妹、エーテルを操作する
その日になんの脈絡もなく言葉が響いた。
ピコーン
――
妹の周囲のエーテルを操作することが可能になりました
――
エーテル……魔力を伝える媒介だ、それを操作できる? 今までエーテルを操作できる魔法なんて聞いたことがない。
俺がポカンとしているとミントが俺に尋ねてきた。
「お兄ちゃん、また何かできるようになったんですか?」
「あ、ああ。なんかよく分からないがお前の周囲のエーテルを操作できるようになった。」
「また使い道のよく分からない力ですね?」
「俺もそう思うよ」
なんなんだこの魔法は……試してみるか
――
妹の周囲のエーテルを除去」
――
とりあえず基本から試していこう。
「ミント、かまどにファイアーボールを撃ち込んでくれ」
――
妹に火属性魔法を付与しました
――
「えー……壊れちゃいますよ?」
「多分ならないから安心しろ」
ミントも半信半疑で魔法を使用した。
「ファイアーボール!」
プスン
気の抜けた音を立てて魔法は不発に終わった、どうやらエーテル操作とはこういうことらしい。
「お兄ちゃん! 魔法が使えないんですけど!?」
焦るミントに再度エーテルを操作する。
――
妹の周囲にエーテルを少量発生させます
――
「じゃあもう一度」
「はい、ファイアーボール!」
ポン! じゅう……
小さな火球がかまどに火をつけた。本気の時との威力の差は歴然としているがおそらくエーテル濃度のせいだろう。
「お兄ちゃん! 私を弱くして楽しいですか?」
時と目でにらんでくるみんとに使い道を説明する。
「いいか、エーテルが魔法を伝えているということは、周囲のエーテルを除去すれば魔法が届かないということだ。攻撃はできないが防御には使えるぞ」
しかも物理攻撃にはなんの支障もない、つまり妹バフで力を底上げすれば相手は魔法を使えず殴られるのみということになる。
「じゃあお兄ちゃん、ちょうどギルドにゴブリンメイジの討伐依頼があったので受けましょう!」
「えー……」
いつもの思いつきで行動するミントには世話が焼けるなあ……
そうして今日も俺達はギルドに来ていた。
「ほらお兄ちゃん! これこれ!」
なになに……ゴブリンメイジを中心とした巣ができあがっているので討伐をお願いします?
「群れみたいだが、危なくないか?」
「私が頑丈なのはお兄ちゃんが一番よく知っているでしょう?」
そりゃそうだ……ステータスが見えるのは俺だけなんだからな。
依頼のランクは……Eか、困ったことに受けられるランクだ。
「あ! ユニさん、ミントさん! それを受けてくださるんですか?」
セシリーさんが期待に満ちた目で聞いてくる、あ、コレ面倒な奴だ。
「ちょうどいい依頼なので私とお兄ちゃんで受けようかと思ってます、問題があるんですか?」
「問題なんて何もないです! 実はこの依頼、難易度の割に報酬が少ないということで受けてくれるパーティがいなくて困ってたんですよ! 放っておくと巣がどんどん大きくなりますし、ランクと報酬を上げて討伐隊を出そうかと話になってたんです! お二人が受けてくれるなら安心ですね!」
セシリーさんも初期はこういう依頼を俺達から取り上げていたのに、今では進んでこういう面倒なことのある依頼を勧めてくる、厄介な物だな……
「大丈夫です! 私たちがすべて討伐しておきますよ!」
とまあ、こういうわけで俺達はゴブリンを討伐する羽目になっていた。
そうしてやってきたのがゴブリンの巣の洞窟だが……
「結構文化的な生活をしているな、知恵を持った個体がいるだろうな」
「所詮ゴブリンですよ? 余裕余裕!」
なめきっているミントだがここで少し考えた方が……
「お兄ちゃん! バフお願いしますね!」
言うが早いか飛び出していく、しょうがないな……
――――
力「S]
体力「S+]
魔力「B」
精神力「A]
素早さ「A」
スキル「」
付近のエーテルを打ち消します
――――
早速新しいスキルを使ってしまう俺も大概だが、このくらいのバフで余裕だろう。
なにせ大将のゴブリンメイジは魔法が使えて知恵が多少はたらくだけで体力はゴブリンのそれと変わりない。
「ぐえええええ!!!!!」
「ぎあああああああ!!!!」
「ごおおおお!! ぎゃああああ!」
阿鼻叫喚だった……もはやゴブリンはわら人形同然にある物は壁に投げつけられ、あるものは頭を殴り割られ、あるものは首があり得ない方向に曲がり……とにかくゴブリンにとっては地獄絵図が繰り広げられていた。
奥の方まで殲滅を続けながら進んでいくと、洞窟の上部に開いた穴から日光が差し込んでいた、ここがボスの部屋か……
ゴブリンの首領はのんきに昼寝をしているところだった、俺達が現れてさぞびっくりしただろう。いや、今までのゴブリンの叫びを聞いて気絶していたのかもしれないな。
まあなんにせよ、取り巻き数匹と共にようやく危機感を覚えたのか俺達を見て威嚇している。
「ぐがあああああああああああ!!」
ゴブリンなりの詠唱でファイアーボールが作られる、下級魔導師程度の魔力はあるらしい、普通の冒険者なら怪我くらいはするかもしれない。
ただし飛んできた火球はミントの前で伝達物質のエーテルが遮断されており、その見えない壁を越えることなく霧散していった。
「?!?!?!」
途端に慌てふためくゴブリンたち。こいつらも敵に回した相手がマズかったな。
ベキっ、 ゴン、 メキメキ……
様々な擬音を立てながら排除されていく取り巻きのゴブリンたちの死に様を目にして、ゴブリンメイジも魔法を連発していた。
だがコールドジャベリンも、ライトニングボルトも、すべてがミントの周囲を超えることはできなかった。
そうして気の毒なゴブリンの首領はあっけなく拳という最古から存在する武器と、殴るという基本的な攻撃で頭を吹き飛ばされてすべてが終わった。
辺り一面に残るのはゴブリンの死体のみであり、この場で生きているのは俺とミントのみだった。
――
そうしてギルドに帰ってくるといつも通りの調子を誰一人崩していなかった。まるで「失敗するわけがない」と認識されきっているのだろう。誰も彼もが俺達を意に介すことはなかった。
セシリーさんがのんびり来たかと思うと俺達を見てニコリと微笑み言った。
「お二人とも、ご苦労様です。討伐報酬はこれになります。おけがは……してませんよね?」
「ええ、なんとか」
「余裕ですよ! あの程度の相手に怪我なんてしてたらとっくに死んでますって」
謙遜を知らないミントはドヤ顔で自慢を決めるのだった。
そうして報酬を受け取り帰宅する、ミントも俺もゴブリンの体液で汚れていたので体を流してベッドについた。
――その頃ギルドにて
「討伐した個体がゴブリンキングだと!」
「はい、取り巻きのゴブリンメイジの死体と奥の方にゴブリンキングの死体があったそうです」
「私たちの見立てが甘かったと言うことか……」
「どうします? ギルマス」
「俺達はゴブリンメイジの討伐を頼んだし、ゴブリンメイジが頭領として一匹いた、それ以上ではない。いいな?」
「はい、じゃあ貢献ポイントも……」
「二人には悪いがゴブリンメイジ基準と言うことになるな」
こうして大人の汚い事情が交錯し、そのパーティの貢献度はほとんど上がらなかったのだった。




