助けた少女は・・・
悲鳴の聞こえた方向へと走る俺は、前方に動く巨大な木と、地面にへたり込み後退りしている人影があることに気がついた。
あの動く巨大な木は――もしかして木の魔物?
確かこの杖の原材料になってる木材、シルフの森に棲む木の魔物から切り出したって言ってた気がする。
――いや、そんな事よりまずはあの人を助けないと!
このままじゃ間に合わないと踏んだ俺は、自分に肉体強化を掛けて一気に距離を詰めた。
近付いてみると、へたり込む人は水色の髪の女の子である事が分かり、恐怖した表情を浮かべながら必死に後退りしていた。
そしてジリジリと追い詰めていくトレントはというと、木の洞が人の顔の様になっており、目の部分は真っ赤に発光し、口はまるで牙を並べた様な形状になっていた。
――あっ、これは悲鳴上げますわ。
森でいきなりこんなのに出会ったら、そりゃそうなるよなぁ。
昔人面樹の画像を見た事があって、気持ち悪いと思ってたけど、これはその十倍は気持ち悪い見た目をしてるもん。
しかも動いてるから尚更酷い。
さて、どうしようかな。
思ったよりトレントの動きは遅いし、あの女の子に立って貰って、一緒に走っても逃げられそうだけど……あの様子じゃ無理そうか。
とりあえずトレントの狙いをこっちに向けるかな。
「聖なる矢!」
杖を構え、回復職で使える割と安全そうな魔法を唱える。
すると杖の先から光の矢が放たれ、白い軌跡を描きながらトレントへ向かって飛んでいき、命中した胴体部分より上を吹き飛ばした。
――上半分吹き飛ばした?
え、この魔法ってそんな威力高いの?
回復職の攻撃魔法だよね?
現実のゲームでこんな魔法撃てる回復職いたらバランス崩壊するね、うん。
自分の放った魔法の威力に若干引き気味ではあったが、脅威の排除という目的を達成した俺は、まだへたり込んだままでいる女の子に近付いて無事を確認する。
「えっと、大丈夫?」
「え――あ、うん」
まだ少しぼーっとした様子ではあるものの、怪我などは無さそうだ。
「そっか、無事ならいいんだ。一人で帰れそう?」
俺の言葉にこくこくと頷く女の子。
ここに来るまでモンスターに遭遇することも無かったし、まぁ大丈夫かな?
「ん、分かった。気をつけて帰ってね」
そうして彼女と別れると急ぎ足で元来た道を戻り、ギルドに着く頃には夜の帳が降り始めていた。
「あ、ユーキちゃんおかえり!」
「ただいま、ミリアちゃん」
受付に薬草を納品しに行くと、ソワソワした様子のミリアちゃんが待っていた。
「遅いから心配しちゃった、何かあったの?」
そう尋ねてくる彼女に、今日あった出来事を話す。
「えぇ!? トレントに遭遇したの!?」
「遭遇したというか、していた子を助けにいったというか……」
「無事に帰ってこれて良かったね――割と危険な部類のモンスターなんだよ?トレントって」
「え、そうなの?」
見た目こそアレだったけど足は遅かったし、そんな危険そうには見えなかったけどなぁ。
「うん。トレントって普段はゆっくりした動きなんだけど、敵を排除しようとした時なんかは凄く俊敏に動くんだよ? それに怪力だから、結構重症を負う人も多いみたい」
あの見た目で俊敏に動き、追いかけてくる姿を想像する……おぉぅ、かなりホラーだ。
予定通りこっちに狙いを向けていたら、その想像が現実になってたのか……
「そんな訳で危険だから、よっぽどの事が無い限り、気付かれないように逃げた方がいいよ?」
「分かった、次からはそうするね」
まぁ最悪また聖なる矢で消し飛ばせばいいし。
そうして話を終えると、彼女からクエスト報酬を受け取り帰路に着いた。
翌日、クエストを受けるためにギルドに向かうと、何やら人集りが出来ていた。
――何事?
普段とは毛色が違う騒めきに首を傾げながら、受付へと向かう。
「おはよ、ミリアちゃん。この騒ぎ、何があったの?」
「あ、おはようユーキちゃん。たった今貴族の関係者の方が来てね、人を探してるみたい。ほら、あそこ」
いつも通り受付で仕事をしていたミリアちゃんに尋ねると、人集りの中心を指差しながら教えてくれる。
そこには燕尾服の様なものを着た老年の男性がいた。
ほうほう。この世界にも貴族階級があるのか。
日本に住む平凡な人間の俺には全く縁の無いもので、なんか偉い人達って程度の認識だけど。
「へぇ、誰を探してるんだろうね?」
「分からないけど、『お嬢様を助けてくれた冒険者』を探してるんだって」
「そりゃまた難儀な」
これだけ数が多い冒険者から、目的の人物を探すのは難しいだろうに。
「当家のお嬢様を助けてくれた冒険者は、白いローブを着た小柄な女性で、長い白銀の髪をしていたそうです。お心当たりの方はいらっしゃいませんか?」
――ん?
なんか聞き覚えのある特徴ですね。
視界を正面に戻すと、彼女が俺を指差していた。
あ、やっぱり?
「ユーキちゃん、昨日トレントに遭遇してた子を助けにいったって言ってたよね……?」
「うん……言ったね」
「もしかしてその子が貴族のお嬢様だったんじゃ……?」
「いやいやまさか」
そんなやりとりをしていると、背後から肩を叩かれる。
恐る恐る振り向くと、昨日助けた水色の髪の女の子がそこにいた。
「見つけた……!」
そして俺の顔を見た瞬間、顔を少し顔を赤らめながらそう呟いたのだった。





