妹と一緒に釣りをする
「お兄ちゃん! 釣りに行きましょう!」
なんだろう急に、いや急なのはいつものことなんだけどさ。
「どうした? 魚が食べたくなったのか?」
「まあそれもあるんですけど……ちょっと大きめの魚が町の近くの池に出てきたらしくって……始末してくれと依頼が来まして」
なるほど、指名依頼か。でもなぜミントに?
「指名依頼か?」
「ええ……まあ」
なぜか歯切れが悪い、指名とかなら大喜びで自慢しそうなものだが?
「どうした? 面倒な相手なのか?」
「いえ、多分楽勝ではあるんですけどね……」
「ん? 何か面倒事でもあるのか?」
コイツに回ってくる依頼がまともな物である可能性が低いのが悲しいところだ。
「実は……依頼理由が「魔法であけた大穴がため池になってそこに魚が来たんだから責任をとってくれと泣きつかれまして……」
ああ……お察しではある。確かに後先考えずに大穴をたくさん空けたもんな……
「道具は貸し出すので池でできる限り釣って駆除してくれと頼まれたんですよ」
とても悲しそうなミントだが、俺にも責任はあるので引き受けるしかないな。
「まあ、行ってみるか」
少し嬉しそうに頷くミントだった。
――その周辺へ行く途中
「じゃあコレが釣りの道具ですので、できるだけ釣っておいてください。くれぐれも! 爆発させて全滅させないでくださいよ! 食用の魚もちゃんといるんですから、全滅はさせないようにしてくださいね」
しっかりと安易な手段を執らないように道具を借りるときに念入りに釘を刺された。
「チッ」
隣で舌打ちが聞こえた気がするが気のせいということにしておこう。
そして俺達は自分で空けた穴を保守するためにそこへ向かうのだった。
――
「しっかし……大事になってるなあ……」
そこには中規模の池があった、大抵の池はゆがんだ形をしているが、この池がまん丸であることから人為的に作った物であることを語っていた。
「お兄ちゃん、釣りますよ?」
「おう」
粘土状の餌を丸めて針につけて糸を池に垂らす。のんびりする暇もなく当たりがあった。
「お、きたな」
ぐいと引っ張ると真っ赤で鋭い牙をガタガタ鳴らす魚がひっかかった。
ぷすり
その魚の息の根を針で刺して止める。俺達のせいでこの池に入ってきたわけで少し申し訳ないが責任を持って息の根を止めてやろう。
自分たちが原因なら手を汚して処理するのも俺達であるべきだ。
「あ、こっちにも来ました」
ミントがクイと引っ張ると同じような魚がかかっていた、俺の奴より少し小さいが牙はしっかりと生えていた。
「気が進まないですねえ……」
プスッと針を刺して魚を締める、残念ながら食用魚ではないので命を無駄に殺しているが、原因を考えるとしょうがないことではある。
クイ……ぷすり……クイ……ぷすり……
そうしてバンバンと引っかかる魚を釣っては締めるを繰り返して、周囲に多くの魚の死体が積み上がっていった。
ようやく日が暮れてきた頃、魚の山を見ながら、俺達は穴を掘って埋めていった。
「さすがに問題のある魚だとしてもこの数は罪悪感がなくもないですね」
本来別のところにいた魚を引き寄せた以上責任はとらなければならないが気分のよい物ではない。
「お兄ちゃん、魔法で衝撃を与えてまとめて狩りとるほうが気分はいいですね」
「それは禁止されただろ?」
脳筋の妹に対し、一応は罪悪感という概念があるんだなとは思う。コイツは力こそ正義ってタイプかと思っていたのだけれど、一応命をむやみに消していくのに罪の意識はあるようだ。
一番単純な解決方法が使えない残念な依頼で俺達の心身は消耗していった。
気の進まない作業をしばらく繰り返して日が落ちる前になんとかギルドまで帰ってきた。
――
「お疲れ様です」
セシリーさんも労ってくれる、今回は精神的にもキツい依頼だったからな。
「で? 報酬をいただけますか? もう当分魚は見たくないので今日はお肉を食べたいのですけど」
「はい?」
「え?」
何か根本的な認識のずれがあるようだ、想像はつくが……
「ミントさんが原因なのでギルドからの謝礼がつきますが報酬はないですよ?」
「えええええええ!!!!!!!! ひどいです! 何でそんな残酷なことするんですか!?」
ミントの悲鳴にも近い声に対して返答はかたくなだった。
セシリーさんも少し申し訳なさそうに答える。
「お気持ちはお察ししますが、依頼者たちにも被害の補償がギルドから出ましたので……あまり大金を渡すことはできかねます。貢献ポイントは少しためておきますのでこの金額で了承してください」
そう言って小さな袋を一つ差し出してきた。
中を見ると銀貨が数枚入っていた、安いっちゃ安いが……
「ミント、さすがに今回は分が悪い、諦めよう」
俺達が原因なのでギルドと揉めたとしても同情してくれる人は少ないだろう、今回はどうにも報われない依頼ではあるけれど、自分の蒔いた種は自分で刈らなければならない。
「うう……魚が夢に出そうです……」
かわいそうな物を見る目で俺達を見送ってくれたセシリーさんに一礼し自宅へ帰ってきた。
夕食は豪勢に牛肉や豚肉が多かったが、きっと単に魚以外の肉を探した結果だろう事は想像がついた。
なお、余談だがその後当分の間食事に魚が出ることはなかった。たまに魚肉の加工品が出てきたのだが、まあ……本人が気づいていないようなので俺も黙って食べるのだった。




