服屋にて
翌日、俺はエレナとゼナを連れて服屋に来ていた。
ゼナの服が結構汚れていたので、新しいものを買ったほうが良いのではないかと思っていたところに、「ユーキも女の子なんだから私服を買ったほうが良い」とエレナからお説教されたからである。
セリアさんから貰った服もあるにはあるのだが、ヒラヒラしていて落ち着かないため、基本はローブで過ごしていた。
それを見ていて、常々女の子らしくないと思っていたらしい。
――だって中身男ですもん……
女の子らしいとか言われるようになったら、それはきっと何かを失った時だ。
下着が女性物の時点で色々失ってはいるんだけどね……
いやまぁ、相変わらずブラジャーだけは付けてませんけど。
とはいっても、確かにズボラだと思われるのは良くないので、ゼナの服を買うついでとして私服を買う事にしたのである。
「――お、これなんてどう? 白いワンピース、ゼナの黒髪に合うと思うけど」
女性物を扱っているコーナーで、目に留まった物を勧めてみる。
白色で花柄の意匠が施されており、胸元には黒いリボンが付いている物だ。
「ユーキお姉ちゃんが選んでくれた物だから、それにする」
「とりあえず試着しなさいな」
即決しようとしたゼナに試着を促すエレナ。
――こうやって見ていると姉妹みたいだなぁ。
エレナの提案通りに、試着室でワンピースを試着したゼナがこちらを伺っている。
日本人以上に綺麗な黒艶のある髪をしているため、白いワンピースとの相性は抜群だった。
「――うん、すごく似合ってるよ」
素直な感想を口にすると、嬉しそうに顔を綻ばせる。
「やっぱりこれに決めた! このまま着ていきたいな……」
こんなに喜んでもらえると思ってなかったけど、気に入ってくれたなら何より。
店員にお金を払い、着て帰れるかを尋ねると大丈夫との事だった。
「そのまま着て帰っても良いみたいだよ」
試着室にいるゼナに声を掛けると、やった!と目を輝かせながら出てきた。
なにこの生き物かわいい……
「それじゃ、次は私の番ね」
他にも数点ゼナ用に見繕った後、エレナから声が上がる。
「ん? エレナは私服いっぱい持ってるよね?」
メイヴィス邸から大量の服が届いていたはず。
「――私の服は選んでくれないの?」
「まぁ別に良いけども」
少しムッとした様子で呟くエレナにそう返す。
断ったら今日一日機嫌悪くなりそうだしね。
エレナに似合う服ねぇ……
正直、服についてはあまり詳しくないんだけどなぁ。
しばらく店内を探すと、割と良さそうな服を見つけた。
白のレースが入ったブラウスに、膝下まで長さのある紺色のスカートである。
「エレナ、これはどう?」
「あら、良いんじゃない?」
そう言うと試着室へと持っていき、着替えて出てくる。
「――どうかしら?」
「清楚な感じがしていいと思うよ」
白のブラウスと紺色のスカートを身に付けた姿は、流石貴族の娘といった感じだった。
「なら私もこれを着て帰るわ」
俺の評価に満足したのか、ゼナと同じことを言い出す。
「はいはい。お金払ってくるね」
こうして2人の服を選び終わった俺は、自分が着るための服を適当に見繕って購入した。
白色の長袖シャツに黒色のパンツという、男物に近い物だ。
それを見ていたエレナとゼナは顔を見合わせ、なにやら話し合っている。
「ユーキ」
「ユーキお姉ちゃん」
二人同時に声を上げると、俺の両腕を引きながら再び女性物売り場へと戻ってきた。
「何? 買い忘れでもあった?」
俺の言葉に頷く二人。
「ユーキ――あれを私服にするつもり?」
「え、うん。なにか問題ある?」
「大有りだよ! ユーキお姉ちゃん綺麗なんだから、もっと女の子らしい服にしないと勿体無いよ」
鼻息を荒くして主張するゼナに、深く頷くエレナ。
いや――でもですね、俺は別に女の子らしくなりたいんじゃないんですよ?
確かに綺麗な女の子が着飾ってるのはいいなぁとは思うけど、それは他人だからであって、いくら綺麗でも自分を着飾るのはちょっと……
そんなことを考えているうちに、二人があれこれ服を選んでいた。
「あの――これは?」
目の前にはエレナが持ってきた黒いドレス風の、いわゆるゴスロリに近い服が掲げられていた。
「ユーキにはこういうのが似合うと思う」
自信満々に言い放つエレナと、それに同調するゼナ。
「いや、無理」
これを着るのは難易度高すぎる。
なんかあちこちフリフリが付いてるし……
「ユーキお姉ちゃん銀髪だし、絶対に似合うよ? 着たところ見てみたいな……?」
ゼナが上目遣いにお願いしてくる。
それ反則だってば……
結局ゼナの上目遣いには勝てず、黒いドレスを着て2人の前に立っていた。
「ほら、やっぱり似合うじゃない」
「ユーキお姉ちゃん素敵だよ?」
うん、まぁ確かに鏡に映った姿を見るとすごく似合ってると思うけどさ。
これは自分なんだと意識すると、なんともいえない気分になってくるんだよね。
「もう着替えてもいい?」
ゼナのお願いは聞いたわけだし、フリフリとは早々におさらばしたいんだけども。
しかし、再び敢行された上目遣いによって、そんな俺の望みはあっさりと打ち破られることになったのだった。
「どーしてこうなったかなぁ」
俺は今、上機嫌な二人に挟まれて街中を歩いていた……例の服を身に付けたまま。
道行く人々の視線が集まってる気がするけど、まぁ明らかに浮いてますからね、気持ちは分かりますとも。
エレナとゼナという美少女二人がいるからか、余計に男連中の視線が集まっているようだ。
「とりあえずもう帰りませんか?」
「「ダメ」」
視線に耐えきれなくなったので二人に提案してみるも、即時却下された――酷い。
結局そのまま街中の店めぐりに付き合わされ、終わった頃には俺の精神的疲労はピークを迎えていた。
でもまぁ、今日の外出でエレナとゼナはだいぶ友好を深められたみたいだ。
仲良く話しながら歩いている二人を見ながら、たまにはこんな日があってもいいかな? なんて思うのだった。
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