初めての……
こちらを目指して一目散に駆けてくるゴブリンだが、足は然程速くないようで、ここ辿り着くまでにはまだ猶予がありそうだ。
「三十六計、が一番なんだろうけどね」
一人呟きながら隣を見ると、迫り来るゴブリンの姿に足が竦んでしまっているリオンの姿があった。
初めて使った時に比べ、何故だか効果が上がっている肉体強化の魔法を使った状態であれば、女の子と変わらないくらい小柄なリオン一人なら背負って逃げることも可能だろう。
しかし、少し離れた場所に待機しているシオンまで背負うのは流石に無理がある。
仮に背負えたとしても、あの崖を登るのに手間取るのは間違いないだろう。
となれば取れる道は一つ――ここで倒すしかない。
正直、聖なる光線を使えば一瞬で全てのゴブリンを消し飛ばせると思うし、それが一番楽だとも思う。
問題は魔法を撃った後に強烈な睡魔が襲ってくることである。
ゴブリン達を倒して全てが終わるならそれでもいいかもしれないが、他にも敵がいた時に対処できなくなるので今回は封印しよう。
護身用の短剣はシオンに預けてあるので、俺に残されている攻撃手段は一つ――聖なる矢だけだ。
……もっとも、短剣を使った戦闘なんてしたことがないから、預けていなかったとしても聖なる矢を使っただろうけど。
隣にいるリオンに再び視線を移すと、こちらを向いていた彼と目があった。
不安と恐怖の混ざったような色を携えた瞳で見つめてくるリオンを見て、やっぱりどう見ても女の子だよなぁと思いながら口を開く。
「とりあえずここでゴブリンを迎え撃つよ。リオンは木の陰にでも隠れてて」
「は、はい……! あの、大丈夫……ですよね?」
「うん。すぐ済ませるから、シオンと合流して村に戻ろう」
俺の言葉に頷き、指示通り木陰に姿を隠したリオンを確認し、ゴブリンのいる方へと匹を向ける。
複数の緑色の生物が眼前に迫りつつあり、遠目でぼやけていたその全貌が明らかになってきた。
まず身長だが、膝より少し高いくらいの小柄な匹をしている。
容姿は耳が長く尖っており、鼻も同様に少し細長く突き出ていて、口元に不気味な笑みを浮かべながら時折奇声をあげているようだ。
そしてどのゴブリンも斧や短刀といったものを手に掲げているのが見える。
身体のサイズに合ったものなので人間のものよりは小さいが、当たれば怪我では済まないだろう。
――まぁ、当たらない距離で叩けばいいんだけどね。
「さてと、それじゃさっさと終わらせましょうかね――聖なる矢!」
先手必勝とばかりに唱えた魔法が杖の先から眩い光と共に放たれ、鮮やかな残光が、迫り来るゴブリンの内の一匹を捉えると体を貫き、命中したゴブリンは跡形もなく消え去った。
自分の魔法ながら、相変わらず途轍も無い威力である。
こちらに向かってきていたゴブリンも、いきなり仲間がやられると思ってなかったのか、足を止めて警戒しているようだ。
――止まってくれるなんて、逆に好都合だ。
続け様に魔法を放ち、足を止めていたゴブリンを更に一匹、二匹と消し飛ばした。
この調子で撃っていけばすぐに終わるだろう。
そう思い、再び魔法を撃とうとした瞬間――右腕にトンという衝撃と、遅れて激痛が走り、杖を落としてしまう。
「い――――ッッ!!」
あまりの痛みに思わず絶叫しそうになるのを耐えながら、垂れ下がった右腕に視線を這わせる。
そこあったのは、白いローブに包まれた腕から一本の棒が――白い羽のようなものが末端に付いている――突き刺さっている光景だった。
ダラダラと血が溢れ出し、腕を伝って真っ白なローブの袖を真紅に染めていき、指先から地面へと落ちていく。
腕に刺さっているのが弓矢であり、狙撃された事を認識すると、涙で滲む視界に映った近くの木陰へと慌てて転がり込んだ。
左手で右腕に刺さった矢を掴むと、歯を食いしばり、一思いに引き抜く――瞬間、刺さった時と同じかそれ以上の激痛が襲う。
腕からは先程までとは比べられないほどの血が溢れ始め、地面に血溜まりを作り始める。
「――ッ、回復……!」
自身に回復魔法を掛けると溢れ出ていた鮮血が止まり、痛みが徐々に薄れていく。
数秒で傷は完全に塞がり――まだ矢が刺さっているかのような感覚が右腕に残っているが――木陰からゴブリン達の様子を伺った。
未だにこちらを警戒しながら、ジリジリと距離を詰めてきているのが二匹。
家に上がっていたのが降りてきたのか、後ろの方に一匹。
視界に入る三匹と先程やった三匹、合わせて六匹。でも最初に確認したのは合計七匹のはずだから一匹足りない……?
視線を彷徨わせると、家の二階の割れた窓枠から身を乗り出し、弓を構えているゴブリンが一匹いる事がわかった。
――あいつか、俺の腕を撃ち抜いたのは!
今すぐにでも消し飛ばしたい衝動に駆られるが、このまま出ていくとまた撃たれかねない。あの痛みをもう一度感じるのはゴメンだ。
どうするか考えていると、足元に拳大の石が落ちているのを見て一つ案が浮かんでくる。
それの案を実行するためにローブを脱ぐと、フードの中に石を入れて杖の落ちている所――右腕を射られた場所を目指して放り投げた。
フードを先頭にローブが緩やかに飛んでいき、杖がある場所に差し掛かった時、飛んできた矢に射抜かれる。
――今だ!
木陰から踊り出ると落ちている杖を拾い、矢を番えようとしていたゴブリンに杖先を向けた。
「聖なる矢!」
光を放ちながら飛んでいく光の矢に上半身を消し飛ばされた弓持ちのゴブリンは、室内の闇に消え去る。
これで狙撃される心配は無くなったし、後は残りを殲滅するだけだ。
何故か興奮した様子で走ってくるゴブリン三匹を次々と魔法で仕留めると、矢に射抜かれたローブを拾いリオンの隠れていた木陰へと向かった。
「もう出てきて大丈夫だよ」
「は、はい……って!お姉さんなんて格好をしてるんですか!?」
「え?」
声を掛けるとリオンが木陰から出てきたが、慌てて顔を背ける。顔も赤くなっているようだ。
何でだろうと視線を下に向けると、その理由が分かった。
ローブを脱ぎ去った今の俺の上半身を覆うものは何もなく――つまり半裸の状態になっている。
流石にこれはマズイか。
二箇所穴が開いてしまったローブに袖を通すと、改めて声をかけた。
「いやー、ごめんごめん。服着たからこっち見て大丈夫だよ」
「びっくりしましたよ……え?お姉さん、その腕……」
「あぁ、ちょっとね。もう治ってるから平気」
心配そうに右腕を見ているリオンにそう返しながら、腕をぐるぐると回してみせると、安心したのかほっと一息吐く。
まぁ血塗れの袖を見ればそうなるよね。
「よし、じゃあ帰ろうか」
「はい!」
その後シオンと合流し――涙を流しながら抱き合う姿を見て――ようやく村へと帰る事が出来たのだった。
今日はクリスマスですね!
クリスマス回を作ろうと思ってましたが、中の季節が違いすぎるので断念しました()





