82話 迫られる覚悟と不思議な力
彼らはある一室に集まっていた。
これは自分たちを召喚した魔術師としてトップに近い実力を持っているファーリアという女性に指示を受けたからだった。それに従わないという選択肢が無かった訳では無い。勿論、従いたく無いと言った人も居なかったわけでは無い。
何故か。それはこの街のトップ、つまり王が魔王と呼称されるのが要因だろう。此処の王が魔王と呼ばれるだけであって彼ら、勇者たちが倒すべき敵では無いのは誰もが承知していた。その上で断りたいと言った。理解は出来ても線引きして考えることが難しかったのだ。
だけど、勇者らは知っていた。彼女、桜城百合奈の師匠と呼ばれた男、ノトこそがそこの魔王と呼ばれる存在である事を。圧倒的な力を持ち、それを娯楽に使う様な人物。そう彼らは結論づけていた。と言うのも、ある程度は百合奈から話を聞いていたり吃驚させるようなことをよくされたからだ。
悪戯好きの子供。
そんな印象を抱く程だった。
だが、強さは本物。
「百合ちゃん自身が教えてくれたの。あの人の実力は自分の倍なんかで収まらないって。」
「ええ。私も聞いた時は冗談だと思ったわ。百合奈の実力は私たちよりもただでさえ、ずば抜けているというのにそれ以上なんて言うのよ。それに、」
美奈と千春の途切れた言葉の後に輝が続ける。
「魔王は自分よりも強い力を持っている。と言った。」
輝のその言葉で騒然とする。百合奈が言ったこの『魔王』は誰をどの魔王を指して言ったのだろうか。それを詳しく語らずいつも聞くと微笑むだけに彼女は留めていた。何故かは分からない。
「だけど、一つだけ答えてくれた事があるんだ。それが、」
「魔王と退治した者達から話を聞く機会があったから。と。」
それって英雄の事じゃないか。誰もがその考えを頭によぎった。しかし口にする者は居なかった。暫くの静寂が訪れた後、誰に向けたのでも無い言葉を呟く輝。
「俺たちは、勇者として呼ばれたがその役目を果たせるのだろうか。」
誰もが輝の言葉に返せず沈黙していると外の様子が騒がしくなる。
「? 何だ?」
「失礼致します。」
一人の騎士が部屋にやってきて焦った様子を見せる。
「会談は暫し延期されました。この城に滞在するためのお部屋を用意致しましたのでそちらでお休み下さい。」
「!? どういう事ですかっ! 詳しく説明してくださいっ!」
「それは........。」
言い淀んだ騎士の代わりに言葉を発したのは不思議な雰囲気を纏った女だった。
「それは此方では申し上げることは叶いません。付きましては、事情を勇者様である天野様を含め、楠木様、洛南様の三名をお呼びするよう仰せつかっております。来て下さいますね。」
ピリッとした雰囲気が迸る。頷くしか選択肢が無いその圧に素直に従う。彼らは女の案内で城の中を歩きある一室に辿り着く。そこは執務室と書かれた部屋だった。
「魔王様、勇者様方を連れてきました。」
「ああ、入れ。」
聞き覚えのある声が中から返ってくる。開けられたドアから入ると奥に座っていた長い黒髪黒目の男に頭を下げる三人。
「久しいで良いか?」
「はい、お久しぶりです。ノト先生。」
「先生はむず痒いからやめてくれ。とは言え時間が惜しい。本題に入る。」
「.............。」
彼は殺気立った様子で驚愕の事実を突きつける。
「ユリナが敵に囚われた。」
ハッと息を飲む彼らに俺は言葉を続ける。
「取り返す、必ず。」
殺気立った俺を諌めるようにぽんと肩を叩かれる。
「不敬とは承知しておりますが死んでしまいますよ、主様。」
「ああ。戻ったか鴉羽。」
「色々と情報収集をしてきました。サラッと目を通すだけで問題ないかと。事前の情報と差程誤差は無いかと。」
人型の鴉羽に言われ殺気を収めると深呼吸をする勇者ら。それを横目に渡された紙に目を通す。
計画は最終段階まで進んでおり、残るピースを二つ揃えれば悲願が叶う。
「........ラストは俺か。」
ぼそっと言った言葉に内容を知らないルピ、レイト、勇者ら三人は首を傾げる。
「事態は切迫している。天野、以前俺が言ったことを覚えているな?」
「それは、自分の大事な物を優先して行動しろという件についででしょうか?」
「大分噛み砕いたな。そんなところだ。これから起こること目を離さず見ていろ。そして迅速に選択しろ。迷うな、動け。そして、必要なら相手を殺せ。大丈夫だ、その時になれば躊躇いなど無くなる。それは他の奴らも同じだ。最善を選ぶ時間なんて敵は与えちゃくれない。それだけだ。」
ガタッと立ち上がり窓を開け放つ。
「留守は任せたぞ。」
ルピ、レイト両名は静かに頭を下げるのを見て、複雑そうな表情の勇者らを置いて目的地へと向かっていくのだった。
「ん.....ここ、は?」
目を覚まして体を起こそうとするが強い倦怠感と身動きが一切できない状況。段々と危機感を覚え覚醒していく頭で周囲を見ると牢屋の中に縛られて腕には何かの模様が施された手錠が掛けられていた。
「そっか。私、目の前で。」
気絶する前の状況を思い出し歯噛みしていると不意に声が掛かる。
「思ったより目が覚めるのが早かったね。それだけ魔力が高いってことだねー。魔力封じ力を上げていたつもりだったけど成長度合いが計算より上だったかー。」
呑気な声音で私を見ている人物に気づく。その声の主は勿論牢屋の外からだけど、私をニコニコと見ている。
「優、君?」
「ハハハ、それは君達と溶け込む為の名前だよ? 実際はユウって名乗ってるからね。とは言え発音とか合わせるの結構苦労したよー。」
「素はそっちって事?」
「君だって彼らと接す時とあの方と接する時とじゃ違うんだもの。何もおかしなことはないと思うけど?」
あっけからんとしているユウは「何を当たり前の事を。」と言わんばかりの言葉を返す。
「あ、でもねー。全部が演技って訳でもないよ? 実際のところは自分をコントロールしていた訳だし優としている間は本当に君達と仲間、同郷者と思い込んでいたんだよ?」
「?」
「ちょっと語弊があるけどねー。魔法使いの[無]属性。特殊な魔法があってね。それが相手の記憶や意志とかまあ諸々を相手の同意の上でだけど、術をかけることができるっていう魔法でね。面白いよねー。」
「.............。」
「だからその魔法使いに魔法を掛けてもらって優だけどユウじゃない自分の出来上がりって訳だ。昔はもっと面白い魔法を使う人もいっぱいいたんだけどねー。」
「喋りすぎだ、ユウ。お前は口が軽いのが難点だな。」
「良いじゃない。どうせ喋ったところで誰にも伝えられないし、会話だって最後になるんだから。」
フードを深く被り顔は見えないが声は男っぽい。注意されたユウは最後と言った。要するに贄ってことだろう。彼をノトさんを魔王として完全に覚醒させるための。
「それじゃあ僕は行くね? せいぜいあの方を思って死んでくれると嬉しいよ。」
去っていく足音が聞こえなくなると静寂に包まれる。
静寂の中、私はそっと目を閉じる。
そこには私を助けまいとしている黒装束の姿の男が見えた。
吃驚して目を開ける。
暗がり、牢屋の中。状況は変わっていない。
一体何だったのだろう。
不可思議な現象に混乱するが、騒動が終わった後にこの現象の正体を知ったのだった。




