表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/98

彼女は激怒した

「あれ?」


シャロを慰めてから会場に戻ろうとしていたその時、物陰に身を潜めているキャロを見つけた。こちらには気づいていないようで、思わず悪戯したくなり、ばれないように近づいていく。そして――。


「キャロ、何してるんだ?」


「うわぁっ! ハ、ハクヤにぃ! あっ!」


俺に気づいて驚きの声を上げたキャロだったが、すぐに俺の口を押さえ、何かから隠れるように一緒に身を潜めた。キャロの様子から、ただ事ではないことが窺える。すぐにテレパシーを使い、声を出さずに会話を試みた。


『キャロ、どうした?』


『それが、少し外の空気を吸おうと思って出てきたら、ルーちゃんとアンリって人が一緒にいるのを見かけたの。それで後を追ってきたら、こんな人気のない場所まで来たから、私もびっくりしたわ』


そう伝えながら、キャロはある一点を指差す。その指の先へ視線を向けると、確かにルリとアンリがいた。


先ほどのキャロの声が聞こえていたのか、アンリは周囲をキョロキョロと見回している。幸い、こちらにはまだ気づいていない。ルリの方も確認してみたが、やはり気づいていないようだった。

そんな2人を見ながら、俺とキャロは聞き耳を立てる。何かを話し始めたのはアンリの方だった。


「いきなり連れ出してごめんね。ルリさんに話しておきたいことがあって」


「その用件は何?」


「ルリさんのことを、1試合目からずっと見ていたよ。とても可憐で美しかった。そこで、次の試合で僕が勝ったら、僕の婚約者になってくれないか? 僕はこう見えても良い家柄の出でね。身分的にも問題ないと思うけど、どうかな?」


(何を言ってるんだ、こいつ)


そう思った時には、自然と2人の間に割って入ろうとしていた。だが、それをキャロが必死に止める。そこで我に返り、2人の様子を特にルリの反応を確認した。


「ごめんなさい。私には付き合っている人がいるので、あなたと婚約するつもりはありません」


申し出を申し訳なさそうに断るルリ。だが、その目には一切の感情が映っていなかった。

アンリは断られるとは思っていなかったのか、一気にルリとの距離を詰める。


「その恋人っていうのは、誰なのかな?」


「えっと、ハクヤといって、この大会の新人戦の解説をやっている人です」


ルリが俺の名前を出した瞬間、アンリが勝ち誇ったような表情を浮かべたことを、俺とキャロは見逃さなかった。


「……そうか、彼なのか。なら、やっぱりルリさんとは不釣り合いだと思う」


「それは、どうしてですか?」


「彼は、この新人戦の本選に出場していない。ルリさんより実力が下なのだろう。それに僕は調べたんだ。彼は予選にすら出場していない。腰抜けだ。君とは不釣り合いだよ」


アンリの言葉を聞き今度はキャロが飛び出そうとする。それを慌てて止めながら言われっぱなしなのも癪なので俺が出ようとした。だがその瞬間、ルリから異様なまでの圧を感じその場で足を止めた。


「ハクヤが私より弱い? ハクヤが腰抜け? あなた、見る目がないんですね。分かりました。次の試合で、もし私に勝てたなら――いいえ、私に傷をつけることができたなら、私はあなたの婚約者にでも、奴隷にでもなりましょう」


「ほ、本当なのか!?」


「ただし、負けたら……今後一切、私に近づかないでください」


ルリの放つ異様な圧に、アンリも黙り込んでしまう。そしてそのまま、ルリは会場へ戻っていった。その後を追うように、アンリも会場へ戻っていく。


「ハ、ハクヤにぃ。なんか凄いことになったわね」


「ルリがあそこまで怒ってくれるのは、嬉しいけどな」


こうして、俺とキャロも少し時間を空けた後、会場へ戻っていった。


「さあ、時間です! すでに選手は揃っております。ステラ学園順位2位、魔王の娘であるルリ選手対、氷を操る美少年、アンリ選手です! ハクヤ君、この試合をどう見ますか?」


「正直、ルリ選手の圧勝だと思いますよ」


「へえ、それはなぜ? 確かにルリ選手は強いけど、アンリ選手だって相当な実力者だと思うよ」


カスミ先輩は非常に興味深そうに俺を見つめている。理由を早く聞きたくて仕方がないのだろう。

ルリには、これまでの2試合とは明らかに違うところがある。まあ、カスミ先輩のように気づかない人もいるらしいが。


「今回のルリは、最初から〔魔王・覚醒状態〕なんです。正直、この状態のルリに勝てるとは思えませんね」


「なるほど……アレス選手との試合で最後に見せた状態なんだね。これに対してアンリ選手がどう戦うのか、気になるところです」


いい具合に言葉を交わして場が整ったところで、2人の選手の準備も終わったようだ。互いに開始位置へつき、細剣(レイピア)を構えるアンリと、一見すると無防備に立っているだけのように見えるルリ。


「では、始め!」


「〈氷の世界(アイスワールド)〉」


開始の合図が響いた直後、アンリが魔法を発動する。すると、会場全体の温度が急激に下がっていくのが分かった。


一応、観客席や俺とカスミ先輩がいる場所には〈障壁〉が張られており、魔法や飛来物による二次被害が出ないようになっている。この温度も一定以下には下がらないようになっているはずだが、それでも鳥肌が立つほどには冷えていた。


そして選手たちがいる場所は、目に見えるほど青白く染まり、気温はとっくに氷点下へ達しているだろう。足元まで凍りついている。自分に有利な環境を作るという点では、アンリ選手が一歩上に出たと言ってもいい。


「この空間は僕の領域だ。ルリさんは、もう何もすることができない」


アンリ選手の声が妙に響く。そして、ゆっくりと一歩ずつルリ選手へ近づいていった。対するルリは、一歩も動かない。


「先手を取られたルリ選手! アンリ選手の作戦が見事に決まったのでしょうか!」


両者が互いの腕の届く距離まで近づいた時、それは起こった。

細剣(レイピア)を構え、攻撃を仕掛けようとしていたアンリ選手の〈防壁〉が、突然砕け散ったのだ。


「しょ、勝者! ルリ選手!!」


あまりにも異常な光景に、審判すら勝者の宣言を忘れかけていた。当然、アンリ選手は何が起こったのか理解できていない。だが、自分が敗北したということだけは、しっかりと認識しているようだった。


「ハクヤ君、これは一体?」


「おそらくですが、温度の問題でしょう。生物は寒すぎる環境に長時間さらされれば、凍死します。ルリ選手はアンリ選手と同じタイミングで〈氷の世界(アイスワールド)〉を発動し、アンリ選手の体に影響が出るほど温度を下げた。結果、それを〈防壁〉が感知し、アンリ選手の代わりにダメージを受け続け、耐え切れなくなったのだと思います」


正直、ルリが魔法を発動した瞬間をまったく捉えられなかったため、これが正解なのかは分からない。だが、考えられるのはこれしかなかった。ここに来て、これまで以上に圧倒的な試合を見せられ、観客たちは大盛り上がりとなった。声援と拍手が送られる中、ルリは静かに会場を後にする。


そして、本日残る試合は2試合となったのだった。

カスミ「次の試合は、第3位決定戦となります」


ハクヤ「シャロ選手対アンリ選手ですね」


カスミ「アンリ選手は、戦えるんでしょうか?」


ハクヤ「さぁ、どうでしょうね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ