その頃、村にて
今回はエレナ視点になります。
「んん……痛っ!?」
全身を襲った痛みで目が覚め、驚いて辺りを見渡す。
ぼやけた視界に映る見慣れない天井に内装、ベッドの上で寝息を立てているゼナの姿。
――そうだ。私達は今、山の麓にある村で休んでるんだった。
自分がいる位置を見るに、どうやら寝ている内にベッドから転がり落ちてしまったみたいだ。
昔から寝相はあまり良くなかったので、実家でも時々ベッドから落ちることがあった。ユーキと一緒に暮らすようになってからはあまり無かったんだけれど。
折角気持ちよく寝ていたのに、こんな形で起きる事になるなんて……自分の寝相が悪いことが原因なのは分かってるんだけど、なんだか釈然としない。
もう一度寝直そうと、再びベッドに戻ろうとした時、ユーキの姿が見えない事に気がついた。
最初はお手洗いにでも行っているのだろうと思ったけど、机の上に置いてあった筈の彼女の装備が無くなっているのを見る限り、その可能性は低いだろう。
「ゼナ……ゼナ、起きて。ごめんなさい、ちょっと良いかしら」
「ん――あれ、エレナ姉……もう朝?」
ベッドで気持ち良さそうに寝ているゼナを起こすのは気が引けたけど、心を鬼にして彼女の体を揺さぶり、目を覚ましてもらう。
……決して他意は無いわよ?
彼女は眠そうに目をこすりながら上半身を起こすと、大きな欠伸を一つして、半目になりながらこちらを見た。
そのまま窓の外へと顔を向け、まだ暗闇に包まれた景色を確認すると、再びこちらに向き直る――少し恨めしそうな視線を向けながら。
「ちょっとエレナ姉、まだ夜なんだけど……」
「だから最初に謝ったじゃない――そんなことより、ユーキがどこに行ったか知ってる?」
「んーん。知らないけど……え、ユーキお姉ちゃんいないの?」
私の問い掛けを聞いたゼナの表情が、半目で眉間にシワを寄せた不機嫌そうなものから、目を見開いて少し驚きの混じったものへと変わる。
――全く。ユーキの話題を出した途端にこれとか、どれだけユーキの事が好きなのよ。
「そう……ゼナも知らないのね。ならあの時と同じかしら」
「あの時って――私がユーキお姉ちゃんと初めて会った日のこと?」
「ええ、そうよ」
ゼナの言葉に頷き返す。
私は気が付かなかったけど、あの夜も出歩いていたみたいだし、もしかすると今回もそんな感じなのかもしれない。
女の子が夜中に一人で出歩くなんて危険だ……と言いたいところだけど、実はそこまで心配はしていなかった。
ふと窓際まで近寄り――夜空に輝く数多の星を眺めながら――過去の出来事に思いを馳せる。
あの日、たまたま遊びに行った森の中でトレントに遭遇した時も、遺跡の中でスケルトンに斬られそうになった時でも、ユーキはあっさりと助けてくれた。
まさかあれだけの骸骨の群れを一瞬で消し飛ばす魔法を使えたり、呪文詠唱無しで魔法を使えるとは知らなかったけれど。
元々は、森で助けてくれた彼女に憧れて冒険者になりたいと思ったし、冒険者になった当初は、同じ癒し手になれなかったのが悔しかったりもした。
……でも今思えば槍術に適性があって良かったかもしれない。
同じ土俵に立っていたら、凄く惨めな気持ちになっていた気がする。
――それは明確な役割が違っている今でも感じる事がある感情なのだから。
「――わ、満天の星だね」
いつのまにか隣に来ていたゼナの声によって、暗くなり始めていた思考から解放された。
「ええ、そうね……綺麗だわ」
「ん〜? エレナ姉、ちょっと表情暗いよ? どうしたの?」
「あら、顔に出てた? ちょっとユーキと自分を比較しちゃってね――」
見知らぬ地で二人きりだったからか――あるいは夜空に浮かぶ星々が持つ不思議な力か――気が付くと、考えていた事をぽつりぽつりとゼナに打ち明けている自分がいて、その間、彼女は頷いたり相槌を打ったりして私の話を静かに聞いてくれていた。
「――そんな訳で、たまに『ユーキにとって自分は必要なんだろうか』なんて、考えちゃうのよ」
「あー、そういう事かぁ」
一通り話終わった後に、歳下のゼナに何を言ってるんだろうと、急に恥ずかしくなってくる。
……これじゃ、どっちが歳上かって話よね。
「変な話をしてごめんなさい。今の私、きっとおかしくなってるのよ――」
「――エレナ姉はエレナ姉なんだから、他人と比較しちゃダメだよ。例えそれがユーキお姉ちゃんだとしても」
話を切ろうとしていた私の顔を見つめながら、ゼナが真面目な表情でそう呟く。
一瞬、彼女が凄く大人びて――まるで真剣な話をする時のユーキのように――見えたけど、次の瞬間には表情を崩して、いつも通りのゼナに戻っていた。
「これね、ユーキお姉ちゃんに初めて会った時に掛けてもらった言葉なんだよ」
「ユーキが?」
「うん。両親に捨てられた原因でもある見た目を気にしてた私に対して、そう言ってくれたの。……凄く嬉しかったよ、今までそんな事を言ってくれた人はいなかったから」
その時のことを思い出しているのか、見ているだけで思わずこっちの頬まで緩んでしまうくらい、ゼナの相貌が幸せそうに緩みきっていた。
「そんな風に言ってくれるユーキお姉ちゃんなんだもん、エレナ姉が心配するようなことはないと思うよ?」
彼女の言う通りで、ユーキがそんな事で人を判断しないということは、自分も知ってたはずなのにね。
まさか歳下のゼナに諭される事になるなんて、夢にも思わなかった。
「うん……そうよね。ありがとう、ゼナ」
「いえいえ、どういたしまして! ――それにしても、ユーキお姉ちゃんはどこに行っちゃったんだろうね?」
「案外、また面倒な事に巻き込まれてたりするかもしれないわよ?」
そう言いながらゼナと顔を見合わせると、どちらからともなく笑いが起こる。
どうやら、お互い考えていた事は同じだったようだ。
心配は殆どしていないんだけれども、一応この星空に祈っておこうかしら。
――どうか、ユーキが無事に帰ってきますように。
次回はユーキ視点に戻ります。





