悪戯
「これが成長した姿……」
鏡に映る自分の姿を見て思わず呟く。
元々整った顔立ちだったものから幼さが抜け、大人の女性といった相貌へと変化している。
手足もモデル顔負けといった感じですらりとしており、身長は百六十センチくらいには伸びているだろうか。
身体が成長した事で小さくなったシャツ、裾が足りなくなり臍が見えそうになってる腹部。
少し視線を上げるとそこには豊満な胸元が……あるわけではなく、残念ながら胸はあまり成長していない様子だった。
それでもいくらかは大きくなっているようで、少し窮屈に感じる程度の大きさには育っているようだ。
スレンダーなのは相変わらず、といった感じである。
この姿でシャツ一枚というのは色々と危ないかもしれない。
「どうだい、気に入ったかな?」
「凄いですね……というかどういう仕組みなんですかこれ」
魔法がある世界なんだから、何があってもおかしくはないのかもしれないけど。
「いくつかの霊薬をちょいちょいと。詳しくは秘密だけど」
店主は曖昧な答えを返してきた――企業秘密というやつだろうか?
詳しい話を聞いたところで理解できたかは微妙なところだけど。
「それで、気に入ったなら買っていくかい?」
「ちょっと欲しいところですけど、高いんですよね?」
「ん? いや……趣味で作った物だし安くするよ」
ついでに他にも何か買って行ってくれるとありがたいけどね、と店主。
そういう事ならと、購入することを決意。
今まで部屋が殺風景だったし少し小物を飾るのも悪く無いかな? なんて考えから、ついでに途中見つけた文字が動く本を含めた珍しいインテリアも数点買うことに。
ちなみに色々買った結果、件の薬はほぼタダ同然の金額に設定してくれたようだ――そんなにほいほいと安くしていいんだろうか?
そうして買い物を終えて入り口付近まで戻ると、未だに装飾品とにらめっこを続けるゼナの姿があった。
「まだ見てたんだ?」
両手に取ったネックレスを真剣な表情で見比べている彼女に声を掛ける。
「うん、だってどれも綺麗だから。ユーキお姉ちゃん、これなんか――」
そう言いながらゼナが振り向き、見せようとしていたらしいネックレスを掲げた状態で固まる。
そしてしばらくそうしていたかと思うと、急に頭をぺこぺこと下げ始めた。
「ごめんなさいごめんなさい! 人違いでした!」
突然のことに何事かと思ったが、今の自分の状態を思い出して納得。
そういえば大人の姿になっているんだった――ん、どうせなら少しこの状況を楽しもうかな。
そんなちょっとした悪戯心が芽生えた俺は、少し演技をしてみることにした。
「いいえ、気にしないで? でもそんなにその人と似てるのかしら」
「あ……えっと、服装とか髪色はそっくりなんですけど、その、身長とか雰囲気は全然違って……」
少しセリアさんを意識した話し方をしてみると、ゼナがしどろもどろになりながらそう返してくる。
なんだか最初に会った時のことを思い出すなぁ。
出会った当初よりはマシになっているとはいえ、まだ人見知りがあるのかもしれない。
まぁそれもゼナの可愛い所ではあるんだけどね……最近ちょっとエレナに似てきて気が強くなってきてる気もするけど。
「ゼナ、いい加減決まった? ――って、あら?」
そうして戸惑うゼナを見ながら和んでいると、他の場所を見ていたらしいエレナが合流した。
ゼナの隣にいる俺に視線を向けると、顎に人差し指を宛てながら小首を傾げる。
「エレナ姉、丁度良かった!」
「え、何? どういう状況なの?」
近付いてきたゼナに手を握られ、何が起きているのか分からないといった感じでエレナが目を白黒させていた。
……全員揃ったことだし、悪戯はこれくらいでいいかな。
「ごめんね、ゼナ。ちょっとからかうつもりで演技してたんだけど」
「……え? じゃあやっぱり――」
「うん、ユーキで合ってるよ」
「なんだぁ……もう、緊張して損したよぉ……」
ネタばらしをすると安堵からか盛大な溜息を吐くゼナ。
しかし直後に別の疑問が湧いてきたのか、こちらの身体を上から下まで穴が空くかと思うほど見つめてきた。
「えっと、ユーキお姉ちゃんで間違いないんだよね?」
「そうだよ?」
「いや、身長とか雰囲気とか変わりすぎでしょ。最初誰かと思ったわよ」
そう呟いたのは同じく見つめてきていたエレナで、その隣ではゼナが同意するように頷いている。
「あ、この姿ね。結構いい感じじゃない? 十年くらい成長したらこうなるんだってさ」
「元々同性から見ても嫌味なくらい整ってるものね、あなたの容姿」
「嫌味て」
エレナも元いた世界じゃ有り得ないくらい整った容姿なんだけどなぁ。もちろんゼナも。
こっちだと整った容姿の人が多いから、自覚がないのかもしれない。
「結局のところなんでそんな姿になってるの?」
「実は――」
ついさっきまであった出来事をかいつまんで説明していく。
話を聞くうちに両者正反対の反応を示し、終わる頃には――何となく予想できていたが――目を輝かせる側と呆れる側とに分かれていた。
「え、すごい! その薬を飲むと大人になれるの!?」
「よくそんな怪しい物を平然と飲めたわね……」
「いやまぁ、好奇心の方が強くて」
警戒しないで普通に飲んでたが、言われてみれば確かにかなり怪しい薬である。
害がなかったから問題ないけど。
「丸一日って言ったわよね、その薬の効果があるの」
「そうらしいけどね……どうしたの?」
再びエレナが上下に視線を動かしてこちらの頭からつま先まで確認すると、軽く溜息を吐く。
そしてゼナに何やら耳打ちして――されたゼナは徐々に顔が明るくなり――二人に両脇から挟まれるように腕を掴まれた。
「え、なに?」
「これから服屋に行くよ、ユーキお姉ちゃん!」
「明日までその格好じゃマズいでしょ。……というかユーキ、あなた下着着けてないんじゃない?」
「着けてないよ? だって特に必要無かったし」
正確には着け方が分からない上に面倒だったため――なにより恥ずかしさがあったからだが――あれ以来ブラは着けようともしていなかったのだ。
「ユーキ、あなたねぇ……」
「それは良くないよ! 一層服屋に行く理由が増えたね」
「いや、別に下着なんていらないんだけど……」
俺の言葉を聞いた二人に盛大な溜息を吐かれると、両腕をぐいぐいと引かれながら店外へ。
そしてそのまま服屋へと連行されるのだった。





