21話 パペティアー
「あのー、ピート。俺達今、賞金稼ぎやっててな。お前を捕まえたくないからさ、説得しにきたっつーか……」
「は?何?お前うぜぇよ?」
ピートの顔から突然笑顔が消え、口調が変わった。
「それだけ金があるならさ、依頼者にお金握らせたり、布教活動を少し自粛したりとかさ、なんかやり方あるだろ?」
「はぁぁ??無い無い無い無い!そんな事したらあいつらはつけあがんだよ!絶対そんな事しねぁな」
「でもよ……」
「でもじゃねーよ!なーにお前、俺様に対して講釈垂れてんの?」
「いや、そうしないと俺達、お前を捕まえなくちゃいけねーんだよ」
「あ?おいおい。何か勘違いしてんじゃねーのかお前?この俺様がお前如きに捕まるだとぉ?いつまで学生気分でいんだ?ここはな、俺の城なんだよ!」
「まぁまぁ、そんな熱くなるなって。話し合おうぜ?」
ピートは突然エキサイトし始め、全く聞く耳を持たない。
「てめぇ?俺の限定強化知ってんだろ?お?どうなんだ?」
「あぁ、知ってるよ」
「ならよぉ、隣りのちゃんねーにも教えてやれよ?もう二度と俺様に舐めた口叩けねぇように調教してならなきゃなんねーだろう?」
「ピ、ピートの限定強化の条件は『尊敬される事』だ。こうして教祖として絶対的な尊敬を一身に受けている状態ともなればかなり強力なスキルを発動させられる状態だと思う……」
「それってつまり、最悪の状況って事じゃない」
「そうだぜぇ~ギャハハハハ!このまま黙って帰れば昔のよしみで見逃してやるよ」
ちょっと分が悪い。ここはもう少し作戦を練ってから来るべきだった。そもそも今回は潜入調査が目的だったんじゃなかったのか?
これ以上ピートを刺激せずに帰るのが得策だろう。
「邪魔したな……」
「だがぁ~、見逃してやるのはアレンとリッチーだけだ。そこのちゃんねーは帰さねぇぜ?グヘヘヘ。俺と遊ぼうなぁ~」
「はぁぁ~。あなたのお友達、随分とゲスなのね?」
よせよせミリア。どこからそんな自信が湧き出てきてんだよ?お前の自信は温泉か?
実力が伴って無くて俺やリッチー頼りみたいだが、今回ばっかりは本当にマズいんだよ。
俺は必死に首を振りミリアに合図を送った。
ミリアは俺の合図に気づき、「はいはいわかったわ」という表情を見せ、一つため息をついた。
「ピートと言ったわね?この薄気味悪い犯罪者の巣窟のようなカルト教団は今日この時点をもってで店じまいよ。そこのアレンが壊滅させるわ。ね?そうでしょう?」
「は?へ?」
突然俺に振ってきやがった。
え?え?そういう振り方ってある?
せめてお前が明言して、それで俺が仕方なく協力するってパターンだろ普通。
一体俺の敵は誰なんだよ?!
俺は恐る恐るピートを見た。
「お、お、おもしれぇ……俺はなぁ、お前が羨ましかったんだよ。成績も優秀だったし人望もあった。俺達の事もいつも気にかけてくれてたもんなぁ。だが、それがムカつくんだよぉ!見下されてる気分だったんだよぉ!俺はなぁ……力を手に入れたんだ!今度は俺がお前を見下してやるぜ!地面に這いつくばって俺を見上げさせてやる!!喰らえ!」
ピートの妬ま僻み妬み恨みつらみなんかそんな感じのが全部合わさって俺に牙をむいた。
このだだっ広いエントランス。階段の上、右の奥の辺りにいるピートが、エントランスの真ん中に立つ俺に向けて指差した。
すると、室内に飾られた花瓶や絵画、剣などが震えだし突然俺に向けて飛びかかってきた。横に飛び出しなんとかかわすことができた。
花瓶達は俺にぶつからなかった事で壁に突撃して割れるかに思われたが、俺にかわされた瞬間ピタリと地面で止まりその場で固定されたように動かない。
慌てて距離をとった俺にまた家具達が向かって飛んでくる。これまたスルリとかわし距離をとる。その際に飛んできた家具達を見て思ったか、やはり俺にぶつかるであろう位置を決めたところまでは速いが、そこを超えると急ブレーキがかかってぴたりと止まる。
ミリアはそそくさと俺から離れ、階段横の奥ばったところに退散した。
ケガしないところにいてくれるのはいいが、結局戦うのは俺なのかよ。わざわざ同級生と戦わせるなんて、ミリアにとって俺達は無理矢理虫同士を戦わせてる気分に近いのか?
さてさて、確かピートの職場は元々限定強化パペティアー(人形師)だったはず。人やモノを操るスキルがあったはずだ。これは初級スキルの『ポルターガイスト』だと思う。モノを自在に操るというスキルで、サイコキネシスのスキルと似てたんだっけか。
問題は、ピートの限定強化の条件は『尊敬される事』だ。一朝一夕で成される限定強化では無いため、元々あまり成績の良く無かったピートは限定強化を上手く発動させることが出来ずにポンパと同じく就職先が決まらずにいた。
「冒険者は諦める」と話していたのであまり心配して いなかったが、ここ数年で何があったのだろう。
いや、今はそっちの心配よりも、ピートの限定強化のレベルがかなり高いところまできているということだ。人数もそこそこいて、これだけの信仰心を向けられているのだから、上級スキルはもちろんの事、今迫ってきているポルターガイストのスキルの練度も高そうだ。操作性もまずこれまで出会ったパペティアーの中で群を抜いて高い。
手加減なんて少しも出来ないほどに今のピートは強い。
「ちんこ!」
俺は逃げながから飛んでくる絵画に向けて火炎弾をぶつけた。人が少ないのと、この緊迫した空気の中で叫ぶのはなかなかエクストリームな恥ずかしさがあり、火炎弾の威力もそれなりのものがあった。これなら花瓶も溶かせるだろう。
しかし、花瓶はおろか絵画すら燃え尽きない。
向かってくる表面に炎をまとった絵画達を必死に避けた。
「あっぶねーー危険度があがっちまったじゃねぇか!どういうことだ?」
俺は慌ててスキルを解除した。
「今の俺のポルターガイストはなぁ、動かしてる物自体がぶっ壊れる心配はねぇーんだよ!例え壁にぶつかろうがすぐさま動き出してしまうだろうよ!お前のゴミみてぇな火遊びなんか意味ねぇよ!」
クソ!ならどうすりゃ止まるんだよ?俺も限定強化を限界まで発動させりゃそれでも焼き切るくらいの火炎弾も出せるだろうが、発動条件がここには無いな。
ミリアの目の前で……いや、ダメだ。
その前に俺がミリアに殺される。
自慢じゃないが俺はそれほど体力があるわけでは無いので、もうそろそろ疲れてきた。一旦逃げるのは休憩したいのだ。
とりあえず考えろ!モノが飛んでくる……モノが飛んで……
そうか!これならば!!
俺はだだっ広いエントランスの真ん中でパタッと止まり、飛んでくる花瓶達を見た。
花瓶、絵画が2枚、剣、灰皿の5つか。冷静に見るとそれほど飛んできていたわけでは無かったようだ。
「ヒャッハーー!諦めたか!骨折で済めばいいがなぁ~~!!」
ピートの喜ぶ声が聞こえた。
俺はぶつかる瞬間バックステップをした。
俺がいた場所まではものすごい速度で飛んできたモノが一気に急ブレーキをかけて俺の目の前で一旦止まった。
「さっきから何度も見させてもらったんだ。どのくらいバックステップすりゃいいかは覚えたぜ」
俺は止まった花瓶達が動き出す前に掴みとった。




