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「ウォータ・レーザー」


スウォンが呪文を唱えると水の光線がドラゴンに向かって放たれた。

だが、水の光線はドラゴンの固い表面には効かなかったのか跳ね返って霧散した。並の呪文ではドラゴンにダメージを与えることは難しいようだ。


「このドラゴン、スウォンの魔法を弾いたぞ。」


「魔力抵抗が高いのかもしれないね。普通のミニドラだったら今のはダメージを受けるはずだ。たぶん、ゼノがモンスターのステータスを増強してるんだろうね。」


「くっ、ゼノはモンスターを使役して何するつもりなんだ。」


「グオオオオオォォォ!」


ドラゴンが大きく吠えると同時に業火を口から放つ。その照準はフィオナだ。


「!」


「ダーク・ブラスト!」


ドゴガアアア


私は闇の攻撃呪文を炎に向けて放つ。

炎と闇が激しくぶつかり合い激しい爆発を起こす。その衝撃で辺りを爆風が襲った。


「っ……! 皆んな、無事?」


私は手で目をかばいながら周りを見渡す。相当な衝撃だった。誰も怪我していないといいのだが。


「大丈夫だ。」


「いやー、すごい威力だね。」


どうやら皆んな無事らしい。


ドラゴンも多少傷を負ったらしく、硬そうな鱗に傷がつき動きが少し緩慢になっている。


「ありがとう、シェリア。助かったよ。」


私の背後にいたフィオナが笑顔を向ける。良かった。彼女が傷ついていなくて。


「何故、あのドラゴンはフィオナを狙い撃ちするんだ?」


スウォンが怪訝そうな顔をする。確かに急にフィオナを狙い撃ちするようになった。このドラゴンを操っているのはゼノ。彼は一体何がしたいんだろうか。


「わからないけど、誰かはフィオナの側にいた方が良さそうね。」


フィオナに何かあったら全てが台無しになる。彼女には絶対怪我なんてさせない。私がフィオナを守る……、


「では、俺がそばに居よう。フィオナには俺の魔法を増幅して欲しい。」


「スウォン先輩、ありがとうございます。」


スウォンがすっと現れ、フィオナの横に立った。


ドクンっ……


音を立てて心臓が大きく跳ねる。視界が白黒に染まる。そうだ、彼女を守る役目は私じゃないんだった。それはもう別の誰かの……スウォンのものなんだ。


「シェリア、お前の魔法はドラゴンに多少なりとも傷をつけられるみたいだ。お前は前線でルヴィナスと共に……」


スウォンが言っている言葉が頭に入ってこない。フィオナとスウォンが二人横に並んでいる姿は、とても自然で最初からそういうものの様な気がしてくる。


割り切ったはずなのに、諦めたはずなのに。


やはり、私は黒い感情を振り切れなくて。


「シェリア、聞いているのか? おい?」


俯いて返事をしない私をおかしく思ったのだろう。スウォンが私の肩に手を置いた。


ペシッ


「触らないで。」


私はその手を振り払い、抑揚のない冷たい声で言い放った。

スウォンは驚いた表情を見せたが、特に文句を言うわけでもなく引き下がった。


「シェリア?」


フィオナが様子がおかしいことに気づいて心配そうに声をかける。


分かってる。諦めなきゃ。割り切らくては。フィオナは私のモノじゃないのよ。既に彼のものなの。いや、誰のものでもない。フィオナは自分の意思で側にいる人間を選んだんだ。


どうして、私じゃなかったの。


スッと心に落ちた私の本音。

幼い頃は私にべったりだったのに。あの事件さえなければ、あの暮らしのまま幸せに生きられたかもしれない。


考えても不毛なことだけど。


「グオオオ」


ドラゴンが再び炎を吐こうとしている。炎の威力は確かにすさまじいが、逆に言えば奴は炎しか吐けないようだ。ゼノに強化されているとはいえ、元はミニドラゴン。ドラゴンの中でも下位の種にあたる。それ以上の強化は難しかったのだろう。


私は無意識にドラゴンの方へ歩んでいった。


「シェリア、危ないわ。」


フィオナが声を上げるのが聞こえた。


でも、私は歩むのをやめない。

このまま消えてしまえたらいい。これ以上、フィオナに対して黒い感情を抱きたくないのに。私が彼女に危害を加える前に消えてしまいたい!


ボウッ


焔が放たれる。


「シェリア!」


眼前に迫る炎。私は魔法で防御しようともせず、それを受け入れるように動かずにいた。動けずにいた。


「ウィンド・ロープ。」


突如足首が拘束される感触がしたと思うと、ぐいっと引っぱられた。加減なしの力に足がとてつもなく痛む。


「いたっ……!」


引っ張られた衝撃で地面に素っ転び、私の目前でドラゴンの炎が過ぎ去った。炎はそのまま森の木に当たり燃え上がる。


「む……、この魔法はよく見覚えがあるんだぞ……。」


ルヴィナスが苦々しげに顔を歪める。誰と言わなくても、こんなことする奴は彼しかいない。


「キリ……」


私がその名を呼ぼうとした瞬間、まだ足に巻きついていた鎖がちゃらっと音を立て浮き上がる。


訝しげに思うと再び鎖に引っ張られた。先ほどと違って痛みはない。痛みはないが……。


「え? え、ちょっ、ちょっ⁉︎」


ふわりと体まで浮き上がり、茂みの方まで引っ張られる。 風魔法だろうか。体ごと引き寄せられる感覚。


「シェリア⁉︎」


フィオナが驚いた顔をしてこちらを見るが、引っ張られる速度が速すぎてあっという間に私は森の方に引き込まれてしまった。


「ちっ、何を考えてるんだ。あの阿保教師。」


スウォンの怒りが混じった低い声が聞こえたが、すぐに呪文の詠唱音を唱え始めた。とりあえず、スウォンはドラゴンの相手をする事にしたようだ。


だんだんとみんなの声が遠ざかる。

しばらくして鎖に引っ張られる力が弱まり、ドタッと地面に落ちる。


地面にぶつけた所をイタタとさすりながら起き上がろうとすると、目の前には案の定、キリトがいた。


……今までに見た事のない冷たい眼差しで。


口元は笑っていて、一見すると普段通りに微笑んでいるようで機嫌が悪そうには見えない。だが、彼の周りの空気が果てしなく冷たい。


相当怒っている……?


て、キリトの機嫌なんて構っていられない。

しっかりしろ、私。


「何? 用がないなら私戻る……」


「シェリア。君、今。諦めようとしたよね?」


びくっ


キリトの言葉が思ったよりも冷たくて背筋が震える。


「そ、そんな事ないわよ。」


直視できなくて目をそらす。怖い。この男は本当に苦手だ。なんで聞かれたくない事をズケズケと入り込んで来るのだろう。


でも、あの瞬間、楽になりたくなって。全て投げ出して諦めようとしたのは事実だ。


「シェリア。俺は君が悪い事しようとしたら止めるって言ったよね。」


「……それが何よ。私が消えたら悪い事なんて起こらないし、丁度良かったじゃない。」


ほっといてくれれば良かったのに。

自分でも勝手なことを言ってると分かっているが、どうしてもそんな事を思ってしまう。


「違うよ、シェリア。悪い事っていうのは君が誰かに危害を加える事だけじゃない。君が自分で自分を無くそうとするのも悪い事だよ。」


キリトが私の肩を掴み引き寄せる。私と彼の隙間がないくらいに抱きしめられる。


「離してよ!」


「嫌だ。」


キリトはより一層、私をきつく抱きしめる。抱きしめるというよりも締め付けるという表現の方がしっくりくる位だ。


「痛いって、ば……!」


息がつまる……。


「……好きだよ。」


小声でぽそりとつぶやかれる言葉。


「……っ!」


こんな時に何を言っているんだろう。


「……だから、お願いだから。俺の手の届かない所に行こうとしないで。俺の手の届く範囲で、側にいて。」


ドクン……


側にいて。


ここに居ていいの……?


存在を肯定するようなその言葉は世間から存在を隠され、義両親達に疎まれて、居場所がなかったように感じていた私にとって麻薬みたいに溶け込む言葉だった。


母様達はいい人達だ。それはわかっていた。でも心のどこかで本当は私なんていらなかったんじゃないかと思っていた。存在をひた隠しにするのは私の事が疎ましいのじゃないかって。そんな事はないのにと、いつもその考えを打ち消していたけど。寂しさは癒えなかった。


義両親は明らかに私の事を疎ましがっていただろう。不気味な事件があった家で生き残った当主の婚外子。快く受け入れる要素が一つも見当たらない。


何処にいても私は受け入れられていない気がして。


でも、フィオナだけは。あの子は唯一の私の家族で姉妹で双子の片割れ。彼女だけは受け入れてくれる気がして。


私はフィオナに執着したんだ。


本編中失礼します。

更新遅れてます(ーー;)

終わりに向けて色々考えすぎたら煮つまりました……。

暫く書きだめてから一気に放出しようかと思いますので、次の更新までまた間が空くかもしれません。のんびりお待ちいただけると幸いです。

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