妹、やる気になる
「よっし! やりますよお兄ちゃん!」
俺はもうすでにロクな事にならないことを予想していた、コイツが本気を出すときということは相手もそれなりということになる。
「お兄ちゃんバフバフ!」
「はいよっと」
――――
力「AA]
体力「A
魔力「A-」
精神力「A]
素早さ「A」
スキル「火属性魔法」
――――
本日の任務は依頼ではない、ギルマスが非公式に俺達に頼んだものだ。
「アイスドラゴン討伐」そのとんでもない任務をお願いだからやってくれと土下座で頼まれた。
ミントはいい気になって「そこまで言うならしょうがないですねえ」などといっていたが死にそうな目に遭う危険のある頼みをその辺のお使い気分で引き受けるのはやめていただきたい。
当然アイスドラゴンが相手なので火属性魔法は付与しておいた。
町から少し離れた山に住み着いてしまって、山の作物の収穫に影響が出るほど気温が下がっているため早急に討伐して欲しいとのことだった。
それならギルドの上位陣を総動員すればいいじゃないかとも思うのだが、上位陣は全員「ユニとミントに任せれば無傷で帰ってくるだろ?」という他力本願極まる無茶ぶりをしたのだった。
もっとも町のギルドの上位陣はBランクがいいところでAランクでも苦戦する可能性のあるドラゴン戦に参加したがらないのも当然だった。
「お兄ちゃん? 念のため爆発魔法も付与しておいてください」
「あいよっと」
――
妹に爆発魔法を付与しました
――
山の中腹で俺達は討伐の準備を着々と進めていた。
防寒着を着て妹には冷却魔法耐性を付与する、対象は妹限定なので俺にブレスが間違っても当たらないように立ち回る必要がある。
「お兄ちゃん、アイスドラゴンって強いんですか?」
「そんなことも知らずに引き受けたのかよ……中級種だなダークドラゴンやホーリードラゴンに比べると劣るがそれでもドラゴンだからまともな人間相手なら死体も残らないのが普通だぞ」
俺達はそんな化け物のを相手にしなければならない、できれば人生で関わりたくない魔物だった。
山を八割方登ったところで気温がどんどん下がってきた、小さな山なので頂上も地上と変わらない程度の気温だったはずだ、それがこれだけ冷えているということはやはりアイスドラゴンの力ということだろう。
冷却耐性を付与したミントはまったく気にすることなく山道を登っていく。このスキルがせめて自分にも訊いたらいいのにと神様を恨んでみたのだった。
山の頂上、そこは一面が氷の柱で閉ざされており、すっかりドラゴンのストしての風格を得ていた。
さて、話が通じる相手だと助かるんだが……
「プロミネンス!」
そんな俺の穏健路線はまったく顧みられずミントは早速喧嘩を売る行動に出たのだった。
「人間……脆弱な生物ごときが我の巣を壊しただと……」
あー、ドラゴンさん完全に起こっちゃってますねこれは。
「ミント! 俺は離れてもう一回バフかけとくから負けるなよ?」
「余裕です」
――――
力「S]
体力「S]
魔力「A」
精神力「A+]
素早さ「A」
スキル「火属性魔法、爆発系魔法、冷気耐性」
――――
アイスドラゴンさんはミントを見てから少し驚いていた。
「ほう……人ごときが神の存在に力をもらったか、いいだろう、全力で相手をしてやろう」
ドラゴンはかなり放れていた俺でもあまりの寒さに凍り付きそうになるほどの冷気のブレスを放った。
吹雪が晴れるとそこにはミントが何事もなかったかのように立っていた。
「なに……! 人間が我のブレスに耐えただと!」
「あんな物で私に傷がつくわけないでしょう? 所詮は大きなトカゲですね、いえトカゲの方が気持ち悪い分殺しにくいのであっちの方が面倒ですかね」
「なあめええるなああああ!!!」
激怒したドラゴンが氷の爪をミントに向かって振り下ろす、その爪を軽々と受け止めてから。
「えい」
場きりという音と共に爪を根元からへし折った。
「ぐげええええええええええええええええええええ!!!!!」
さすがのドラゴンさんも恐怖しているようだ。
「分かった、ここからでていこ……」
「ヘルフレイム!」
その時に俺は気がついた、話し合いが成立しないのはドラゴンではない、ミントはそれ以上に話し合う気がなかったんだ。
「ぐぎゃあああああああああ……」
燃えさかる火炎と共にドラゴンの姿が焦げ跡へと変わっていった。容赦のない炎は綺麗さっぱり愛すドラゴンの体を蒸発させた。
俺が微妙に引いているとミントは平然と話しかけてきた。
「余裕ですね、もうちょっと強いかと思ったんですが、なんの問題もない程度の敵ですね」
なんでもない程度の敵だったのだろう、Aランクが複数集まって戦う相手をバフのみで屠ったことに対してなんの感慨も達成感すら感じていないようだった。
俺達はギルドに帰り着くと受付に依頼の終了とギルマスへの面会をお願いする。
話は通っていたのかすんなりとギルマスは会ってくれた。
「で、アイスドラゴンをもう討伐してきたのか……?」
「はい」
「余裕でしたね、私たちへのボーナスかと思いましたよ?」
乾いた笑いをギルマスは浮かべながら俺達への報酬を差し出した、今回は個人的なお願いということになっているので公式の貢献ポイントは一切つかない、その代わり報酬はそこそこはずんでもらった。
「この片田舎にこんな実力者がいるとは王都の連中も思ってないだろうな……」
そうギルマスがつぶやく。王都どころか国中を探してもミントほどの強さを持つものはほぼ居ないだろう。
俺達はギルマスの部屋を出て食堂へと休憩に行った、そこではやいのやいのと争乱が起きていた。
「ほらみろ、無傷じゃねえか! 俺の勝ちな! 金貨一枚よこせよ!」
「ちっ! 怪我の一つでもすると思ったがマジで無傷かよ!」
「大穴の死亡はやっぱりなかったかあ……」
「当たり前だろ! 倍率見てみろよ! あり得ない倍率になってんだろ、あんなもんに賭けるのは馬鹿と無知だけだぞ」
とまあ、要するに俺達がどんな状態で帰ってくるか予想して賭けていたらしい。
ちなみに一番人気は「無傷で平然と帰ってくる」でその次が「多少の傷を受けている」だった。
「二人とも死亡」の項目はほとんど賭ける人がいないのか、もし俺達が死んでいたら金貨一枚をかけただけでそこそこの家を一軒建てられるほどの倍率になっていた。
俺達への熱い信頼感はうかがえるのだが、賭け事の対象にされたのはまあ……しょうがないか……
「おうユニとミント! お前らがこの賭けの親だからマージンがあるぞ! まあもっとも本命が当たったからそんな大金じゃないがな」
そう言って俺達にずしりとした小さな麻袋を渡すのだった。
「お兄ちゃん! 儲けましたね!」
「おまえはそれでいいのか?」
「何がでしょう?」
「いや、なんでもない」
こうして俺達はドラゴンを非公式に討伐したのだった。
余談ではあるが他の都市からやってきたドラゴンだったらしく、後から来た討伐隊はこの町でドラゴンが忽然と消えてしまったことに困惑をしたらしい。




