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回避失敗

 姉の名前を聞いたからか、シオンの弟は少し落ち着き、ここに至った経緯をぽつりぽつりと話し始めた。


「――という訳なんです」

「なるほど……」


 彼が一通り話し終えると、再び部屋が静寂に包まれる。

 静かになった部屋の中で、シオンの弟が話した内容を整理していく。


 まず、崖から落ちてシオンが助けを呼びに村に向かった後、崖下で姉が戻るのを待っていようとしたところ、ゴブリンの声が脇道から聞こえてきたらしい。


 咄嗟に正面に続く道へ進み、暗闇の中を無我夢中で歩き続けているうちにこの家があり、中に逃げ込んだは良かったものの……気がつくと家の正面でゴブリンが焚火を始め、出るに出られなくなり途方に暮れていたところに俺が来て今に至ると。


 ――なんというか、運がない子だなぁ。


「……お姉さんはどうしてここに僕がいるって分かったんです?」


 静寂に耐えられなくなったのか、シオンの弟が座り込んだままこちらを見て話しかけてきた。


「シオンが君にあげたっていう布が道の入り口近くに落ちてたから、こっちに行ったんじゃないかなと思ってね」

「布――あっ」


 俺に言われるまで落としたことに気がつかなかったのか、自分の腕を見て驚いた様子のシオンの弟。

 ……いつまでもシオンの弟って呼ぶわけにもいかないし、そろそろ名前聞いておくかな。


「えっと、君の名前を聞いてもいいかな? シオンからは弟ってことしか聞いてなくて」

「あ――ごめんなさい、名乗るのを忘れてました。僕はリオンっていいます」

「ありがとう。改めてよろしくね、リオン」


 そう言いながら手を差し出すと、戸惑いながらも握り返してきた。

 ……柔らかい上に小さな手だなぁ、とても男だとは思えないくらいだ。

 リオンに比べれば、まだ自分の手の方が小さいけど、それでも現実でここまで華奢な男は見たことがない。


 それに先程までの会話で改めて思ったけど、声までシオンそっくりである。

 こちらを見つめてくる少し垂れ目の深翠の瞳をはじめとした、シオンと同様に整った容姿。

 そして何故か徐々に紅潮してきている頬なんかを見ていると、やはり男には見えない。

 下手したらそこらの女の子より可愛いんじゃないだろうか。


「あの……そろそろ手を……」

「――え? あぁ! ごめんね?」


 いけないいけない、手を握ったままだったことを忘れて考え込んでいたようだ。

 謝りながら手を離すと、リオンは右手で胸の辺りを押さえて深呼吸していた。

 え、そんな嫌だったの? ちょっと傷付くなぁ。


「こほん――とりあえず、いつまでもここにいるわけにもいかないし、シオンも待たせちゃってるからそろそろ行こうか」


 わざとらしく咳払いを一つしてから、そう話を切り出した。

 ……遅れてる原因は俺にあるとかツッコミを入れてはいけない。


「え、でもどうやって……? 家の前にはゴブリンがいますし……」

「二階の窓からならいけるよ?」


 天井を指差しながら返すと、リオンがなんとも言えない表情をしていた。

 え? 何かおかしなこと言ったかな?


「お姉さん……見た目と違って行動的なんですね」

「まぁ冒険者だからね。あ、足治しておこうか――回復(ヒール)


 リオンの体を淡い光が包み込み、消える頃には痛みも無くなったようで、爪先で数回地面を蹴ると、瞳をキラキラと輝かせてこちらを見てくる。


「凄い……痛みが一瞬で消えました」

「ん、なら大丈夫だね。それじゃ行こうか」


 彼が頷くのを確認して部屋を出ると、窓からゴブリンに姿を見られないように屈みながら廊下を歩き、ゆっくり階段を上り、二階の部屋へと移動する。


 家の中に入る時に使った窓に近付くと、一階からドアノブを回すような音が聞こえてきた。

 この状況で人が来る、なんて事はまず無いと思うので、十中八九ゴブリンだろう。

 しかし、なんで気付かれたんだ?


「……い、今の音って」

「うん、ゴブリンだろうね……でも、姿は見られてなかったと思うんだけどなぁ」


 リオンが引きつったような声を上げ、俺もそれに同意する形で言葉を返した。


 しかし、階段は玄関から見て奥側から上るような作りになっているため、角度的にも上がって行く姿は見られていないはずなのである。

 廊下を歩いていた時も、窓から見えないように屈んでたくらいだし……


「あ……お姉さん、もしかしてそれかも」

「え、なに? 何か付いてる?」


 俺を指差してそう呟いたリオン。

 自分の体を確認してみるも、特に何もないようだけど……

 視界に映っているのは白のローブと羊羹色のブーツ、床に散らばる廃材と、光を受けて反射するガラスくらいで――あ。


 あぁぁぁぁ! 気付かれた理由は、灯火の魔法を使ったまま廊下を歩いてたからか……!

 真っ暗な家の中から光が漏れ出していたら、そりゃ目立つよ!


「ごめん。魔法使ってたの、すっかり忘れてた……」

「い、いえ」


 っと、反省するのは後でも出来るし、今はすぐにでも移動しないと。

 足場が軋んで崩れそうな上、狭いこの部屋で戦うなんて事になるのは避けたい。


「とにかく、この家を出る事を優先しよう……肉体強化(フィジカルアップ)――ちょーっと大人しくしててね」

「え? わっ!?」


 自分に強化魔法を掛け、戸惑うリオンを横抱きして窓枠に立つと、そのまま外に向かって飛び降りた。


 一瞬の浮遊感と共に迫ってくる地面を見ながら――あれ? この状況シオンの時と全く同じだ。なんて呑気に考えていると、あっという間に地面へと辿り着く。

 着地と共に襲ってくる衝撃で転びそうになりながら、二回、三回と体勢を立て直し、なんとか無事に止まることができた。


「流石に衝撃が凄かったね……大丈夫? 舌噛んでない?」

「……噛んではいないですけど、寿命が縮まりましたよ」


 リオンを地面に下ろすと、シオンと同じ顔、同じ声で、同じような言葉を言ってきた。

 それを聞いて安心しつつ、双子って言うことも同じなんだなぁと思いながら、先程までいた二階の方へ顔を向ける。


 丁度入れ違いで辿り着いたのか、窓から数匹のゴブリンがこちらを指差して何かを叫んでいるのが見えた。

 出来れば戦闘はしたくなかったけど、そうも言っていられない状況になってしまったようだ。


 二階から叫ぶ仲間の声を聞きつけ、こちらに向かってくる武装した数匹のゴブリンを見つめ、結局荒事になるのかと一人深い溜息をついたのだった。

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