発見、そして
遠目に一軒の明かりのついていない家屋と、焚火を中心に集まる複数の小さい影が見える所まで来て足を止め、姿を見られない様に、シオンを連れて近くの木陰に姿を隠した。
どうやら明かりの正体は焚火のもので、それを囲むように座り込んでいるのがゴブリンなのだろう。
「あぁ……ッ! やっぱりゴブリンが――」
「しっ。あまり声を出さないほうがいいよ」
木陰から顔を出し、ゴブリンの姿を見て声を上げそうになるシオンを窘めると、彼女は首を縦に振り口を噤んだ。
相手の規模が分からない以上、迂闊に姿を見られたくないというのが理由である。
とはいえ、まだ焚火のある場所までは距離があるため、小声で話す分には聞こえないのかもしれない。
ここから確認できるゴブリンの数は五体、家屋の影になっていて見えないところもあるので、実際はもう少し多いと思う。
ただ問題のシオンの弟は、この場所からだと確認できなかった。
もう少し近付けば分かるのかもしれないが、ゴブリンに見つかって仮に戦闘なんてことになった時の事を考えると、戦う手段を持たないシオンをこれ以上近付けるのは危険だろう。
「もう少し近付いて様子を見てくるね、シオンはここで待ってて」
「いえ、私も――」
「ダメ。流石に危険だから」
一緒に行くと言おうとしたのであろう彼女の言葉を遮って、ここで待つように言い聞かせる。
不承不承といった様子ではあったが、一応理解してくれたようだ。
とはいえ、何も持たないでいるのもどうかと思ったので、自分の持っているミスリル製の短剣を護身用として渡しておく。
同時に、万が一の時は叫んで教えて欲しいという事と、危なくなったら戦うのではなく逃げるように、と言い聞かせる。
俺の話を聞き終えると、シオンは神妙な面持ちで一つ頷き返した。
さて、じゃあ行きますかね。
「っと、その前に――守護付与」
「えっと、これは……?」
「防御呪文だよ。簡単な攻撃くらいだったら防いでくれると思うよ」
自分を包み込んだ淡い光を見て尋ねてくるシオンにそう答えて、ゴブリンのいる場所へと向かい歩き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
木陰から木陰へと素早く身を移しながら、少しずつ家屋のある場所へと近付いていく。
ある程度近づくと、先程の場所からでは見えなかったものが分かるようになる。
まず、焚火を囲んでいるゴブリンの数は合計で七匹いたということ。
ここから見た限り武装はしていないようで、楽しそうに会話をしている様子である……残念ながら内容は全く分からないけれど。
RPGとかの創作上では武器を持っているというのが一般的だったと思うが、この世界では素手で襲いかかってくるのだろうか?
そして、シオンの弟はここから見る限り、外にはいないようである。ここに来ているという前提で考えるのであれば、あの家の中にいる可能性が高いかもしれない。
――まずは建物を調べてみるのが良さそうかな。
窓から覗き込んで中にいるようであれば、こっそり助けてシオンの元に戻ろう。
幸いな事に、廃屋から焚火までは少し離れているため、余程大きな音を立てなければ気が付かれない筈だ。
建物の死角に入るように移動すると、物音を立てないようにしながら、ゆっくりと家屋に近付いていく。
そうしてゴブリン達からは見えない建物の裏手に辿り着くと、窓からそっと中を窺う。
たまたま外を見ていたのか、物が散乱した部屋の端に座り込んでいた翠髪の少女と、ばっちりと目が合った。
信じられない物を見た、といった様子で目を見開いている少女だが、きっと俺も同じ顔をしているだろう。
――そこにいたのはシオンと瓜二つの少女だったのだから。
違いといえば、シオンは深翠の髪を肩先まで伸ばしていたのに対して、彼女は後ろで束ねてポニーテールになっている事くらいだ。
「ちょっと待って、シオンからは“弟”って聞いてたんだけど……え、妹だったの?」
思わず口に出してしまう位には衝撃を受けていた。
……いや、普通妹を弟と呼ぶことは無いし、もしかして――男の娘!?
いやー、ファンタジー世界って凄いですね。まさかリアルで男の娘を見る事が出来るなんて。
二次元だけの存在だと思ってたよ、男の娘。まぁ、今まさにその二次元のような世界にいるんだけれど。
変な方向に思考がシフトしていっていると、窓を軽く叩く音でふと我に返った。
いつのまにか窓際まで近付いてきていたシオンの弟が、先程の驚愕した表情から一変、不安そうな顔をしてこちらを見ている。
改めて彼の姿を確認すると、所々に擦り傷のようなものがあり、立ち方も少し右に寄っているように見える。
崖から落ちた際に足を痛めたのだろうか?
それ以外には目立った外傷がない事から、ゴブリンに襲われたという訳ではないようだ。
指を一本立てて唇に当てる仕草を見せると、シオンの弟が頷き返してきた。
――さて、どうしたものかな。
大分劣化している家のようだったし、ガラスさえ無ければ窓から助けようと思っていたんだけど……
窓を割って入るわけにはいかないし、かといって正面から入るには、ゴブリンのいる焚火の前を通らなければいけない。
どちらを取っても気付かれないで連れ出すのは難しいだろう。
「んー、これだけ老朽化してる家なんだから、何処かに入れる場所が……あ、あった」
一人呟きながら建物を見上げていると、二階にある窓ガラスの一つが壊れているのが目に入った。
この半ば廃屋と化している家は木造建築であるらしく、木のつなぎ目を掴めば、ギリギリ登っていけるかもしれない。
「肉体強化――よし、いこう」
自身に強化魔法を掛けると、壁を登り始め――途中で手を滑らせて落ちそうになったが――なんとか窓まで辿り着くと、建物の中に潜り込んだ。
二階は窓が無いせいか老朽化がかなり進んでいるようで、歩く度に床が軋んでいて結構怖い……まさか崩れないよね?
灯火の光を頼りに、慎重に歩きながら階段を探して一階に降りると、シオンの弟のいる部屋へと向かう。
先程外から覗いていた部屋に入ると、隅にいた深翠の髪の少年(見た目は少女だが)の肩がびくりと震え、恐る恐るといった様子でこちらへと顔を向けた。
「あ――女神様……?」
「残念ながら女神じゃないけど、シオンにお願いされて助けに来たよ。名前はユーキ。よろしくね、弟くん」





