村への帰還
「ユーキ!どこ行ってたのよ、もう」
「起きたらいなくなってて、すっごく心配してたんだよ?……エレナ姉なんて『ユーキは無事かしら、怪我してないといいけど』とか、他にも――」
「ちょっと、ゼナ!?」
村の入り口で待っていたらしいエレナとゼナが俺の姿を見て走り寄って来て、なにやら暴露しようとしたゼナの言葉を遮る形でエレナが声を上げた。
村を離れていた時間はそれほど長くはなかったと思う。
それでもあんな事があったからか、随分長い事二人に会っていなかったような気がする。
それだけでなく、声を聞くだけで安心している自分がいて、そろそろ本当の家族以上の存在になってきたなと、思わず笑みを浮かべてしまう。
二人には心配をかけてしまったようだし、急ぎだったとはいえ書き置きくらい残しておいた方がよかったかもしれない。
「いやぁ〜、ごめんね? 実は色々あって――」
「ユーキお姉ちゃん、その腕どうしたの!?」
出掛けていたことをどう説明しようかと、思わず右手で頬を掻いた際にローブの裾が赤黒く染まっていたのを見たようで、目を丸くしたゼナが恐る恐る右手に触れてくる。
エレナも険しい表情を浮かべて右腕を凝視しているようだ。
突っ込まれるのも当然か。
回復魔法によって、右腕に受けた矢の傷は既に完治しているものの、服を染めた血の跡がそのまま残っているという有様である。
何も知らない状態で見たら大怪我をしたように映るだろう――まぁ実際に大怪我はしたので間違ってはいないのだが……
「大丈夫。もう治ってるから――ほらね?」
二人を安心させる為に腕まくりをすると、右腕を見せながら手を握ったり開いたりを繰り返す。
ゼナは右腕を触ることで傷が無いことが確認できたのか、ほっと一息吐いて表情を和らげたが、エレナは依然険しい表情を浮かべたままになっている。
「で? どうしてそんな傷を負うことになってるのかしら?」
「それは――」
「ごめんなさい、ユーキさんの怪我は私の……いえ、私達のせいなんです」
背後から聞こえてきた声が俺の言葉を遮り、エレナの疑問に答えた。
正面に立っていた二人が俺の後ろの方へ視線を移すと、エレナとゼナが揃って息を呑む。鏡合わせのように似ている姿が並んでいるのだろうから、無理もない。
――でも二人共、驚くのはまだ早いよ?
なんて心の中で呟きつつ、体を声の主――シオンの方へ向けると、瓜二つの顔で申し訳なさそうにこちらを見ている姉弟の姿があった。
あれから一緒に帰ってきたのだが、村に着くなりエレナとゼナが俺の元に駆けつけてきたため、声を掛けるに掛けられなかったのだろう。
少しの間呆けていたエレナだったが、ハッとした様子で二、三度頭を振ると口を開いた。
「えっと……あなたは? それにユーキの怪我があなた達のせいってどういうこと?」
「えっと、実は――」
事の顛末を説明し始めたシオンの言葉に耳を傾けるエレナとゼナ。
時折リオンが補足しながら――ちなみにリオンが男だと知った時の二人の驚愕っぷりは想像通りだった――彼女の話が終わると、エレナとゼナの両人が盛大に溜息を吐いた。
「なんとなくそうなんじゃないかとゼナと話してたけど、まさか本当に……ねえ?」
「うん。まぁ、ユーキお姉ちゃんだし」
「なに? どうしたの?」
ジト目で見つめてくる二人に尋ねると、再び大きな溜息を一つ漏らす。
え?なんで?
「とりあえずユーキお姉ちゃんは置いとくとして。そういう事なら、シオンさん達は悪くないんじゃないかな?」
と、さらりと酷い事を言って話を進めるゼナ。
お姉ちゃん、そんな子に育てた覚えはありませんよ……? いや実際育ててませんけど。
「そうね、そこはもうユーキの不注意でしょ。それに彼女に声をかけて正解だったんじゃないかしら? 話を聞く限り、他の人に頼んでたらリオン君……君でいいのよね? は無傷で助けられなかったでしょうし」
エレナも頷きながら視線をシオンからリオンへと移して――まだ男だと思えないようで、戸惑いながらも――言葉を紡いだ。
うん、その気持ちは凄く分かるよ……俺もまだリオンが男だなんて信じられないくらいだから。
よく見れば胸の膨らみが無い気もするけど、それを言ったらこの身体だって胸はあまり無いけど女だしなぁ。
自分の胸を触って確かめると、返ってくるのは慎ましやかな感触のみ。まぁ動きやすくて良いよね、うん。
っと。そんなことより。
「エレナの言った通りで、怪我を負ったのは私の不注意なんだから気にしないで? それにほら、この通り。もう治ってるんだからさ」
先程エレナ達に見せたように右腕をぐるぐると回しながら、問題ない事をアピールする。
一応シオン、リオンの二人も腕が治っていることは知っている筈だが、どうにも責任を感じてしまっているようだ。
しかし、回復職で本当に良かった。回復魔法が使えなかったら、きっとあの時にやられていただろうし。
もっとも……傷は治せても痛みを受けることには変わらないので、二度目は勘弁だが。
「さてと。時間も結構遅くなってきたし、そろそろ戻って休んだ方が良いかもね」
「そうね、流石に眠くなってきたわ……」
俺の言葉に同意するエレナの後ろでは、ゼナが眠そうに目を擦っている。
シオンとリオンの二人も、だいぶ疲れている様子だ。
明日は山を越えることになるわけだし、恐らくあまり寝てないだろうエレナとゼナの二人を早めに休ませてあげたい。
俺は荷物の見張りをしないといけないから、徹夜は確定だけど。
「ユーキさん。今日は本当にありがとうございました」
「お姉さん、この恩はいつか必ず返します」
お辞儀してくる二人と別れた後、俺は馬小屋の方へと歩き始めた。
擬態の魔法を掛けていたので大丈夫だとは思うが、早く向かった方がいいのは間違いない。
「ユーキ、そっちは宿屋じゃないわよ?」
後ろからついてきていたエレナから疑問の声が上がる。
振り返えるとエレナだけでなく、ゼナも小首を傾げていた。
あ、そうか。見張りをしないといけないことをまだ二人に伝えてなかったっけ。
「ガリスさんから荷物の見張りをお願いされてね。二人は戻って休んで良いよ、一人いれば充分だろうから」
「え? でもそれじゃユーキお姉ちゃんが寝れないんじゃ……」
「ま、そこはしょうがないよね」
趣味に費やして徹夜してたなんて事はよくあったし、大丈夫だろう。
横になりたい気分がないかと言えば嘘になるけど。
「はぁ……そう言われて素直に休めるわけないでしょ。私もやるわ、二人で交互に見張れば少しは休めるだろうし」
「あ、なら私も! 三人ならもっと休めるでしょ?」
エレナに続いてゼナも名乗りを上げた。
確かに三人いれば休める時間が出来るけど……
「無理しなくていいんだよ?」
「私達は少し寝てるから大丈夫よ。ね、ゼナ?」
「うん。それに無理だなんて思わないよ」
「そっか……じゃあお願いしようかな」
結局、二人の申し出をありがたく受け取ることにして、朝まで交代しながら見張りをしたのだった。





