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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第6章
56/103

51話 バルディアへの出立と道中3



「.....い、...き..。.....きろ。」


「んー。」


「起きろ!」


「んあ?」



 少しづつ目を開けると視界一杯に師匠の顔が映る。長い髪を後ろで一本に縛っていた為髪が垂れてくることは無かったが驚いてしまい思わず飛び起きる。そうしたらお約束というか何というか。



---ゴツンッ



「「~~~~~~っ!!!」」



 二人同時に額を抑えて声にならない叫びが漏れる。



「お前なあ、そんなに驚かなくても良いじゃねえか。くっそ、いてえな。」


「起きて顔を覗き込まれてたら吃驚するなという方が無理ですよ。私は悪く無いです。」



 お互いに文句を言いながら私は周りを見ると昨日の事を思い出して色々と納得する。じんじんと痛む額を抑えながら私は師匠に話し掛ける。



「師匠は寝たんですか?」


「あ? 多少な。今はユリナのせいでぼんやりしていた頭が覚醒したよ。狙ったのかと言いたくなるくらい強烈だったわ。」


「何ですか。文句ですか?」


「そうだが。分かってくれたか?」



 イラっとしながらも気にすると負けな気がして黙っていた。



「....またか。」


「? 何が....」



 言ってる途中で何のことか分かってしまった。窓ガラスをコンコンと叩く音が聞こえて振り向くと烏がいた。でもその烏は足元に何かを括りつけられているのが見える。師匠は窓を開けるとひんやりした空気が入ってきて思わずぶるっと震えてしまう。私も近づいて覗き見ようとしたらさっきより寒さが襲ってきて腕を擦りながら師匠の方を見ると「ふう。」と息を吐いて上着を私に掛ける。前にもこんな事有ったなと思いながら烏が持って来たであろう紙を広げて中を読んでいるのを横から見ようとした瞬間師匠はその紙を燃やしてしまった。



「覗き見は禁止だ。」


「ちぇっ。別に良いじゃないですか。」


「その内知る事だから今は知らなくていい。」


「また、それですか。」


「またって、前にも有ったか?」


「そんな事ばかりですよ。」


「...覚えてねえな。」


「でしょうね。」



 そんな会話をしていても烏はそこに留まっており、師匠への視線から私へと変わった。首を傾げていると師匠も不思議そうな顔をしながらも次には納得したような表情に変わり私に烏の足に括りつけられている筒の中身を取り出すよう促す。言われるまま小さな筒の中から取り出そうと筒に触れると仄かに光り、綺麗に折り畳んである紙が出てきて、それを掴むと烏は満足した様に飛び去って行った。



「ユリナ宛だ。中を読んでみろ。」


「....誰から?」



 その疑問は師匠からでは無く手紙からもたらされた。



”ユリナ サクラギ様



 この紙はD級以上の冒険者様へお送りしている物です。近く行われる『S級昇格試験』の観戦の為のチケットで御座います。参加はご自由ですので冒険者様らしく自由に選択なさって下さい。



 『S級昇格試験』実行委員より”



「こんな辺鄙な所に居るのに届くんですね。不思議です。名前も合ってるし。」


「そういう技術を持っているって事だろ。」


「へえ。」



 異世界の技術は凄いなあと思いながら私は暫く手紙を眺めていた。師匠がその手紙を呆れた顔で見ていた事には気付かなかった。







 監視されてるのかと思ってしまう。全く何がD級以上に送っているだよ。噓書きやがって。前に『指輪』の改造を依頼したのが間違っていたか。全くまあ、あの”馬鹿”はやらねえだろうから”あいつ”だな。この手紙を持っている事でVIP対応みたいになる事は黙っていた方が良いかもしれない。面白そうだし。全く俺が黙っているだろうと読んでこの手紙をユリナに渡したな。というか普通に考えてユリナが俺の近くにいると調べ上げた”あいつ”が怖いな。いや、シファル経由か。そう考える方が合点がいく。取り敢えず更に面白い仕掛けにしとくか。



「ユリナ、その手紙ちょいと見せてくれ。」


「え、一緒に見てませんでした?」


「何か仕掛けが無いか調べたいんだよ。」


「...どうぞ。」



 怪訝そうな顔をしながらも俺に渡して来たので俺は受け取り少々細工を施す。勿論調べる振りをしながら細工を終えたので返す。



「何か分かりました?」


「まあ、特定の人物に送れる様な魔術が組み込まれてる位だ。それ以上は分からん。」


「その言い方は、それ以上がもしかしてあるってことですか?」


「さあな。複雑に絡み合ってるからちゃんと調べない事には分からないという事だ。疲れるから其処までやる気はないがな。ほら、返しとく。多分此れは入場するときに見せればいいと思うぞ。」


「そういう物でしたか。そこまでは書かれていなかったので本当に通知だけの物かと思ってました。」


「多分だから、実際はどうかは知らない。」



 テキトウに誤魔化しながら言うと納得はしてくれた様で直ぐにバッグに仕舞に行った。それを見ながら開けた窓を閉めながらユリナに掛けた上着を取り上げようとしたら何故か上着を取られまいとしていた。



「おい。」


「別に上着1枚しかない訳じゃ無いんでしょう? なら貸して下さい。暑くなったら返しますから。」


「ユリナだって上着持ってるだろ? 何故俺のを使うんだ。」


「別に良いじゃないですか。それに渡して来たの師匠ですし。」



 これ以上何を言っても無駄な気がするので新しく上着を取り出し溜息を吐いて外に出る。ユリナはそのまま準備を始めたので一人で頂上まで登っていきバルディアが有る方へ視線を向ける。




..............



........



 

「---っ!!!! 生んで後悔したわ!!! アンタを見ていると思い出してムシャクシャするのよ!!! 私の前から消えてっ!!!」


「...うん、分かった。」





「---、お前とーちゃんだけじゃなくてかーちゃんにも捨てられたんだろ?」


「いつも汚ねえよなあ。」


「可哀そうだろー?」


「本当にそう思ってんのかよ。ギャハハ。」





「.....何で、僕は此処に居るんだろ。誰も僕を必要とする人なんて居ないのに。」




”次のニュースです。◯◯市で無差別に人が切り付けられる事件が発生しました。幸いな事に亡くなった方はいませんでしたが多数の重軽傷者がいます。一時騒然とした◯◯市ですが刃物を持った30代女性はその場で警察の方に確保されました。



犯人の名前は---。---容疑者は、今回の事件について「全てが上手く行かず苛々していた。呑気に幸せそうに暮らしている周りの人間に腹が立ち犯行に及んだ。」との事です。



続いてのニュースです。.......”




「.....()()()()()。」




「殺人鬼の親の子供も殺人鬼だぞー! 皆逃げろー!」


「怖ーい!」


「気を付けろー! 急に襲われるぞー!!」





”速報です。



先日無差別での切りつけ事件にて捕まっていた---容疑者ですが拘留中に隙を見て逃げ出したとの事です。警察はこの容疑者の行方を追っています。また情報が入り次第お送りいたします。”





「ねえ、---、私の為に死んで。アンタを殺さない限りは捕まる訳にはいかないのよ。アンタという存在だけは消しておかないと。」


「うん。おかあさんがそれを望むなら良いよ。おかあさんに色々教えてもらったから僕も頑張るね。」


「何を言ってるのかしら? 今からアンタは親に殺されんのよ?」


「おかあさんこそ何を言ってるの? 死ぬのは、」





「おかあさんだよ???」





.......




.............





 閉じていた目を開ける。昨日見た夢。間違いなく自分の記憶だと思う。胸糞悪い話だ。他人事の様に見え、聞こえるこれらは全部自分が経験した事だと何故か確信してしまう。実際色々と見ていくと自分の心がぐちゃぐちゃになっていくのを感じる。落ち着いてなんて居られない。それが本心であり、人の前では強がりを言っている。


 確かに力を肯定すればするほど安定はする。そして肯定すればするほど自分がろくでもない人物だったことも知っていく。前世、と呼ぶべき過去の小さい自分。その小さい自分が後ろから俺自身の心臓を鷲掴みにしている感覚が強まっていく。



「全く過去の俺は一体何をしてたんだか。」



 思わずそう呟いてしまう。全部が戻った訳では無いのでただただ呆れる事しか出来ない。「自分自身が良く知っているでしょう?」と小さな男の子の声なき声が聞こえてくる気がして頭を振る。溜息を深々と吐いてバルディアへ向かうかと思って勇者らがいる小屋の方に歩いて行く。








 私が軽口を言いながら準備していたらいつの間にか師匠は外に出ていた。何処にいるかは大体想像は付いていたが私は他のメンバーを起こしに向かった。昨日鍵が掛かっていた筈の女子がいる小屋は鍵が開いておりニヤニヤとした表情で見られたので一発ずつデコピンを食らわせた。


 「全く」と言っている私の顔が満更でも無さそうだったらしく余計に彼女らのネタにされてしまった。色々と根掘り葉掘り聞かれていると天野君たちも集まってきて師匠待ちとなり、バルディアに着いたらどうするとか他愛もない話をしていた。暫くすると頂上から師匠が降りてきたが表情は晴れない。難しそうな顔をしているが集まっている私たちを見ると表情を変えてめんどくさそうないつもの表情を見せた。



「頑張りによっては今日の夜にバルディアに着くがどうする? 余裕を持って向かうか、昨日、一昨日よりもスピードを上げて何とか到着を目指すか。因みに後者は本当に地獄に感じると思うからおすすめは前者だな。」


「野宿とどっちが大変ですか。」


「比べる迄もない。」


「向かう方が大変って事だね。私は皆の判断に任せるよ。」



 4人は色々と話した末、地獄を選んだようです。本当に大変だと思うけど良いのかな。と思ったのも束の間師匠は聞いた後直ぐに出発してしまった。しかもスピードは2~3割増しで。降りるのにそのスピードって思ったけど走っているというよりジャンプして足場を選んで着地する事を繰り返している。私も真似てやると走っている時よりも楽になった。私は後ろで四苦八苦して走っている4人に声を掛け、降り方を変えてもらうと最初はぎこちなかった動きが次第にスムーズになりあれだけ大変だった山を簡単に制覇してしまった。


 そこからはほぼ平坦な道を兎に角凄まじいスピードで向かっていった。師匠は途中私だけに足への魔力操作だけでなく周囲の魔物の気配察知で気付いた魔物を討伐する様に指示してきたので同時進行で修行に励んだ。倒した魔物は師匠が全て回収しながら出来るだけ素材の価値を落とさない倒し方を指示されながら気配察知だけで気付いた魔物をピンポイントで狙って討伐した。


 最初こそ此方の存在に気付かれ襲われそうになったが段々と当たっていきバルディアへの到着目前まで進んだ時には魔物の急所を狙って倒す事が出来、中々にハードな修行を乗り切った私のレベルが格段に上がっていたと思う。後でステータスを確認しておこうと思う。


 そして着いて行くだけでかなり大変だった4人も音を上げずに一定の距離を保ってついてくることが出来ていた。此れには師匠も少し驚いていた。



「ここが、バルディア。」


「何か都心部の日本みたいだね。」


「うん。何か少し錯覚しそう。」



 地獄のバルディアへの道のりを踏破して着いて見た光景は近代都市の様に高いビルが並び立ち、まるで現代の日本の様で驚いた。高いと言っても最大15階位の建物なのだがまさか異世界でこんなに発展した場所を見るとは思わなかった。ところどころ中世のヨーロッパの様な建物も点在するが今迄見たどの場所よりも私たちが慣れ親しんだような光景で安心していた。



「じゃあ。此処からは別行動だ。これ以上の管理義務はないからな。お金が必要なら自分たちで稼げ。少しはもらっているだろうから最初はそれで何とかしろ。手っ取り早いのは冒険者登録して依頼をこなす事だな。ユリナはどうする?」


「どうするってどういう?」


「別に後で合流すれば良いんだ。そいつらに付いて登録の流れでも教えてやったらどうだ?」


「じゃあ、そうします。」


「取り敢えずギルドの方までは案内してやるから其処からは自分たちでどうにかしろよ。」


「「「「ありがとうございます。」」」」



 キョロキョロと街を見ながら私は4人にギルドの説明をした。



「先ず冒険者は受付で登録する所から始まる。特に登録にはお金とか実力とかは要らないけど自己申告で自分の使用武器や得意な物を言う位かな。職業は別に言わなくても登録できるよ。実際に必要なのは名前くらい。そして、ギルドの仕組みとして一番はランク。最初はどんなに実力を持っていたり、経歴が有っても全員Fランクから始まる。私は一回しか依頼受けて無いけどちょっと訳アリでDランクで一個昇格はしてる。でランクは全部で8個! 下からFランク、D、C、B、Aと続く。此処までが通常依頼を受けていると誰でもなれる範囲。で、今回の『S級昇格試験』という名のギルド主催のお祭りらしんだけど此処でAランクの人はSランクに認められるか決められるみたい。それを判断するのが他でもない、SSクラスとSSSクラスの人らしいよ。Sランクもそうそういるものでも無いし、生涯かけてもなるのが難しいとさえ言われる領域だって。そして、そのSよりも上のランクに所属する彼らがかの英雄たちとの噂で。私も詳しくは知らなくて詳細はギルドに有るとかなんだけど結局私はギルドに昇格して以降顔を出してなくて知りえず仕舞いだったんだよね。」


「そのSSランクとSSSランクだっけ? 英雄たちって言ったらあの3人??」


「多分そうだと思う。SSが2人でSSSが1人だって。」


「あのリーダーっぽい人がSSSかもねえ。」


「......あの『馬鹿』にリーダーなんてモノ務まる訳ねえ。」


「? 師匠何か言いました?」


「あ? 何かいったように聞こえたか?」


「...いえ。」





 ギルドの説明をし終えると丁度目的地に着いた様で、建物を見ると言葉を失ってしまった。見間違えかと思い何度か目を擦ってしまった。



「此処、本当にギルド、なの?」


「お洒落なお店にも見えるね。」



 ガラスがふんだんに使われた正面の入口はまさかの自動ドア。異世界で見るとは思わなかった。そして、高い。中々に迫力がある。中に入ると賑わっていたが新規登録用のカウンターなどが有り思ったより時間が掛からず対応してもらえた。



「あれ? 師匠どこいったんだろ?」



 4人が登録する為向かったはずのギルドに何故か師匠も入っていきいつの間にか何処かに行ってしまい見失った。キョロキョロするものの人が多くて中々見つからない。4人にちょっと師匠の事を探してくると伝えてからギルド内を歩き回るが結局見つける事は出来なかった。








「よ! 久々だな。」



 俺は片手をあげて挨拶すると大男は目を丸くし、もう一人の耳の尖った女性は態度を崩さず仕事をしていた。



「帰って来るの早いじぇねえか!!! お前らしくないぞ!! ....偽物か!!?」


「『馬鹿』は相変わらず顕在か。安心するわ。そして相変わらずうるせえな。どうにかしろよ、お守り係だろ、『焔姫』。」


「何時から私は『怪力』のお守りにされていたんですか。心外ですね。」


「だって頭脳担当は今も『焔姫』なんだろ? ギルドの経営が上手く行ってるのも全部『焔姫』のお陰だろ。」


「まあ、昔からの事ですし慣れてますよ。今更じゃないですか、『怪力』の事は。」


「そうだったな。忘れてたわ、『馬鹿』が変わったらそれこそ”世界の理”も変わっちまうかもしれねえしな。」


「おい!!! お前らオレに対して失礼だと思わないのか! そして、『暴嵐』!! オレの事を『馬鹿』と呼ぶな!!!」


「本当の事言って何が悪いんだよ。脳筋なのは本当なんだから別に良いじゃねえか。」



 俺は執務室に置いてあるソファに腰を掛ける。



「『焔姫』は何時もそうやって過ごしてんのか?」


「何時、誰と会っても良いようにしてるのは事実ですよ。貴方だって変えてるんですからお互い様でしょう。」


「こっちが素なんだけどな。この姿をイコールで”英雄”と結び付けられる奴なんて居ねえよ。今の俺は全く英雄とは程遠い姿だからな。」


「はあ、全く、覇気を感じても動じず、自分の覇気を出さない貴方はやっぱりこの世界の最強種ですよ。」


「お褒めのお言葉として取っておこう。んで、色々と手紙の件で文句は言いたい所だが、あいつは確実に俺の試練を乗り越えるからその時で良いだろう。本題はS級昇格試験の内容をどうするか決めたから伝えに来た。今年はシンプルに行く.....」











「師匠! 見つけました! 何処行ってたんですか!」


「ギルド内にいたぞ、一応。終わったのか?」


「んー。何となく文句は言いたい気分ですけど終わったんで合流しようとして探してたんですよ。」


「そりゃあ悪い事したな。まあ今日はもう遅いし宿に行くか。ちょっと知り合いに良い宿を紹介してもらったから其処に行くぞ。」



 俺に言うべき文句をブツブツと言っているユリナを見ながらド派手に行う試験内容を楽しみにして笑みを溢すのだった。



「何を笑ってるんですかっ!?」


「何でも無い。」






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