プロローグ 始まりの日
七色のクリスタルを抱きし乙女
天より舞い降りて、我らに力を授けたり
乙女に忠誠を
乙女に祈りを捧げよ
我らは忘れてはならぬ
乙女の偉大なる功績のおかげで
生き永らえていることを
我らは忘れてはならぬ
乙女が守ろうとしたすべてのものを
我々が守ることを
この胸のドロップに誓って
-乙女の像に刻まれた碑文より参照-
アルコバレーノ暦776年
無月のハイドランジア月15日
乙女の像は、我がクリスタリア国、セントラル市街
王宮前の広場に鎮座し、年間を通して参拝が途絶えぬ場所だ。
途絶えることのない市民の忠誠心から、毎日のように献花で飾られ、乙女の像は胸に抱くクリスタルを、七色に輝かせる。
しかし、今日のこの日は、クリスタリア国にとっては、《生誕祭》を祝う、国民の祝日であることから、献花だけでなく、各地方都市の名産品や、子供たちの手紙や絵、貴族達の献上品などで、乙女の像の前にあふれていた。
「静まれ…これより、生誕祭の儀を執り行う」
クリスタリア国第27代目国王、リオン・アメトリス・クリスタリアは、広場に設置された王族のテントより椅子から立ち上がって、ざわめく民衆に告げる。
その声は拡声魔法により、広場に集まっていた数千人、また広場に入りきらず、押し寄せていた数十万人がお祭り騒ぎになっている城下の隅々に至るまで届いた。
ざわめきは、広場に吹いたそよ風が逃げたと同時に静かになり、木々の葉っぱが擦れる音や、どこか遠くで鳴いている鳥達の声のみが、広場に聞こえていた。
「乙女の像に、黙祷」
全ての国民が…王家の人間も全てが…同じように膝まずいて、胸に抱くドロップを輝かせ、頭を垂れる。
時間にしておよそ1分。頭をあげて乙女の像に人びとが注目した時に、予想だにしていないことが起こった。
乙女の像の胸に抱かれたクリスタルが七色の燐光を発し、乙女の像から離れて浮かび上がったのだ。
クリスタルからキラキラと粒子が舞い降りる中、誰もが言葉を発することができなかった。
それは、目の前で次第に強く燐光を発し、誰もが眩しくて瞳を閉じかけた時に、一瞬でその姿を消した。
民衆はパニックに陥り、老いた者達が恐怖により倒れるなか、王族達は歓喜に胸のドロップを震わせた。
《乙女の再来》の前触れだ、と。
アツミ・クリスティーナ・ヴァレンタインが産まれる、一年前の出来事であった。




