if1-2.燈火の導く散策道中
書き溜めは無いので、ライバルの登場は未来で待ってて。
夜が明けると、私達は『魔法使い』が居るという場所へと向かった。
『魔法使い』は何処かへ定住しているわけではなく、様々な地域を周りながら信者達に聖火を授けているそうだ。
霧が濃い。目的地は近いはずだが、視界が通らず先が見えないため、足取りも自然と重くなる。
霧の中で仮面を被ったクリスとはぐれないよう、彼の服の裾を掴む。
「この先で本当に合ってるの?」
彼は掴まれた腕から私の手を取り、その手を繫ぐように移す。彼は手を引くようにしながら言った。
「ああ、大丈夫だ。ソレにもう見つけた」
彼を見上げて、その視線を追う。
遠くからシャリン、シャリン、と音が鳴る。
その音に合わせるように、道の先で小さな灯りが動いているのが見えた。
音が鳴る度に、その灯りは近づいてくる。
しばらく歩くと、布付きの三角笠を目深に被り、ランタンをもった修道服の法師に出会った。被っている仮面はクリスや〈銀の弾丸〉の協力者が被っているものと同じだ。
「やあ早かったね。少し手伝ってくれないかい?人探しをしているんだ」
法師はそのように声をかけてきた。
クリスは軽く首を下げて頷く。
法師は屈んで、背の低い私に目線を合わせるようにして話しかけてくれる。
「君とは初めて合ったね。私はキャステル。君も良ければ人探しに付き合ってはくれないかい?」
キャステルと名乗る法師は穏やかな声で語り掛けた。
「うん」
「ありがとう」
微笑みを浮かべながらキャステルは感謝を述べ、立ち上がると振り返り、歩き出した。
シャリン、シャリン、と手に持ったランタンから音が鳴る。
その音を頼りに私達二人は三角笠の法師を追った。
(彼女さん、とかでは無いのかな)
行商道から外れ、森の中の山道に入る。霧は広く森全体を覆っている様だ。分かれ道に至って私は二人に問う。
「この中から見つけ出す?」
「無理だな。まあ道案内がいるから追えはする」
「そうだね」
キャステルはランタンを掲げてその炎を見つめる。炎は風も吹かないのに一つの方向に傾いているようだった。
(何処かで見たような炎)
その炎は何故か自分に馴染みのあるソレに似ていると感じた。キャステルは言う。
「向こうだ」
キャステルは分岐点から道を決め、私達はそちらへ歩き出す。
進めば進む程、炎の傾きは和らぎ、代わりにその明るさを増すように燃えていた。
「もうすぐだよ」
炎の灯りは、視界を防ぐ霧を晴らすように道行きを照らし、やがて探し人の姿を写した。
「見つけた」
探し人の少年は霧の寒さで震え何かに怯えるようにしていた。
クリスと私はすぐにその原因に気付く。
「荒事は任せてしまってもいいかい?」
「悪くない」
「行く」
二人は間を置かず駆け出す。霧の中に潜む複数の〈殺意〉。私達には酷く馴染みのあるものだ。
「グオォ!」
茂みの中から狼が現れる。一匹目を私が、反対側から来る獣はクリスが対処する。
剣を震えば一撃で両断出来る。数と散開してる布陣を除けば普段と比べて大した敵ではない。
「頑張ったね。『愛し子に癒やしを』」
キャステルは少年の元へ行き、怪我を治療する魔術を使う。泥道で転んだ時に出来た擦り傷がすぐに治る。
「「グオオォ!」」
周囲に散開していた狼が、順々に遠吠えをする。その情報の伝播を受け、私達は新しい敵の存在を感知する。
「さて、どうしたもんかね」
「周囲から敵が集まってる。逃げるのは難しそう」
「あいつら、感情あると思う?」
「変わらないと思う。あれは囲む殺し方だから」
わざと感情を煽って、敵勢力に呪いを伝播させる。接近戦と乱戦を得意とする私達の基本戦法だけど、今回の獣には余り有効ではない。
「吸血鬼どもはこっちの事舐め腐ってるからまっすぐ来るが、野生の獣だ。〈殺意〉自体が生存戦略の範疇に収まる。奴らは変わらず狩りを続けるだろうよ」
「じゃあ僕の出番だね。二人には僕とキッド君の事を守ってほしいな」
キャステルは床に何やら印を書いていく。クリスの使っていたルーンと同じものだろうか。
「なるたけ纏まっておけ。あいつは結構派手にやる」
「心外だね。僕はこれでも平和主義で通ってるんだ」
「破戒僧がよく言いやがるぜ」
森の奥から獣の主が出てくる。二足歩行の狼、しかし、その大きさはそれまでのものとは比較にならない。
『グオオォ!』
「君達に恨みは無いけど、人が襲われてるのを黙って見過ごす主義ではなくてね。さあ森に住む物者よ『この場よりたちされ』」
キャステルの指の先から組んだ印を通って炎が駆け巡る。近くにいる獣の主から、それから他の狼たちに炎は向かっていく。
狼達が蜘蛛の子を散らすように去っていくのを悟って、獣の主はきびすを返し、四足で走り去っていく。
「ほら、危ない奴だろ」
「あれだけの数を一瞬で追い払うなんて」
「そりゃあそうだよ、だってこれ、ただの獣避けのまじないだもの」
私が本日一番の衝撃を受けたところで、この奇妙な人探しは終了された。その後はなんら妨げもなく、難なく麓の村に辿り着く。
「キッド、無事で安心した」
「パパ、心配させてごめん」
村につくと依頼人、少年の父親と少年が抱擁を交わす。
その様子を私達三人は後ろで眺めていた。
私には、その時見える色に違和感を感じた。
「ねえ、彼らは悲しんでるの」
「どうしてそう思うんだい?」
三角笠の法師、キャステルは聞く。
「だって二人とも涙を流している」
「うーん。涙を流しているからといって必ずその感情では無いよ。安心したと言っているし、心配とか助かったみたいな気持ちがあるんじゃないかな」
「そう」
それはなんだか意外に思えた。だって私はその感情を見たことがある。
クリスは仏頂面でキャステルに言う。
「それで火種を貰いたいんだが」
「そうだったねいつものとおりに」
クリスは火口箱を取り出して両手を差し出す。
キャステルはランタンを腰のベルトに付けてから、その両手を取る
キャステルがクリスの手に触れると、その間から鮮やかな色の火が起こる。キャステルが腰に提げているランタンと似ている綺麗な火だ。
「さあ君も」
「えっ」
そう言ってキャステルは私の手を取る。私の手からも白い火が立ち上る。
「クリスの事は好きかい?」
「っへ?」
白い火が少し赤く灯る。
「ふふ」
「おい」
キャステルは二人分の火を合わせて、一つの火に纏める。それをクリスの持つ火口箱に近づけると、火は吸い込まれるように箱の中に仕舞われた。
「この炎が二人の道行きを照らさんことを。ふふ、この様子だと次に聖火を貰いに来るのはだいぶ先になりそうだね」
「お前までシュガーソルトみたいなことを言うな」
「ふふ、僕は本心で言っているだけなんだけどな」
そんなやり取りが終わると、キャステルは依頼人たちに向きなおり、会話をする。そして先程のようにランタンから火を取り出すと依頼人の元へ返した。二人の家族と、聖火を繋ぐ法師。その姿はまるで童話の一幕に出てくる『魔法使い』のようだった。
「じゃあ行くか」
クリスは荷物を持って、立ち去る。私もその後を追う。
「またね。お姉ちゃん」
探し人、キッドと呼ばれていた少年が手を振る。振り返るとその父やキャステルも手を振っている。
私も同じように手を降る
クリスもそれを横目で見て、正面に目を伏せてから後方に手を振り、歩き去る。背中を見て、その感情は伺いしれない。それと重ねるようにミリアは思い出す。
湖上で窓から飛び出した時のことを。
(私の顔を見たクリスは?)
眠りにつく時とは違う、その色はなんだったのだろう。
そして、私は走る。彼の元へと。
置いていかれないように、離れないように、霧の中に進む彼を一人にしない様に。
そうして、私達はまた二人で並んで歩き出す。
魔法使い編、完。




