妹とまーた魔王軍幹部登場
今日は平和な一日……になるはずだった名残が温かいコーヒーカップに残っている。
過去形なのは要するにトラブルが起きたからだ。
「魔王軍幹部ですか……?」
「はい! 何が何でもお二人の力を貸して欲しいそうなのでなんとか……お願いします!」
目の前で頭を下げている男は魔王討伐軍の多少偉い人だ。俺たちに魔王軍と戦えというのは少々酷ではないだろうか?
「ほう……もちろん報酬ははずむわけですね?」
せっかく聞こえないように玄関から出て断ろうとしているのに乗り気の妹がいつの間にか出てきていた。
そもそもこの男も唐突に家を訪れるのはやめて欲しいし、朝食時を無視して入ってきていきなりの協力要請だ、はっきり言って迷惑なのだが……
「まあ外での話も何ですし、詳しく聞こうじゃないですか」
そう言って招き入れるのだった。そろそろコーヒーもすっかり冷めてしまっているころだろう。
家の中に三人で入ってテーブルに着く。俺の周囲だけ空気が重い気がする。
「実は……魔王軍幹部と名乗るものが宣戦布告をしてきまして……」
「ふう……相手がどの程度のものか知りませんが多分余裕でしょう」
「では協力してくださると!」
「それは報酬次第ですかねえ……?」
ミントはお金には忠実なので報酬が多くの人の命を左右するのだろう、基本的にコイツは誰でも彼でも助けたりはしない、物事には見返りが必要と考えている。まあ俺にだけは求めないんだけどな。
「このくらいは出せるのですが……」
しかしミントは見透かしたように言う。
「面倒な交渉はやめましょう! 最高金額で受けるか受けないか、その判断をするので姑息なオークションはやめて限度額を出してください」
「しかし……」
「いいですね?」
にこやかにミントは言うが、目は全く笑っていない。
「分かりました……これだけが払える金額です」
ゴトリとおかれた革袋には金貨が結構つまっていた。
ミントは袋の中身を底まで見てから、金貨を取り出してこすったり眺めたりしている。
「いいでしょう、その依頼、受けます!」
「ありがとうございます!」
とまあいつものように俺の意見は無視されて厄介な仕事を受けるハメになったのだった……
――馬車の中
「魔王軍が襲うと宣言したのはこの先の村でして……領主様も魔王軍との境界地を失うのは不味いと王に申し上げたら討伐軍を出してはくださったのですが……」
「「……」」
俺たちは無言で事情を聞いていた。
「あの村の兄妹も使えば兵力なぞ大して要らんだろう、と魔王軍と戦うには心許ない戦力しか出してくださらなかったんですな……」
はぁ……やっぱり軍に入るといいように使われるのか……予備隊という微妙な言葉に乗ったのが不味かったのだろうか?
「俺たちをそんな当てにされても困るんですが……」
「まあいいじゃないですか、今まで倒してきた魔物の数を考えたら信頼感もそれなりにあるんじゃないですか?」
「Fランクとは一体……?」
――
「そろそろ見えてきますな……」
「お兄ちゃん、バフ」
「はいよ」
――――
力「SS]
体力「S]
魔力「A」
精神力「S+]
素早さ「AA」
スキル「火属性魔法」
――――
戦闘をこなしてかなりこの妹バフも強くなっている、魔王軍程度ならミントは何の感情も持たずに蹂躙するだろう。
村に着くと、出迎えてくれたのは村長ではなく魔王軍だった。
一言で言えば村民が一カ所に集められ処刑される寸前のところだった、ギリギリ間に合ったか。
「おやおや、討伐軍が来るって聞いてたからもっと屈強な連中を連れてくると思ったんだけど……大したことないわねえ……」
幹部であろう魔族の女がそう言いながらこちらをにらみつける。
俺たちを連れてきた人事担当は固まっているが、俺とミントはその迫力に対し全く無反応だった。
「怖くないのかしら? それとも震えることも出来ないほどかしらね?」
「いやあ、ミントがブチ切れた時に比べたら全然……」
「その程度で怖いとかどんだけチキンなんですか?」
俺たちのバッサリ言い放つ言葉に狼狽えを見せる、しかし余裕を取り戻して言う。
「私は魔王軍幹b…………ぶぼぇ!」
名乗りを上げる前にミントの右拳が幹部の顔面をへこませていた、基本的にネームドを増やさないという謎の方針に従ってのことだろう。
「やるじゃない……うぼげ……」
顔面の後腹に一撃蹴りを入れて黙らせる。とにかく喋る暇すら与えないようだ。
「くっ……フレイムランス……」
詠唱の終わる前に物理攻撃が入って中断された、ミントがマウントをとって無心で幹部を殴り続けている、ちなみにコイツの部下達であったであろう多少の魔族はこの惨状をミルやいなや逃げ出していた。
「ちょ……やめ……ぐげ……」
ボッコボコにされて動くことも出来なくなった幹部に対してミントは余裕の表情で勝利宣言をする。
「ザコですね、この程度で幹部とかお里が知れますよ」
「この……」
「ヘルファイア」
ミントの軽くはなった魔法が幹部の身体を焼き尽くす。基本的にコイツにかなう敵は居ない、俺以外がコイツと戦うとまず勝てないだろう。
炭になった幹部の死体が風でバラバラに吹き散らかされていく、そこにはわずかばかりの焦げ跡だけが残るのだった……
「さあてと……」
ミントは集められていた村人達を見渡す。
「あなたたちはもう大丈夫ですよ! 魔王軍は私とお兄ちゃんが倒しました!」
「「「うおおおおおおおお!!!!!!!!」」」
「「「助かったぞおおおおおおお!!!」」」
とまあその村である程度の歓迎をされてから俺たちは町への道を帰っていった。
「さすが噂のご兄妹ですな! 魔王軍幹部をああも簡単に葬るとは……」
「あの程度の有象無象に苦労してたら命がいくつあっても足りませんよ」
「お二人とももっと高ランクを望んでもいいと思うのですがな……」
俺が話しに割って入る。
「確かに高ランクになれそうですけど、なったらきっとお金に困らなくなりますよ?」
「良いことではないですか?」
ミントが俺の言葉を察するように言う。
「要するにこういう『しょうもない』依頼を受ける必要が無くなるってことですよ?」
「ははは……出来ればもうしばらくFランクで頑張ってください!」
そうして俺たちは名もなき魔王軍幹部を倒してそこそこの報奨金をもらうのだった。




