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空の敵

 ――さて、皆さんがハーピィと聞いて想像するものはどんなものでしょうか。

 大抵の人が思い浮かべるものは、手が羽になっている美しい女性の姿だと思う。実際俺が思い浮かべたのもそれである。


 しかし……頭上で飛び回るハーピィと呼ばれているモノ達は、想像していたものの真逆といっても過言では無かった。


 手が羽になっているというところは想像と変わらない――変わらないのだが、羽の色が黒い。鴉の持つものと変わらないくらい黒く、妙にテカりがある。


 次にその相貌だ。例えば山姥を想像しろと言われた際に浮かぶ顔は、差はあれど醜悪な老婆のものだと思う。

 その顔にある皺が更に深くなり、目付きを鋭くして醜悪さを増したものが今目の前で旋回しているハーピィ達についているのだ。


 想像してた姿は所詮二次創作上のものだし、仕方ないか……期待してなかった、と言ったら大嘘になるけど。


 それにこのハーピィ、見た目だけが酷いという事であればまだ良かったのだが――


「うぇ、酷い匂い……」

「何なの? この鼻を突くような悪臭は……!」


 ――というわけなのだ。

 遅れて荷台から降りてきた二人が代弁してくれたが、なにより匂いが酷いのである。

 生ゴミを長期間放置してもこうはならないだろう。


 鼻が曲がるような匂いを漂わせているハーピィの群れの内の一匹がこちらに襲いかかってきたことによって、戦いの火蓋が切って落とされたのだった。


「【炎よ、息吹と成りて敵を焼き払え】炎の息吹(ファイアブレス)!」


 槍を構えて迎撃の準備をしていたエレナの隣で、突撃してくるハーピィに杖を向けて呪文を唱えるゼナ。

 意外なことに、真っ先に動いたのが彼女だった。


 杖の先から噴射した炎が近付いてきたハーピィを飲み込むと、そのまま全身を焼き尽くす。

 眼前に黒煙を上げながら落下した半人半鳥の魔物は、最後にピクリと足を動かすとそのまま生き絶えたようだ。


 生き物が焼ける不快な匂いと、ハーピィの放つ悪臭が混ざり合い、形容しがたい異臭が辺りに充満する。


「お〜、凄いねゼナ。……でも臭いが余計酷くなるから、炎魔法以外でお願いね……」

「うん、そうだね……次から違うの使うようにする」


 あまりの悪臭に鼻元を覆いつつ一言釘を刺すと、ゼナも匂いに耐えられなかったのか、鼻をつまみながらそう返してきた。

 炎系の魔法で焼き尽くせるならそれが一番早くて楽なんだろうけど――この数のハーピィが全て焼き鳥になったら、とんでもないことになる未来しか見えない。


 そんな会話をしているうちに、仲間がやられたことに激昂したハーピィが次々とこちらに向かって突っ込んでくる。

 接近してきたものはエレナが突き、遠くにいるものはゼナが魔法で――主に前にジェシカさんが使っていた風魔法を使って――端から倒していく。


 俺はガリスさんと馬車に近付いてくるものを光の矢で射抜いて落としながら、二人の死角にいるハーピィを狙い撃つ。


「こういう時、遠距離を攻撃できる魔法が使えるのは羨ましいわね」

「近付かれたら間に合わないし、エレナ姉みたいに動けるの方が羨ましいけどなぁ」


 魔法で攻撃を続ける姿を見て嘆息するエレナに、ゼナがそんな言葉を返す。


「そうかしら? あそこに平然と対応してる人がいるみたいだけど?」


 今まさに接近してきたハーピィを魔法で射抜いた俺を指差し、呆れ顔を見せるエレナ。


「……詠唱しないで魔法使えるのがおかしいんだよ――【風よ、刃となりて敵を切り裂け】風刃(ウィンドカッター)! ――あんなのは変態なユーキお姉ちゃんにしか出来ないから」

「ちょいとゼナ、変態は酷くない!? ――聖なる矢(ホーリーアロー)!」


 途中で魔法詠唱をしながらそう返すゼナに、抗議の意を表してから敵を撃ち落とし続ける。

 まぁ多少は規格外なのかなぁ? なんて思ったりすることが無いわけでもないけど、変態と言われるのは誠に遺憾だ。


 数十匹いたハーピィも気がつくと残り一匹となっており、その最後の一匹をゼナが撃ち落とす事で戦いは終わりを迎えたのだった。


「いやぁ、皆さん素晴らしいですね。ギルドが太鼓判を押すのも納得です」


 戦闘を終えて馬車へと戻ってきた俺たちを見て、拍手しながら讃えるガリスさん。

 太鼓判を押されるほどのことはしていない筈なので、なんとなくこそばゆい感じになってしまう。


「ガリスさんが無事で良かったです。あと馬車も」

「皆さんのおかげですね、ありがとうございました。――それにしても、なんでここにハーピィがいたんでしょう……」


 ガリスさんは俺の言葉にお辞儀しながらお礼を言うと、そんな疑問を口にした。

 そもそもハーピィがどんな生態かわからないので、ここにいる事が不思議なことなのかも分からないのだが……


「普段はこういう所にはいないんですか?」

「ハーピィは高山に生息する魔物ですからね。本来はこんな低い山にはいない筈なんですが……」


 何故でしょうね、とガリスさん。

 高山にはあれがうじゃうじゃいるのかな――だとしたら絶対に行きたくないや。高い所は嫌いじゃないけど、あの匂いを嗅ぐのはもう勘弁である。


「ユーキのせいだったりしてね」

「あー、確かに」


 エレナとゼナが二人してそんな冗談を言い始めた。

 そこでなんで俺のせいになるのやら。


「ユーキさんの? それは一体……?」


 二人は顔を見合わせて笑みを浮かべると、不思議そうに尋ねるガリスさんを見た後に俺へと視線を移す。


「「だってすごく運が悪いから」」

「そうなんですか」

「いや、ちょっとだけツイてないだけですよ?」


 ガリスさんに誤解されないよう、一応訂正をしておく。

 実際そこまで運が悪いわけではないと思う……少し厄介事に巻き込まれる回数が多いだけなのだ。

 少なくともこんな事態をほいほいと引き付けるほどの悪運では無いはず……


「ちょっとじゃないでしょ」

「だよねぇ?」

「えぇ……」


 何故だかこの二人、宿屋に泊まる前よりも仲が良くなっている気がするなぁ。


 そんなやり取りの後に再び御者台へと乗り込むと、俺達を乗せた馬車はゆっくりと進み始め、今度こそセルキナへと続く山道を下り始めたのだった。

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