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赤い晩餐を口にした  作者: 宮山悠


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Ep.1 食卓にない色

私の家の食卓に、トマトが並んだことは一度もない。


ケチャップも、オムライスも、ナポリタンも。


セロリも出たことがないのは、私がアレルギーだからだ。


でも、トマトだけは特別だった。


給食でだけ、冷たい赤い塊を口にした記憶がある。


家では、絶対に。


「どうしてトマトを食べないの?」


と聞いたとき、母は少しだけ笑って、


「嫌いなのよ」


と言った。


その笑顔が、妙に遠かった。


私はそれで納得したつもりになっていた。


――本当は、ずっと引っかかっていたのかもしれない。



※※※



母の命日から、ちょうど三年目の夏。


白い封筒が、ポストに刺さっていた。


差出人の名前はない。


厚手の紙は手に重く、中央に小さなトマトのイラストが描かれていた。


その赤が、少しだけ濃すぎる気がした。


封を開ける前から、手のひらが汗ばんでいた。


開けてしまえば、何かが決定的に変わるような予感がした。


それでも、私は封を切った。


中から出てきたのは、赤い紙が一枚。


「羽瀬川花奏様へ

三日にわたる ザ・テーブル へ招待します。」


日時と集合場所――空港だけが書かれていた。


最後に、短い一文。


「あなたは、選ばれています。」


封筒の端に押されたトマトの印は、血のように濃かった。


最初はイタズラだと思った。


そう思おうとした。


けれど、もう一枚の写真が、私のその考えを粉々に砕いた。


母の、古い写真だった。


広いトマト畑の真ん中で、母が笑っている。


私の知っている母の笑顔ではなかった。


楽しそうで、どこか遠くて――まるで別人のように。


裏側に、短い文字。


「あなたのお母様も、かつてここの客でした。」


部屋の空気が、急に重くなった。


母がトマトを嫌っていたはずなのに、なぜあの写真では、あんなに幸せそうに赤い実の中に立っているのか。


知らないままでいる方が、楽だったのかもしれない。


でも、知らないままでいることの方が、ずっと怖くなった。


私は写真と招待状を並べて、長い息を吐いた。


母が、そこにいたから。


――私は、ザ・テーブルへ行くしかない。

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