妹のはぐれドラゴン討伐
「はん! オオトカゲ風情がいい度胸ですね!」
「サル風情が大きく出たな!」
「もうヤダ……逃げたい……おうち帰りたい……」
現在、高位のドラゴンとの戦いの真っ最中、俺は全力で逃げ出したかった。
――話は数日前にさかのぼる
「お願いします! 土下座でもしますから! この依頼を受けてください!」
俺たちはセシリーさんに頭を下げられ必死に懇願されていた。
「面白そうじゃないですか! 受けましょうよお兄ちゃん!」
「ドラゴンねえ……」
俺は事情の説明を受けて非常に困っている。
依頼は竜の巣から逃げ出したドラゴンの討伐、本来ならばSランク以上でないとほぼ無い依頼だ。
「あの……普通に上位ランクのパーティに頼めばいいのでは?」
「それはそうなのですが……ギルマスがこの前の討伐で大活躍したお二人を他のギルドのマスターに自慢していたらこの依頼が舞い込んできまして……実を言えばこの依頼ウチに出されたものじゃないのですが、どうにも引っ込みがつかなかったらしく……」
酷い理由だった、ギルマスももうちょっと考えようよ! お願いだからさあ!
「ギルマスもいい気分で引き受けちゃって、私から制裁をしておいたのでお二人にはどうかこの依頼を受けてくださらないかとお願いしているわけです」
「まともな人はこのギルドにいないんですかね……?」
「この前の成功体験にギルマスが味を占めちゃったので……」
「これもう半分私たちのせいじゃないですか! これは受けるしかない依頼ですね!」
ミントも喜々として依頼を受ける気だしもはや選択肢は無いんだよなあ……
「はあ……受けますよ、報酬はちゃんと出してくださいね?」
「もちろんです! というかギルマスがこの依頼を外注した時点で結構な金額をもらってますからね! ちょっとあのおっさんをシメてでも払わせますよ!」
口が悪いですよセシリーさん……
「とにかく! 報酬はしっかりいただけるということなので私たちに任せてください!」
「ありがとうございます!」
こうして俺たちは逃亡ドラゴン討伐の依頼を受けたのだった。
翌日、俺たちは逃げ出したのが高位のダークドラゴンということを聞き、もうすでに嫌気がさしていた。
「さあ行きますよお兄ちゃん! 悪辣なドラゴンから人民を救わなければなりません!」
「逃げたい……」
「馬車が来ていますのでそれでドラゴンの逃げた先に行ってください、よろしくお願いします」
セシリーさんは逃げ道を塞いでもはや戦うしかないという、選択肢の無い理不尽な依頼は始まるのだった。
目的地は鉱山、逃げてきたドラゴンから更に人間が逃げるハメになって現在採掘が出来ず困っているというわけらしい。あのギルマスももうちょっと考えてから発言してほしいものだ。
「お兄ちゃん、バフお願いしますね」
「はいよ」
――――
力「S+]
体力「S+]
魔力「AA」
精神力「S]
素早さ「S」
スキル「神聖魔法」
――――
相性の関係で付与魔法は神聖魔法オンリーだ、他の属性に振るのをやめて基礎能力に極振りしておいた、これでダメなら逃げるしかない。
「おお、力が湧いてきますね! あ、これにエンチャントもお願いします、聖属性にしてください」
ミントがドラゴンを相手にするには余りにも小さなナイフを取り出して頼む、あっれー? ドラゴンって成体が逃げ出したって聞いたんだけどなあ……少なくともそのナイフで切れる相手じゃないような気がする。
俺もヤケクソになってナイフにできうる限りの属性付与をしておいた、傍目に見れば多少ナイフの刃が虹色の輝きを帯びている程度の魔力は注いだ。
「いい感じですね、負ける気がしません!」
そうですか、もうあなたに賭けるしか手がないので頼みますよ妹さん……
そうして隣の町のギルド統括範囲に馬車が入っていき、「ここまでです」と俺たちの町のギルド範囲からはずれた時点で馬車を降ろされた。
「お兄ちゃん、いい感じにあの山が暗くなってますね? 大物ですよ多分!」
「魚を釣ってるんじゃないんだからな……」
「狙いはもっと大物ですからね!」
なんでコイツはワクワクしてるんだろうなホント……
「いいか、不意打ちで出来るだけ一撃で決着を付けろ、確実に処理するんだぞ?」
「任せといてください!」
そういうミントだが俺は全く信用できなかった。
そうして鉱山までたどり着いたので俺とミントは二手に分かれた、一撃必殺が戦略だが、不測の事態が起きた時に俺が注意を引いて後ろをとるという戦略だ。
なお、俺は自身にヒールもバフもかけられないのでドラゴンと正面切って戦ったら確実に負ける。
こそこそとドラゴンが寝床にしている採石場に忍び込む、ダークドラゴンだけあって夜行性で日光が差し込む時間は日陰に引っ込んでいるということだった。
目標のドラゴンは日の差し込まない大きな坑道の中に入って少しも周囲を気にすることがなく眠っていた。
ドラゴンは強い、強いが絶対数が少ないので人間を全て敵に回すには厳しい、そこで事情がなければドラゴンとは不可侵の契約を結んでいる。
だが時々、理由は不明だが以前と同じようにこう言ったイレギュラーなドラゴンが出てくる。基本的にドラゴンの巣を出たドラゴンは狩っても問題無い。逃げてくれるならそれにこしたことはないが、こういうときは人間が手を下すことになる。ドラゴンも同胞殺しは嫌なので俺たちに丸投げしている、このようなドラゴンを殺してもドラゴンからの報復がないことは保証されている。
さて……文字通りドラゴンの寝首をかかなければならない、ミントは坑道入り口の上の方に陣取った、不意打ちは無理そうだな……
俺は足下にあった小石を拾い、全力でその竜相手にぶん投げた。
コツン
小さな音を立てて石が落ちる。ドラゴンは気が付いたらしく俺に対して威嚇してくる。
「ふん、人間風情が来たのか、我はここから去る気はないぞ。今なら見逃してやろう」
ああもう……怖いなあ畜生!
「はっ! 巣から逃げ出すようなドラゴンが随分と偉そうだな!」
ダークドラゴンは首をあげて俺をにらむ、もしブレスが来れば一発で消し飛びそうだ。
「安い挑発だな、人間ごときに我は力を出す気はない失せろ」
「暗がりからも出てこれない爬虫類のくせに結構な態度じゃあないか! その足は飾りか? 日光さえ怖がるお前を人間が怖がると思ってるのか!」
俺は震える足で少しずつ後ずさる。さすがに竜種としてのプライドを傷つけられたのかのしのしと歩いてくる。
そして洞窟から首が出たところで……
「今だ!」
「かかりましたね! 大トカゲ!」
ミントがエンチャント済みナイフを背中に突き刺す。鱗も通さないんじゃないかと不安だったが、一応ダメージは通ったらしい、ドラゴンは悲鳴を上げた。
「ぐああああああああ!!!!!!! 人間ごときがああああああああ!!!!」
そうして冒頭の場面へと至る。
「トカゲだと! サルごときが生物の頂点たるドラゴンを相手にして言い度胸だ!」
「その頂点から逃げ出してきたのは誰なんですかねー? いやー生物界の頂点の底辺さんは言うことが違いますね!」
もはや止められない口論にドラゴンは日光が降り注ぐ坑道の外へ出てきた。
「出ましたねマヌケ!」
ミントは素早くドラゴンの背後に回って坑道入り口に立ち塞がる、これで日の光の古本で戦うことが出来る、戦略的には問題無い。
「ふん! 太陽ごときがなんだというのだ! 我はアンデッドのような脆弱な種ではない、貴様らに後れをとることなどありえんのだ!」
ドラゴン様が大仰に宣言している中で、こっそりミントが準備していた神聖魔法を使用する。
「ホーリージャッジメント!」
光の束がドラゴンの身体を包んで削り取っていく。さすがに一撃では倒せないようで瀕死のドラゴンが後に残った。
「人間風情が……竜にならぶだと!? そんなことがあっていいわけがない!」
必至に暴れるドラゴンにミントは神聖魔法を打ち込む。
「シャイニングスピア!」
光の槍がミントの手から飛んでいきドラゴンの胸部に突き刺さる。
「きさまらあああああああああああ!!!!!!!」
ドラゴンの叫びももはや恐れないミントは光の槍が消えたところで胸に向けてナイフを突き刺す、鱗はとうに剥がれており、その肉体にずぷりと腕ごとナイフが刺さった。
「ぐ……お……」
声を出せなくなったドラゴンがようやく動きを止めた。
「ヒール」
浄化用に回復をミントに使う、本人の怪我はないがドラゴンの返り血で真っ黒だ。
「お兄ちゃん! やりましたね!」
「そうだな、無謀な挑戦だったがなんとかなったな……」
そうして無事、ドラゴンの素材を剥ぎ取ろうとしたのだが、どうやらダークドラゴンは闇の魔力で身体を固めているらしく、日光に死体が晒されるとすぐに蒸発してしまうと後から聞いた。
――
「お二人ともありがとうございます!」
セシリーさんはいい笑顔で俺たちに破格の報酬を渡す、その手にまるで何かを殴ったかのような赤い染みが浮いていることについて、これだけの依頼をこなした相手に会おうとしないギルマスとの関連性を察してそれを見なかったことにした。
「報酬いいですね、貢献ポイントはどうせ無いんでしょう?」
ミントがそう訊くとセシリーさんも申し訳なさそうに言った。
「なにしろ他ギルドに出された依頼なので、ウチの貢献にしちゃうと後々トラブルになるんですよ、本当に申し訳ありません」
「報酬は良かったので構いませんよ」
そうしていつも通り俺たち兄妹の貯金がそこそこ増えたのだった。
なお、その後数日間ギルマスにあった人はいなかったらしい。
ようやく会ってくれた時にはものすごく下手に出てきていたと風の噂で聞くのだった。




