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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第6章
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50話 バルディアへの出立と道中2


 私は思わず頭を抱えてしまった。そういえばこの人の常識を私達と照らし合わせてはいけないんだった。確かに山の高さはそんなに高くないかもしれない。けど見るからに登りにくそうじゃないか。普段は、普通の人はどうやってエルシリラとバルディアを行き来するんだろうか。よくよく考えてみれば疑問はわいてくる。何でその時は気付かなかったのだろう。駄目元で聞いてみる。



「ところで、師匠。本当にこの道しかないんですよね?」


「? そうだが。」



 何で首を傾げたのかは分からない。返答も純粋に返された気がする。もやもやした感じは残るが取り敢えずその場では納得した。----後に、下道が有った事を知った時はやっぱりなあと思った。そこまでは良かったが、私の質問の意味が別に聞こえていたらしく、



 私の意味としては、この山道しかバルディアに行く方法が無いんですよね?



 師匠の意味としては、修行にはこの道しかないですよね?



 そりゃあ首を傾げますわと思いながら頭痛を堪えた。突拍子の無い事を考えるのはいつもの事だと割り切れる様になってきている自分が怖い。






 遂に山登りの開始。日本では遠足で上ったことは有るが高さはそんなに高くなかったし、道がある程度舗装されていて上るのに階段が有ったものの運動が苦手で持久力の無い私はよく息を切らしながら歩いていたものだ。


 そんな回想をゆったりしていた。というかゆったり出来るほどに体力が付いたというか魔力操作が出来ておりサクサク進めているのだ。こんな事絶対あり得ない事だっただろうなあと思えるほどに。周りをキョロキョロと見渡す余裕さえある。見た所で代り映えのしない景色なんだけども。



「...?」



 不意に影が頭上を通って旋回しているのに気付いた。影の形は鳥。山に飛んでる鳥と言えば猛禽類とかかなと思って快晴の空を見上げ眩しさから一瞬目を細めるが、影の正体を突き止める。



「...黒い。......烏?」



 私がそう呟くと烏は一気に下降してくる。此方に向かってくるので驚いて声を漏らし少しスピードを上げ師匠に近付くと烏は減速してゆったりした動きでなおもついてくる。何かされるかもしれないと思い師匠に助けを求めようとしたが一歩遅く烏は目の前まで迫っていた。何かされるかもしれないと身構えていると烏は師匠に近づき頭に乗っかった。



「え?」



 その一連の行動に思わず変な声が出てしまった。そういえば前も似た光景を見た気がする。頭の上に止まったままの烏を眺めながら、いつ、どこでだっけと首を捻って思い出そうとしているこの間も進み続けている。



「あ! 思い出した。」



 確か、森での修行中に『吸魔の指輪』を渡された時、烏が届けてくれたのを受け取っていた時だ。というか何で烏が?



「...はあ? 何で俺が。......どうにか出来ないのか? ........なんでバレてんだよ、上手く誤魔化せよ。......嘘は付けないだぁ? それこそ嘘だろうが。......はあ、俺の頭痛の種を増やさないでくれ、全く。」



 先程より近くを走っているせいか師匠が何やら喋っているのが聞こえる。独り言の様に聞こえるそれはよく聞くと会話の様に感じる。話している相手は誰かは分からないが烏を通じてやり取りをしている様だ。そして、続いている会話にどんどんと不機嫌になっていく師匠。舌打ちまでしている始末。会話が終わると今度はブツブツと何かを言っている。何と言っているかまでは分からないが確実に先程の会話の内容に対する愚痴だろう。誰とどういった内容の会話をしていたかは不明、ただただ苦笑いをするしかない。



「ユリナ、バルディアでの用が終わった後ルギシニラに行かなきゃいけなくなった。.....不本意な結果ではあるが。」


「うわあ。凄く嫌そうですね。そんなに大事な用なんですか?」


「...重要度は俺の中では低い、が、逃げたら後で何言われるか分からないから一度行かないと不味い。.......それじゃなくても前回逃げたし。」


「何か最後の方言いました?」


「何でも無い。」


「何処に行くとか結局道が分かりませんし、そもそもルギシニラは師匠か賢者様がいないと行けない場所じゃないですか。なので行く場所はお任せしますし付いて行きますよ。」


「そりゃあ、心強い。」



 何か心強いという言葉がとても重く感じたのだが気のせいという事にしたい。何か言質を取られたような感覚さえあるのだがきっと思い違い、だよね?



「いつまで頭の上にいるんですか、烏。流石に後ろの皆も吃驚しているのでどうにかした方が。」


「...無理だ。......おい! 騒ぐな、頭に響くだろうが!! .......早く口を塞げ! ....はあ。」



 こめかみ辺りを抑えながら不機嫌そうに大きな声で文句を垂れている。溜息を吐いた事から静かになったのだろう。誰と話しているか結局分からなかったがルギシニラの関係者、ルピさんやレイトさんだろうか。でも大声を出すような人達では無いと思うんだけど。誰か別の人.....。何かもやっとするなぁ。私がモヤモヤと思案している間に烏は飛び去っていた。



 昨日より長い時間進んでいる。早く野営の準備をしないと夜になってしまうのだが止まる気配が無い。登山の方も6~7割ほど進んだ。この後下るという課題も有るが上るのももう少しだと思う。平坦の道とは違って消耗が大きく息を切らしスピードが落ちてきているのが私だけでなく後ろに付いてきている4人も顕著なので口を開く。



「師匠、どこまで進むんですか。そろそろ夕方になりますよ。」


「んっ。」



 指を指した方向は山の頂上、の様な気がする。



「頂上、ですか。」



 出来れば違ってくれという思いで聞く。



「頂上だ。」



 そんな思いは一瞬で砕かれた。



「頂上というかその少し手前に幾つか小屋が有るから其処を目指している感じだな。ベッドが有る。寝袋で寝るのは寝心地が悪いだろう? それにそこの小屋周辺は結界が常時張ってあるから魔物が近づいてこない。見張りなどせずゆっくり休めるという事だ。」


「い、良いですね!?」



 確かにベッドが有るのは有難い事なのだが師匠にとって見張りも何も夜寝てないんだし関係ないのではと思ってしまった。それに修行なのでバルディアに付くまでずっと野営覚悟でいた。心なしかこの会話が聞こえて居たっぽい4人の表情が少し明るくなったような気がする。





 そうして1時間程経っただろうか、頂上付近に着くと何軒かの小屋が乱雑に建てられており女子と男子に別れて休むことになった。小屋は長く使われていない筈なのに綺麗に保たれていた。



「やったー! ベッドだー! ふかふかだよー。」


「此れは有難いわね。ぐっすり眠れそうな気がする。」


「......。」



 ベッドに腰掛けてぼけっとしていると千春ちゃんと美奈ちゃんが顔を合わせた。私はその様子を首を傾げながらも窓越しに外を見る。すると一つの小屋の屋根に師匠が立っており烏に向かって何かを話しているのが見える。表情までは見えないが口が動いているのは見える。ぼけっと、前髪で表情までは見えない横顔を見つめていた。



「....ちゃん、......りちゃんってば!」


「...え? 何?」


「ぼーっとしてたよ!」


「ごめん。」


「気になるなら行ってくればいいじゃない。まだ寝るには早いだろうし。思いの外早く着いたって言ってたじゃない。」


「ちょ、引っ張らないでよ。」


「話すにしても何にしても行動を起こさない限りは入れさせてあげないから!」


「え、それ判断できないじゃ....」



 言っている間に小屋から出された。強引過ぎると思いながらも直ぐに入る事は出来ないだろうと思い少し歩くことにした。一応さっき師匠が立っていた小屋の屋根を見たが既にいなかったので直ぐ行ける頂上の道を歩いて行った。5分くらいの道を登ると丁度日が沈むのが見えた。



「.....綺麗。」



 沈むのを眺めていると後ろから足音が聞こえて振り返る。



「何してんだ、こんなとこで。」


「それはこっちのセリフですよ。屋根の上に居たり今度は頂上に居たり神出鬼没ですか。」


「自分が行きたい所に行って何が悪い。」


「拗ねないで下さいよ。」


「拗ねてる訳ねえだろ。子供じゃねえんだから。」



 久々に下らない会話をしたような気がする。私は思わずくすくすと笑ってしまう。



「何、笑ってんだか。」


「いえ、面白くて。」


「......。」



 呆れた様な表情を見せる師匠が次の瞬間表情を引き締めて此方を見る。私も笑うのをやめてじっと見る。



「...ユリナが彼奴らの指導をしたり野営の間に俺にまた変化が有った。言うつもりじゃなかったが必死に隠す物でもないから言う事にした。今は此処に誰もいないし都合が良い。」


「......。」



 私が話している訳でも無いのに緊張から喉が渇く。



「先ず、前に迷宮管理者と話した時が有るだろう。その時から大きく変化した。覚えているか?」


「はい。片方だけ黒い羽根が、後は血が....。」


「あれから自分の力に飲まれるのが怖くて抗っていたんだが抗えば抗うほど力が抑えられなくて裏で何度も暴走しかけていた。勿論ユリナには気付かれない様に、だから知らなくてもしょうがない話だがな。」


「.....。」


「だから、逆に考えた。」


「逆?」



 何となく察していたが私は聞き返す。



「.....自分の力を受け入れて目を逸らさない事。」


「っ!」


「そんな顔するな。こうしなきゃ今頃自我を失いただ暴れるだけの化け物になっていたぞ?」



 そう言って近付いてくる師匠の顔に後悔なんて無くって寧ろ悩んでいた時期よりも晴れ晴れとしている様にさえ見える。



「ほら、此処に皺が寄っているぞ。そんな気難しい顔をしていると戻らなくなるぞ。」



 眉間に指が押し当てられ伸ばす様にして撫でられる。私は若干俯きつつそれを黙って受け入れていた。暫くそうしていると不意に近くで魔力の流れが変わった気がして顔を上げる。顔を上げた事によって撫でられていた手は離されるのだが。



「....え?」


「これが受け入れた事による変化だ。」



 とっくに日は落ち辺りは静寂と闇に包まれている。だけどはっきりと見える。



「羽......両方....。」



 闇と同じ漆黒の色の翼。前は片方だけだったが二枚一対の翼に変化していた。右の眼も前より紅さを増している様な気さえする。



「驚いたか? 俺も驚いたよ。こんな変化があるとは思わなかったからな。段々と力も強くなってきているし今はコントロールできてるから飄々と出来ているが今後は分からない。だから、」


「だから天野君にあんなこと言ったんですか?」


「何だ、聞いてたのか。だったら話は早いな。」


「話が早いじゃないですよ!! どうしてそうやって勝手に色々と決めちゃうんですかっ!? ちょっとくらい相談して欲しいですよ....。」


「相談という名の勇者に言った内容の依頼と同様になるがそれでも良かったか?」


「そ、それは....。もっと別のやり方がっ、」


「.....有ると良いけどな。まあ、最悪の事態に備えてだよ。最悪にならない様に努力はするから安心してくれ。」



 それ以上は何も言えずにただ黙って頷いた。昨日師匠が天野君に言ったのは確かに文句の付けどころは無い。



..................



............



......




「.....勇者、いや天野輝。お前の変心が心からの物で有る事を信じて一つ頼みごとをしよう。」


「...何でしょうか。」



 長い静寂後、開かれた口から放たれた言葉、それは、



「...何か有ればなりふり構わず自分が守りたい物の為に他を容赦なく殺せ。それが例え人の大事なモノで有っても、な。その時は考えるな、本能で動け。考えるのは後に出来ても敵を討ち滅ぼすのはその時を逃せば一生訪れないかもしれない。自分が今度は窮地に陥ると思え。例え勇者の幸運が味方しているとは言え、だ。分かったらさっさと寝ろ。ていうか分からなくても寝ろ。そこに居られると苛々して手が出そうだ。」


「.......失礼します。」



.....



............



.....................



 思い出して俯いていた私の頭を静かに撫でてくる。ただ撫でられてるだけ、なのに凄く安心する。もしかしたらこんな風に出来るのも、してもらえるのも無くなってしまうと思うと悲しくなり涙が溢れそうになる。



「さて、そろそろ寝るか。部屋に戻れ。」



 くるりと踵を返して歩き始めた師匠に気付き付いて行く。付いて行くという表現は違うかもしれない。動かなかった私の手を引っ張って歩いている。




「...おい、ユリナ。鍵がしまってるんだが。」


「え。...ほんとだ。」



 女子で使うと言っていた小屋のカギが何故か閉められている上、中からは物音ひとつ聞こえない。



「...もしかして寝てる...?」


「もしかしなくてもそうだろ。何だ追い出されたのか。」


「笑わないで下さいよ。元はと言えば師匠のせいですよ。」


「はあ? 何でそこで俺のせいになるんだよ。訳分かんねーよ。...まあ入れねえんじゃ仕方ねえな。行くぞ。」


「? 何処にですか。」


「何処にも何も寝る場所ねえんだから俺が使う予定だった小屋に、だよ。」



 そのまま手を引かれて他の小屋よりも高台にあった師匠が使う予定だったという小屋の中に入ると何故か物が散乱している。



「......。」


「あ、色々とやる事あって物そのまま出しっぱなしになってた。まあ、寝るだけだし別に関係無いか。」



 さっきまで手を握ってドキドキしていた心がすーっと引いていく音が聞こえた気がした。やっぱり師匠は師匠だった。当たり前の事を考えたら声を出して笑ってしまった。師匠からはやや引き攣った顔と、釈然としない顔を見せる。



「朝起きた時には綺麗にしといてくださいね。」


「出発するんだから綺麗にするのは当たり前だろ。」


「その当たり前という常識が抜けているから言ってるんですよ?」


「失礼だな、早く寝ろっ!!」


「はい、はい。おやすみなさい。」







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