41話 語らいとちょっとした変化2
「それでも俺を変わらず見ることが出来るか?」
信じたくなかった、けど何となく私は察していたかもしれない。伸ばしていた手を下げても流れたままの髪。少し風が吹いた気がするからきっと魔法で見えるようにしているのだろう。部屋からの明かりだけでも、右目がよく見える。魔王の外見的特徴で一番分かりやすいのは目の色で判断することであると教わった。両の目の色が違うと魔王である証明になる。今だ微笑んで見ている師匠の目は左が漆黒、右が赤色。紛れもなく特徴に一致する。この世界に例外が存在しなければ師匠は、
「”魔王”。」
「.....。」
「おかしいですよ!」
「何がだ?」
「師匠は自我が有るじゃないですか。例外、とかじゃないんですかっ。」
「ふむ、そうか。ああ、証明する手段あるか。」
そう言って空中に左手を掲げるとその手中に急に何か物が現れる。吃驚して目を白黒させたがよく見てみるとそれは最初以来使っていなかった『鑑定石』だった。師匠は下部についている球体に触れて私に差し出す。恐る恐る受け取って表示されているステータスを見た。
〔 ノト=ルギシニラ 27歳(287歳) 魔王(人間)
魔法使い Lv257 (適正〈主〉:赤 青 緑 黄 白 黒 無 )
スキル:全適正 邪王 魔力:15600 〕
「.....っ。」
「俺のステータス。それが証明だよ。」
ステータスの高さも異常だがそれよりも本当に魔王と証明できる物があった。二ヶ所もだ。先ず括弧書きで書かれている種族が人間ではあるものの”魔王”表記があること。そして魔王独自のスキルというのはこの『邪王』に当たるのだろう。見間違いでは無いだろうかと指で鑑定石の表面をなぞるが消えるわけが無い。
「さて、改めて聞こうか。それでも俺を魔王と否定して抱いてる気持ちが変わらないと言うか?」
改めて聞き直したその言葉。今度はとても重たく感じる。でも、最初から私の気持ちは揺るがなかった。驚かなかった訳じゃないけど私はこうなることをきっと想定していたのかもしれない。
「もしかしたら、私は薄々気付いていたのかもしれません。気付いてて、知っても尚変わらない私は変わり者なのでしょうか?」
「....プッ、ハハハ。変わらないか、そうか。変わり者かどうかは俺には分からないな。俺は変わり者以上に異常者だからな。」
楽しそうに笑う師匠に釣られて私もつい笑ってしまう。
「....まあ、変わらないって言うなら、俺もきちんと答えを示してやらなきゃいけないのかな。」
「へ?」
笑っていたせいか急に話を振った師匠に対し変な声が洩れた。そこから師匠からされた行動に私は硬直した。が、直ぐに片手で口を覆い、一歩後ずさる。
「~~~~~~っ!!!?」
「おお、見事に茹で上がったな。」
大分話し込んでいたせいか朝日が顔を見せた。表情がよく見える。師匠は少し頬が赤くなっているように見え、右目が光に当てられ鮮やかな紅色に見えた。そんな光景を見ていると硬直して停止していた思考がゆっくりと動き出す。多分だけど私は師匠以上に赤くなっているのだろう。言葉から察するに。
「き、急には酷いですよっ!」
「それじゃあ、驚かせるのは成功って事だ。恥ずかしいのを我慢した甲斐が有ったってもんだ。」
「....むう。っ! 師匠、師匠。」
「何だ?」
ちょいちょいと手招きすると不思議そうな表情をしながらもまるで悪戯が成功したかの様にニヤニヤと笑って近付いた師匠に私は目線を下げてほしいと手で訴える。
「これでいいのか?」
疑うことなく視線を合わせた師匠に仕返しをする。両の頬を手で引っ張る。
「おい、何する。」
「仕返しです。」
手を離すと、カラカラと楽しそうに笑う師匠を見て、私もつられて笑いだす。そんな二人を完全に顔を見せた一日の始まりを告げる眩しい日の光が祝福してくれてるかの様でとても暖かく感じた。
「師匠、」
「何だ。」
「これからもよろしくお願いしますね。」
「ああ、何ら変わらないとは思うがな。」
「何としても帰りたいと仰っていましたのに帰れませんでしたね。」
「賢者様は帰られたっすよ。」
執務室に行ってみるとルピとレイトよりそれぞれ声を掛けられる。
「いや、あの爺は帰るも何も本体が来てねえし魔法を解除したと言った方が正しいだろ。結局何がしたかったかも分かんねえまんまだったわ。やっぱり俺への嫌がらせだったかー?」
「あ、嫌がらせで思い出しました。魔王様が此処へ戻ってきている事があの子に気付かれました。」
「げっ、マジかよ。てか、俺は用事済んでるし帰るわ。適当に誤魔化しといてくれっ!」
「承知したっすけど昨日の騒動で色々と報告あるっすから出来るだけ早めに戻って来てくださいよ。」
「分かった!」
俺は嫌な表情をするも、急いで執務室を後にしたのだった。
そして残された二人は、というと、
「何か変わったかなーとは薄々思ってたはいたっすけど良い変化なんすかね。」
「さあ、どうでしょう。そうそう生き物の本質は変わるものじゃ有りませんからね。ですが長い時を生きる魔王様にとっては良い事なのでは無いでしょうか。....彼女も魔王様の体質に近付いてきている様ですし。まだお互いに気付かれていないようですけど。」
「ああ、やっぱりルピから見ても彼女はそう見えたっすか。気のせいじゃ無かったんすね。....大丈夫っすかね、彼女。気付いた時、卒倒しそうな気がしますけど。」
「そこは魔王様が何とかするのでは無いでしょうか。」
「ああーーー!! 何でいないのーー? こっちに来た感じがして急いで来たのにぃ!」
「ミリア様、魔王様は今しがた帰られましたよ。今度はちゃんと帰ってくるって言ってたんで帰ってきた時、誉められるよう頑張りましょ?」
「むうう! レイトにそう言われるのはちょっとイラッとくるけどミリア、頑張る。」
「その意気です、ミリア様。」
「何でオレに言われてイラッと来るんですか。酷いですよ。」
そんな会話がなされているとは露知らず俺は寝室に戻ると焦って戻ってきた俺の様子にユリナは吃驚したようだ。
「何か有ったんですかっ?」
「いや、早めに帰った方が良いと言われただけだ。てことで、一旦爺の元に行こうと思うが良いか?」
「分かりました。オッケーです!」
「よしっ、『転移』!」
「戻ってきおったか。」
「疲れた。滅茶苦茶魔力持ってかれた。」
賢者様の元に到着するや否や倒れこむ師匠に苦笑いを浮かべつつ、掛けられた言葉に対して返す。
「ただいま戻りました。」
「無事で何よりじゃ、そして何時までそこでだれてるつもりじゃ、ノトよ。」
「枯渇しかけている魔力が回復しきるまで?」
うつ伏せのまま怠そうな声音で答えていた。
「ワシとしては頼まれていた用は済んだのだから教えることはもう無い。さっさと回復して当初の予定通りウィッチェの観光でも行ってくると良い。」
「無茶言うなー。爺、魔力分けてくれー。」
これまたうつ伏せのまま賢者様の方に腕を伸ばす。そして地面を手で軽く叩いて催促している。
「全く嘘を言うで無い。そんな距離でおぬしの魔力が枯渇する訳無かろう。ワシが強制的に追い出す前に出ていくが良い。」
「はあ、辛辣だな。分かったよ。....じゃあな、爺さん。俺も爺さんも無事に生きてたら会いに来てやるよ。」
「ユリナよ、大変なのはこれからじゃ、努力を怠ってこやつの様になるで無いぞ。」
「はい! お世話になりました。ありがとうございました。またお会いしましょう!」
「俺への散々な言われようは相変わらず否定してくれないのか。」
深々と礼をすると立ち上がっていた師匠が扉の方へ歩いていったのを追いかけて行く。一定のリズムを刻み扉を叩くとカチッと解錠音が聞こえてから開けて目映い光に包まれた戸をくぐる。
新たな出会いが有って目まぐるしく状況が変わったりと、相変わらず色々と有った。
「こっち、行きましょー。」
「分かったから引っ張るな。どうせ逃げないんだからゆっくり行こうぜ。こんなペースじゃ疲れて動けなくなるぞ。」
「大丈夫です。強くなったお陰で大分体力が上がったみたいなので飛ばしても平気ですよっ。」
「その元気こんなことで使うなよ。」
楽しさを隠しもせず手を引っ張って街を好きに回っていく。そんな私の様子を困った表情を見せ文句を言いつつも引っ張られるままに付いてきてくれる師匠。
これからどんなことがあるかはまだ分からないが目一杯楽しんで生きていこうと思う。
「師匠、」
「何か良いのが有ったか?」
「いえ、違いますよ。ありがとうございます。」
「感謝される様な事はしてないぞ。」
「私には有るんですよ!」
「そうかい。おっ、これ綺麗だな。」
「本当ですね!」
「おい、これ、くれ。幾らだ?」
「そんな即決で買うんですかっ。」
「ユリナも綺麗だと思ったんだろ? 丁度良いだろ。」
師匠が即決で買った物はペアリング。意匠はシンプルなシルバーリングだが十字に刻まれた所があり、その刻まれた場所は淡い光が漏れている。小さな石が組み込まれているらしく装飾用の高級な石らしかった。現代で言うダイヤモンド等の鉱石に相当する様な物らしい。
ウィッチェでは魔術が付与されている物が一般的の中、何も効果が無いと言うのは重宝される物でも無い。が、自身のアクセサリーだったりでお洒落感覚で買う人はいるようだ。ということで、別段何か効果が有るわけでは無いが師匠は受け取ったリングそれぞれに付与を施した。なんか以前は私の前では見せなかった付与を目の当たりにしたけど一瞬で終わったため仕組みとかは分からなかった。付与した効果はただ1つで装着者にぴったりサイズが合うようにするものだけ。買ったリング少し小さめだったからどうするか見てたんだけどそんな問題は些細なものだったみたい。そのリングを左の薬指にそれぞれ付けあう。
「そういえばこの世界では結婚式とかプロポーズとかの指輪交換なんて文化? ってあるんですか?」
「さあ? 経験した事も見たことも無いから知らないな。ただ付けてるやつはいるから一部では有るんじゃないか?」
「へえ。師匠が当然の如くやっていたので当たり前なのかと。」
「あれ? 言ってなかったっけか。」
「何をですか。」
「俺も元は異世界人だったという事を、だよ。」
「聞いてない、って....え゛え゛? やっぱりそうなんですか。」
「何だ知ってるじゃないか。」
「話されて無いはずなので知っているとは言いませんよ。帰ったら諸々話してくださいね。」
「はい、はい。話せる事は話してやるよ。それなりに時間がかかるぞ。」
「面倒と言わずちゃんと話してくださいね。」
釘を差してから夜まで他愛ない会話をしながらゆっくり観光を楽しみ一晩宿に泊まる事になったが何故か天気が荒れ、雷が音と光を激しく伝えてきて怖かった私は宿の部屋の一室の角でブルブルと震えながら手で耳を覆っていた。師匠はそんな私の様子に最初は笑って見ていたが優しく声を掛けてくれた。
私が寝れるまで気遣っていて寝付くまで傍にいてくれた。
朝、起きて同じベッドに寝ていたのは驚いたけど。
第4章終了です。またもやあっという間でしたね。




