし、今日は早いとこ寝ておくかな。
二人の寝息を子守唄にしながら徐々に訪れた睡魔に身を任せ、意識を手放した。





