妹と「ラーニング」
ピコーン
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妹に「ラーニング」を付与することができるようになりました。絆レベルは向上しつつあります
――
なんのこっちゃ……「ラーニング」? 学習? 一体何を?
しかもこの声が聞こえてきたのはギルドでその日の依頼を探している最中だった。しかし幸いなことにミントはヤバい依頼を探すのに夢中で俺の顔を見ていなかった、おかげで悟られずにこの謎のスキルについて考えた。
まずは戦闘向けなのだろうか? 出たとこ勝負で使うのは少々分が悪いしなあ……
このスキルを使うには……そもそもなんに使うのかも不明だしな……ふむ、とりあえず付与してみてヤバそうなら今日は引きこもるってことにしよう!
――
妹に「ラーニング」を付与しました
――
「あ、お兄ちゃん! もうちょっとこういうことは段階を踏んで欲しいのですが……唐突な付与は困るんですけど?」
「悪かったよ……なんか変化はあるか?」
「うーん……無さそうですね? 特に強くなった気もしないですね、普通にバフの方が力が湧いてくる感じですかね」
拍子抜けするような話だった。なんの変化もない? じゃあ一体何のためのスキルなんだ?
「よし、ゴブリン駆除の依頼を受けよう」
「え? 私たちならもっと上を狙えるのでは?」
「それはそうなんだが……試しにバフ少なめでやってみないか? 最近の戦いはほとんど力でごり押しだし、このスキルに何か意味があるなら分かるだろう? 危険なら即バフを使う」
ミントもそれに納得をしたのかゴブリン討伐を引き受けることになった、常設以来なので断られることは無い。ただ……俺達がそんな依頼を引き受けたことにやや微妙な顔をして以来の受諾を受け付けてくれたセシリーさんがいた。
「珍しいですね? これFランクの依頼ですよ?」
そもそもFランクの俺達がFランクの依頼を受けることをなぜおかしいと思われるのだろうか? 普通じゃないだろうか?
とまあそんなランク通りの依頼を受けるのが不思議なようだったが、結局その依頼は受領されたのだった。
町の外にでて、ゴブリンのよく出る地域に向かう。
「ミント、なにかスキルで変わった感じあるか?」
「いえ、特にないですね。少なくとも今のところはですが……」
とりあえずバフをかけていくか、抑えめにかけて様子を見よう。
――――
力「C]
体力「C]
魔力「D」
精神力「C]
素早さ「C」
スキル「ラーニング」
――――
ひとまず新しいラーニングをつけてゴブリンには苦戦しない程度のスキルを付与してどうなるか調べるか。
「ゴブリンがいますね、といってもこの程度なら潰すのは楽勝ですが、やりますか?」
「うーん……こちらの能力的には大丈夫か? 力が足りないならまだバフをつむが……」
「いえ、いけますね。ちゃんとナイフもありますし、あの程度ならサクッと切り捨てられますね」
「よし、危なくなったら引き返してバフつむぞ! 安全第一でいってこい!」
「りょーかい!」
そう言ってゴブリンの群れに突っ込んでいくミント、バフは適量だったらしく、苦戦することも無くゴブリンの首を掻いていった。
わずかな時間でゴブリンの死体が数個で積み上がり、討伐の証拠をストレージに入れて次の獲物を探す。
「あ、お兄ちゃん! 多分あっちにいます!」
そう言って一つの方向をミントは指さした、感覚強化のスキルは使ってないはずだが……
「なにか根拠が?」
「うーん……勘ですね。なぜかそっちの方にいそうな気がするんですよ」
「そ、そうか?」
そう言ってスタスタと進むミントを追いかけて俺もついていく。
結局のところ、その方向にゴブリンはいた、とは言え群れでは無く一匹のはぐれゴブリンではあるのだろうが……
「いるな……」
「サクッとやりますね!」
ザッ
茂みから飛び出すと同時にゴブリンの首にナイフが深く突き刺さった。そしてあっけなく絶命したゴブリンは何が起きたかすら分かっていないようだった。
「ふむ……」
「なにか分かったか?」
「いえ、次はこっちに向かっていきましょう」
「さっきもそうだがなにか根拠があるのか?」
「いえ、勘ですね……なんにせよ、後数グループ化って見てからお話しします」
そう言ってスタスタと歩き出すミントだが、無根拠でも無いらしく、それなりの数のゴブリンがいた。
一体から数体だったが数回繰り返すともはや「群れ」のみを的確に発見していた。
「なあミント、一体何が根拠なんだ? まさか無根拠ってわけでもないんだろ? 間違いなく探り当てる能力が上がっているとしか……」
「お兄ちゃん、ちょっとバフ減らしてもらえますか?」
「え……さすがにこれ以上削ったらゴブリンでもキツいんじゃ……」
「試しに、ですよ。危なくなったら思い切りつんでください」
「あ、あぁ……」
――――
力「D]
体力「D]
魔力「F」
精神力「C]
素早さ「C」
スキル「ラーニング」
――――
正直言ってこのくらいならミントが少し訓練したら到達できるであろうレベルだ。バフの意味すら怪しい。
しかし、そんなことは意にも介さずどんどんと次の獲物に進んでいった。
――
「ちっ……あの数だと多めのバフが要るな……」
ザッ
俺が止めるまもなくミントはゴブリン達の前に飛び出していった、「危ない!」と叫ぼうとしたがあいつはなんの困難も無くサクサクとゴブリンの命を狩りとっていった。
驚いたのはその動きで、素早さのバフがこれだけ低いのにミントは的確に攻撃を回避していた。
ゴブリンが原始的な意志の投擲や石器で攻撃してくるが、飛んでくるものは未来が見えているかのように的確に回避していった。石器で殴りかかる連中を軽くいなしてその首にナイフを突き立てる、とてもFランクの冒険者とは思えない手際の良さだった。
そうして群れが壊滅したのち、一体この力はなんなのかと訊いた。
「なあ、さすがに今のはバフの割に手際がよすぎないか? それとも自分でバフをかけられるようになったのか?」
しかし妹は首を横に振る。
「いえ、私はゴブリンについて「学習」ができたようです。ゴブリンを倒すたびにゴブリンの行動がどんどんと正確に予想できるようになるんです」
なるほど……ラーニングは倒した個体についての学習ができるのか……かなり強力だが、倒さないといけないというのは結構面倒なところだな……
「結構使えるスキルだな」
「そうですね……」
いつもならドヤ顔をするところだがなぜか渋い顔をしている。
「何かあったか?」
「大したことではないのですが、先ほどの討伐で「ゴブリンキング」の居場所が分かりまして……」
ううん……危険は犯したくはないんだけど……
目の前で曇り無き眼でこちらを見てくると断りづらい……
「町への危害の可能性は?」
最悪町に被害が無ければゴブリン側の都合ですむ話だし、俺達がわざわざ「偶然」遭遇する必要のある敵ではない。
「それが……ゴブリン達が餌場として町を選んでいるらしく……どうやらゴブリンキングが余計な知恵を与えているようです、討伐すれば霧散する程度の数に減りますがどうします?」
ああもう! 考えたってしょうがない! 迷ったら突き進む! 俺達には力があるんだ!
「分かった、バフをつんで叩くぞ、ナイフで大丈夫か?」
「先ほどのラーニングで急所が分かりました、寝首を掻くには十分ですね」
「オーケー、そこに行くぞ、その前に……」
妹バフを使用します
――――
力「S]
体力「S+]
魔力「A」
精神力「A]
素早さ「A」
スキル「火属性魔法、爆発系魔法、冷気耐性、ラーニング」
――――
「お兄ちゃん……キングって言ってもゴブリンなので過剰なバフだと思いますがね?」
「安全第一だ。お前まで父さんや母さんみたいにいなくならないでくれ」
「お兄ちゃんってナチュラルにシスコンですよね……」
「なんだよ?」
「いーえなんでも! じゃあ行きますか!」
そうして俺達はかけだした、もちろんバフをつんだ妹に引っ張って貰うという兄として少々情けない格好だ。しょうがないね、妹の方が強いんだもん。
――
そうしてしばらく走ると森の中に小さな木の枝でできた家のようなものがあった。
ゴブリンには通常、洞窟等の自然にできたものをねぐらにするくらいのことはあるが、こういった意図的な建造物は作らないはずだ……
「ここ……か……」
「行きますよ!」
「ファイアブレス!」
ミントの火炎放射でゴブリンの巣は綺麗に焼き払われる、その中にいた巨体が姿を現した。
「ニンゲン……コロス……」
ゴブリンキングが振り下ろしてきたメイス状のこん棒での攻撃をさっと横に躱し、目にもとまらぬ早さで後ろに回る。
「ここが弱点!」
ミントは敵の背中の中央や矢右の方にナイフを差し込む、悲鳴が上がった。
「ぎゃああああああ!!!!! ニンゲン! ユルサナイ!!!」
「相手にしたのが私だったのがあなたの間違いです!」
そのままナイフを下の方に向けて切り裂いていく、ゴブリンキングの巨体の背中に大きな傷ができてそこから血が流れていき、じきに活動を停止した。
「ま、こんなもんですかね」
驚く俺を差し置いて言う。
「洗うの面倒なのでヒールで浄化してください」
「あ、ああ……」
――
妹ヒールを使用します
――
そうしてすっかり地の落ちた格好でゴブリンキングの討伐の証拠になる手のひらを切り取って俺にストレージに入れるようにせがむ。俺はポイと放り込んでから訊く。
「他にゴブリンはいるのか?」
「うーん……いますけど有象無象って感じですかね、放置で特に問題ないでしょう。トップが死んで影響がなくなったので散っていってるようですね」
「そうか……じゃあ帰るか……」
「ですね」
そうして俺達は大量のゴブリンの耳とゴブリンキングの手のひらを入れたストレージと共に町に帰った。
――
「あら、今日は結構遅かったですね」
日が傾いた頃に帰ったのでセシリーさんに驚かれた、スキルについては伏せてゴブリンキングに「たまたま」遭遇したと報告し、通常個体の討伐の証拠と共に大きな手を置いた。
「まあ……こんなことではないかと思っていましたが……」
呆れられてしまった……普通冒険者は目的以外討伐をしないものだ、報酬が美味しくても貢献ポイントも無いし、なにより報告して正規の依頼にしてから受ければそれらがとても大きくなるのだから。
だからこそ、「F」ランクの俺達が手の届かない依頼として張り出される前に討伐することになったのだが……
そうしてしばらくの査定の後、結構な報酬金が支払われた。
「すごいですね! ゴブリンキングを抜きにしてもすごい数ですよ?」
そう言われて俺は苦笑しながら「運がいいんでしょう」と言っておいた。
余談だが査定が行われている間奥から野太い声で「ゴブリンキングに気づかないってどういうことだよ! ウチのギルドの面目丸つぶれじゃねえか!」と響いてきて、セシリーさんも顔を凍らせていたが、俺はそれについては追求するのをやめておいた。ギルマスも苦労が多いようだ……
そしてこれからも当分の間はFランクとして迷惑をかけるであろう人に心の中で謝罪をしたのだった。




