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宮廷療術士

「――ユーキお姉ちゃん宛てに手紙が届いてるよー」


 ある日の昼下がり。

 ソファで休んでいる俺の元に、ゼナが一通の手紙を片手に近付いてくる。


「私に?」


 受け取って見てみると、確かに宛先には『ユーキ殿』と書いてあった。


 ――誰だろ、この世界に手紙を送ってくるような知り合いはいないはずだけど。

 まぁ元の世界でも手紙なんてレトロな連絡方法を使ってくる奴なんていなかったけどさ。


 封を開けると、中には二枚の便箋が入っていた。

 取り出して手紙を読み始める。


「なんて書いてあったの?」


 最後の一文を読み終えて内容を吟味していると、隣に座っていたエレナが尋ねてきた。


「文章長いから意訳でいい?」

「別にいいけど――それ要約じゃだめなの?」


 ダメじゃないけど、面白くないからなぁ。


 軽く咳払いをすると、意訳した内容を口にする。


「御機嫌ようユーキ殿、ワシは国王じゃよ。先の調査団の護衛ご苦労じゃった、なんでも詠唱無しで魔法を使えるそうじゃの? 興味が湧いたから、ちと城へ来てくれ。もちろん拒否権は無いぞい――まぁこんな感じ?」


 うん。調子に乗って意訳し過ぎた感はあるけど、内容は大方間違ってないと思う。

 口調は勝手な想像だけど。


「え? 国王陛下からなの!?」

「そうみたいだねぇ」


 驚きからか、勢いよくソファから立ち上がるエレナ。


 俺は驚きよりも面倒なことになったなぁという気持ちのほうが強かった。

 厄介事に巻き込まれなきゃいいけど。




「とりあえず二人はお留守番で、いいね?」


 翌日支度をし終えると、エレナとゼナにそう伝える。

 今回は相手が国王という事もあり、二人共素直に頷いてくれた。


 家を出て町の中央に位置する城へと向かう。

 店が立ち並ぶ商店街を越え、噴水のある広場へ辿り着くと、城へと伸びる一本道を進んでいく。


 城門をくぐり抜けようとした時、鎧を着た衛兵に止められた。


「そこの君、止まりなさい――ここから先は、許可なく立ち入ることは出来ないよ」

「国王から呼ばれたユーキという者ですが」


 手紙を見せると通行を許可してくれたので、そのまま城へと進む。


「でかいとは思っていたけど、近くで見ると余計大きく見えるなぁ」


 入り口付近に立つと、建物を見上げながら思わずため息をついた。


 入り口の先は、中央に階段がある大広間になっているようだ。

 内装はとにかく煌びやかで、絵画や金のシャンデリアなどが散見される。


 ――さて、どうしたものか。

 城に来たのは初めてだし、国王がいる場所とか分からないんだけれど。

 案内図とかは――流石にないか。


 とりあえず階段を登って、真っ直ぐに進む事にする。

 暫く進むと、少し広めの通路の先に二人の衛兵が立っているのが見えた。

 手紙を見せながら国王のいる場所を尋ねると、この先が謁見の間らしい。


 国王への取次をすると言い残して一人が謁見の間に向かい、戻ってくると先へ進む許可をもらった。



「今回はわざわざ足を運んでもらって悪かったの、ユーキ殿」


 謁見の間に着くと、少し高くなった場所に置いてある玉座にいる国王から労いの言葉をかけられる。


「初めてお目にかかります、陛下。早速ですが、今日呼ばれた理由は何でしょうか?」


 漫画で得た知識を元に、それらしい挨拶をする。


「うむ。ユーキ殿――そなたが詠唱無しで魔法を使えると聞いてな。前代未聞だったので興味が湧いたんじゃよ」


 なんというか、口調も内容も想像通りだったなぁ。


「えっと、つまり真偽を確かめたいと……?」

「調査団からの報告で、真実であることは分かっておるよ」


 んー? ならどうして呼ばれたんだろ。

 疑問が顔に出ていたのか、国王が本題を切り出した。


「ユーキ殿――宮廷療術士になる気はないかの?」

「宮廷療術士……ですか? でもなんで私を?」


 名前からすると、宮仕えの癒し手ってところだろうけど……


「今は優秀な癒し手が少なくてのぉ。グレイスから聞いたが、そなたは大変な素質があるそうじゃな? その上詠唱無しで魔法を使えると知ったのじゃ――引き抜きたいと思うのは当然じゃよ」


 なるほど、グレイスさんから稀代の癒し手になる素質があるって話が伝わっていたのか。

 宮仕えなら給料は良さそうだけど、それ以上に退屈そうだよなぁ。


 まだ冒険者として色々経験したいし、何よりエレナとゼナを放って置くわけにはいかない。


「すみません。お誘いは嬉しいのですが、お受けする事は出来ません」


 少し考えた結果、断る事にした。

 怒っていきなり打ち首とか投獄なんてないよね?


「ふむ――理由を聞いても良いかの?」


 断られる事をある程度予想はしていたのか、穏やかな様子で問い掛けられる。


「私は冒険者になったばかりで、色々と経験してみたいことがあります。それに一緒に暮らす妹分も放って置けませんので」

「――それでも構わんよ?」


 国王は正直に答える俺の目を見て微笑むと、そんな事を言い出した。


「えっと?」

「つまり、今の生活のまま宮廷療術士をやらないかという事じゃよ――ぶっちゃけると唾をつけておきたいんじゃ」


 要は他国なりに奪われる前に、アルシール国の所属にしたいという事らしい。

 今の生活のままでいいなら、無理に断ることもないかな?


「それで良いのであれば、謹んでお受けします」

「うむ。必要な時にはまた連絡するでな、その時はよろしく頼むぞい」


 挨拶を済ませて謁見の間を出ようとした俺に、一人の男性が何かを渡してきた。

 樹の中心に杖の紋章が入った金色のバッジのようだ。


「それは宮廷療術士の身分証で、身に付けていれば城内を自由に出歩くことができるものじゃ――無くすでないぞ?」



 こうして俺は宮廷療術士の肩書きを得ることになったのだった。

更新遅れてすみません・・・!

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