温泉に入ろう。
空や遠くの景色を見てると気づかなかったが、下界を見ると、何だかとんでもない速度で移動してる気がする。
ドームのせいで、もとい、おかげで風圧もないから気が付かなかった!
速度違反がなくて良かったよ。
それに、遠くに見えてた鳥が近づくと、もの凄くでっかかったりしてビビる。
『ロックバードとかワイバーンとかコカトリスとかグリフォンとかヒポグリフとかフェニックスとかスパルナとか、色々いるからねー』
ぉぉぉ……
お伽噺に出てくるヤツばかり……。
何故に地球と同じ名前なんだろうか?
はっ! そう言えばインベントリの説明書き、あの文字って日本語じゃないのに読める!
もしかしたら、わたしが解るように自動変換されてるのか?
だとしたら、ううん、そうとしか思えない。
うわーうわーうわー! 神様、大盤振る舞いですね!
ありがたやーありがたやー。
ぺこぺこ
『ワイバーンは美味しくないけど、素材は冒険者に人気。あと、スパルナの羽は綺麗だよ。美味しいって聞くのはロックバードだね。今度狩って来るよ』
ひっ!?
『えっ? 食べたくない?』
い、いえ! インベントリに突っ込むだけで解体出来るので!
バードってんだから、鶏肉だもんね!
はい! いつでもどーーんと来い!
『うん、ぼくも楽しみ!』
ふへへ……へ……
うむ、でっかくて怖いけど、食卓に上る食材食材。
解体されてお肉になってたら怖くない。
うむ。
そう言えば、休まなくて平気?
疲れたら降りて休んでいいんだよ?
『大丈夫だよー。神樹の森なら何周でも出来るよ』
すごーい!!
『ラナは? 疲れた?』
大丈夫! 元気いっぱい!
ふんすっ!
『お日様がてっぺんより少し傾く位には到着するよ』
はーい!
そう言えば時間の概念はあるんだろうか?
きっと人里にはあるんだろうけど、森だと分からんな。
前世で時間に追われてた身としては、今の状況は少し心許ない。
でもまぁ好きなように起きて好きなように食べて好きなように寝るのも悪くない。
完全にニートだけど、3歳児だもの。
大義名分あるんですー!
『ほら見えてきたよ』
お! どこどこ!?
って、川の畔にある、白の泉よりだいぶ大きいアレ? 湯気がゆらゆらしてる。
『そうだよ』
泉と呼ぶには大きくて、湖と呼ぶには小さい。
そうなると池?
『あそこから少し離れた場所に降りるよ』
はーい!
温泉と思しき場所の上空を、くるりと旋回してアストロの降りやすい場所を探す。
見渡す限り、近くには開けた場所はなさそうだ。
なので、河川敷に降り立つ。
大きな川の流れは緩やかで、川面はキラキラと光を放ち、とても綺麗だ。
この川も透明度が高い。
汚染されてない証拠だなぁと、元いた場所に思いを馳せる。
都会は雑多で光るのは夜の街位だった。
仕事帰りは、ほぼ深夜だったから馴染みの光景だ。
感傷にふけってると、小さくなったアストロが
『ラナ? 疲れちゃった?』
と、声を掛けた。
はっ
「ううん! きやきやちててきえーななーって」
『うんうん、川に落ちないようにね』
アストロの背中に乗せられて、テクテク。
時にぴょーん! と川を飛び越え、温泉の池に向かう。
常人は推定川幅5mは予備動作なしで飛び越えられませんけどね。
ぐぅ〜……
あっ 『おっ?』
お弁当持って来たから、どこかで食べよう!
家を出せる場所がなかったら困ると思って、お弁当別にしておいて良かった!
敷布はないけど、岩の上に座ってサンドイッチとスープでお昼ごパン。
何故か外で食べると美味しく感じるよね?
『そう? 家で食べても美味しいよ』
……気分の問題なんですー。
◇◇◇
降り立った場所から、ほんの少しの所。
ふわっと何かを抜けた気がした。
何だろう? とキョロキョロしてると
『ここには結界があって、争い事をすると弾き出されるんだよ』
えっ
何のために?
『この場所は癒しの空間になってるからね。魔物も動物も、ここでは一時休戦。この場所を出た瞬間に狙うのもナシなんだ』
ほへー!
あっ! 湯治か!
『とうじ?』
そう、怪我とか身体の不調な場所を癒すためにお湯に浸かって身体を整えるの。
『へぇ、確かにそんな感じの場所だね。湯治って言うのか』
えーと、この世界でどう言うかは知らないんだけど、わたしのいた世界、ではそう言ってたよ。
『じゃあぼくは湯治って呼ぶー』
ふふっ、伝わればそれでいいもんね!
あっ! 見えてきた!
湯気がもわもわしてる先に温泉!
「おんてん! わぁぁ! ちゅっごぉぉい!」
とてとてと走って行くと、奥に先客が居た。
ひっ!!
思わずアストロにしがみつく。
『ん? あぁ、大丈夫だよ』
さっき聞いたから襲われないって分かるよ!
分かるけど!!
『おぅ、グラシャんとこのか。何だそのちまっこいの』
『ニーズこんにちは。この子はラナ。ぼくの契約者だよ』
『契約したのか!? 人だよな? 物好きだなぁ! がははははは!』
和やかに話してるが、話してる相手が黒いドラゴン。
黒くて森の影と勘違いしてたが、その体躯は大きい時のアストロよりも大きい。
『ラナ、ニーズヘッグだよ』
「こ、こんいちは」
『おう、ちまっこいけど挨拶も出来るのか。偉いな! 人族はワシを見ると逃げるか斬りかかってくるヤツばかりだから新鮮だな! がははははは!』
oh......
そりゃここじゃなかったら逃げるか戦うかの2択だよな。
あ、失神するって事もあるか。
『ワシが入ってても入る余裕あんだろ? ほれ、入って来い』
「あい、おじゃまちまちゅ……」
『ぼくも入ろーっと!』
つったかつったかと、温泉に入ってしまったアストロを見て暫し。
え、ここで無防備な全裸? になるの?
でも服をきてなんて嫌だし……。
お湯に手を入れて温度を確かめる。
くっ! 適温じゃないか!
「よちっ!」
パパッ! と服を脱いでインベントリに放り込み、いざ!
そろりそろりと足を浸し、徐々に身体全体を沈める。
いきなり深くなってないので、3歳児でも大丈夫だ。
「ぷはぁ……」
あぁ温泉最高!!




