22話 マッスルマックス
「じゃあ僕はマックスを探してくるよ」
「ああ、よろしく頼む。もしかするとピート説得の重要な手がかりになるかもしれないからな」
ピートの事はアレンとミリアに任せるとして、僕はマックスを探す事にした。
部屋の入口にわざわざネームプレートが貼られているおかげで簡単に見つけられた。
コンコン
「誰だ?」
ノックすると奥から懐かしい声が聞こえた。
「やぁ、マックス久しぶり。突然で申し訳ないね。僕の事は覚えてるかい?」
椅子に座って何かの本を読んでいたマックスだったが、まさかの来訪者に驚きを隠せず思わず立ち上がった。
「リッチー!久しぶりだな!もしかしてお前、ポロリ教に入信したのか?!」
そう言いながら嬉しそうマックスが近づいてきたが相変わらずデカい。僕より頭1つ分は高いし肩幅もかなり広かった。
「いや、僕達はちょっとここに用事があってね。ついでに見学もさせてもらっているんだよ」
「そうか!ここはいいところだからな、何かあればすぐに入信するといい。昔のよしみでピートが面倒を見てくれるだろう」
「マックスもそうなのかい?なかなかいい部屋に住んでいるね」
僕は部屋の中を見させてもらった。
広めのリビングとキッチン、奥に寝室が見える。僕たちが泊まる安宿3部屋分くらいのリビングじゃなかろうか。
「さっきの祭壇でピートを見た時に近くにマックスがいたのが見えてね」
「あぁ、俺は幹部に取り立ててもらってな。正直、宗教の事はよくわからないが、ピートの護衛係として仕事をもらっている」
「ピートとはどうやって?連絡でも取り合ってたのかい?」
「俺は、王都で兵士として就職したんだがな。オレの限定強化のせいでどうもうまく馴染めなかったんだ。そんな時に学園長から手紙が届いてな。それからここに来たんだ」
「学園長から?」
「あぁ、元々このポロリ教団は学園長が設立したものだ。一人で一気に大きくしてそこからピートと俺を呼んで、教団の金を持ち逃げしたんだ」
「えぇぇ……」
「ピートは次期教祖として信頼も厚かったのでそのまま学園長に代わって教祖として力をつけていった。俺の事もそのまま面倒見てくれる事になってな、感謝している」
アルバドが話していたのはこの事だったのか。ここにきて突然存在が露わになった学園長。彼は一体何をしているんだろう?
「学園長って、最近賞金首になってなかったかい?下ネタを叫びながら爆発を繰り返す……だったかな?」
「あぁ、あれはうちの教団の信者だ。元爆弾魔でな。昔のくせでつい連続爆破事件を起こしてしまったらしい。信仰心が足りないと言うことで今は反省室に入れてある」
ということは……僕達が追っていたのは学園長ではなかったのか。学園長が作ったこのポロリ教団で下ネタを発し、祈りの言葉がアーレン。
なるほど、それでアレンに賞金首がかかっていたのか。
一つ謎が解決した。
となると学園長とアレンの関係はほとんど無関係になる……よね?
これ以上学園長の事を詮索する必要は今のところないかもしれない。
そうなるとマックスとピートの関係性について聞き出したいところだが、マックスはピートに対して恩があるようだ。説得に応じるとは思えないが、一応確認だけはしてみよう。
「どうやらピートは街の主婦達から賞金をかけられているようだけど、マックスは知ってたかい?」
「あぁ。耳にしてはいるがな。俺はピートの盾として何かあったらピートを守るだけだ。考えるのは俺の仕事ではない」
「でも、それじゃあピートが捕まってしまうよ?僕達は賞金稼ぎだけど、出来ればピートを捕まえたくはないんだよ。できれば穏便に済ませたいんだ。一緒に説得の協力者をしてくれないかい?」
「無駄だ」
「え?」
「無駄だと言ったのだ。ピートはもう金と権力に溺れている。ピートの目は覚めない」
「そ、そんな……」
「それでも俺はピートの盾だ。ピートに何があっても俺はそれを守るだけだ。これが俺の、ピートに対する義理で、俺の覚悟だ」
マックスはとっくの昔に覚悟を決めていたんだ。
「リッチー、今日はわざわざ来てくれてありがとう。ピートの事を心配してくれて……感謝している」
そう言ってマックスは静かに身構えた。
「ピートを捕まえるんだろう?だとすれば俺はお前を全力で止めるまでだ!!」
「あぁ、僕も全力で僕の正義を貫かせてもらうよ」
僕も身構えた。
「すぅーーーはぁーーーーすぅーーーーームッ」
深呼吸をし、肺の隅々まで酸素を行き渡らせマックスの懐に飛び込んだ。
「ワハハハハハ!!」
マックスが豪快に笑いだすと、左手に巨大な盾が出現した。実際の盾ではなくスキルにより魔力が具現化したものでうっすらと透けている。
マックスに拳を叩き込もうとしたが間一髪のところで出現した盾により防がれた。
さらに数発、蹴りなどを織り交ぜて追撃をするが全て防がれた。
一旦後方に飛びマックスと距離をとった。
「アッハッハッハッハ!!」
今度はマックスが笑いながら距離を詰めてくる。
「ハッハッ…ハァァ……すぅーームッ」
マックスは突進によって全体重を乗せ左手の盾をこちらに叩きつけてきた。所謂シールドバッシュというものだ。
直撃を食らえばたとえ限定強化中でも骨折の1~2本では済まないだろう。
僕はその、マックスの性格を表したかのような愚直な突進を横にいなしてかわした。
壁に激突したマックスだったが、盾のおかげで無傷で、無事じゃなかったのは壁の方だった。
破壊された壁には穴が空き、外の景色が見えている。
僕はすぐに距離をとり息継ぎをした。
息を止めて限定強化を発動させる僕と、笑うことで限定強化を発動させるマックス。
どちらも発動させつつ戦うというのはなんともキツいものがあり、二人とも息があがっていた。
「はぁ……はぁ……僕は……っはぁ……残念ながら、ふぅーーー。息を止めて呼吸を我慢する限定強化ではマックスの盾を突破するのは難しそうだね」
だいぶん呼吸が整ってきた。
「申し訳ないけど、ドーピングさせてもらうよ」
僕は腰に巻いたバッグから小瓶を1つ取り出した。
「ハッハッハッ……俺の限定強化はこれのみだ。リッチーが器用なだけだ。気にするな」
「ありがとう。遠慮なく使わせてもらうよ」
僕は小瓶の蓋を開け、それを自分にふりかけた。
数秒すると全身を強烈な痒みが襲った。
「魔物討伐用に使う一時的に痒みを増す薬か。くらうと強烈な痒みに襲われて魔物が戦いどころではなくなるのでその隙に討伐すると聞く。効果こそ短いが、それを自らに使うとはな」
ただただ全身を掻きむしる。何も考える事ができない。遠くでマックスの声が聞こえるが耳に入ってこない。耳すらも痒い。一体どこを掻いていいのか?一体どこを掻いているのか?もはやそれすらもわからない。
視界の隅にマックスが近づいてくるのが見えた。
「ぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
「ワッハッハッハ!」
僕の拳にはスキルにより魔力が具現化され、パワーグローブで覆われた。
僕はこの痒みの矛先をマックスの盾に叩き込んだ。
マックスの盾はガラスのような音と共に割れ、マックスを吹き飛ばした。




