↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/47

1.夫候補が1ダース

 目の前には、いい男ばかりが1ダースいる。

 全部、夫候補。誰の?

 わたくしの。


 朱塗りの太柱が並ぶ広間に、男たちの色鮮やかな衣がずらりと並んでいた。

 男たちが動くたびに絹が擦れ、格子窓から差す光の中で刺繍糸がきらつく。

 金色《こんじき》の高い天井へ昇る香の煙まで、今日は景気よく見えた。


 いまは、その中から数人に絞る面談の最中だ。

 朱塗りの柱も、金の天井も立派だけれど、今日ばかりは背景。主役はその下に並ぶ男たちだ。


 こんなに幸せでいいのかしら。


 前世で意識を失い、気づいたらこの世界。ここは天国? いえ、ちゃんと生きている。どうやら楽園に転生したらしい。


 だって、視界がまぶしい。

 肩幅が。顔面が。筋肉が。美貌が。


 現代日本から転生したわたくしは、この世界では華音《かのん》。女帝の一人娘で、次期女帝。十八歳。


 華音だなんて、前世で仕事に追われていた肉食女子には、ずいぶん可愛すぎる名前だわ。


 まあ、いいでしょう。

 この国では十八歳で成人する。つまり、堂々と夫を持てる年齢だ。

 次期女帝には後継ぎが必要だから、夫を複数置く。後宮の男女を逆にしたようなものね。


 女が選ぶ。男が並ぶ。


 ……言葉にすると、なかなか強い。嫌いじゃないわ。


 さて。誰を残そうかしら。

 外見が好みで、中身もまともで、相性がよさそうな人。

 欲張り?


 いいのよ。わたくしは次期女帝なのだから。選べる立場で遠慮をして、あとから悔やむほうがどうかしている。


 まず、この颯真《そうま》という男。


 広い肩に厚い胸板。ほかの候補者が落ち着かなげに視線を動かす中、彼だけは背筋を伸ばし、まっすぐ前を見ていた。

 爽やかな顔立ちなのに、体は見事に鍛えられている。大きな犬のような人懐こさもある。


 好き。


 次は、理珂《りか》。


 美しい、という言葉の見本のような顔だった。

 切れ長の目は澄んでいて、こちらを見ても愛想笑いひとつしない。緊張しているはずなのに、どう見られるかより、目の前のことを観察しているように見える。

 頭もよく、天才と呼ばれているらしい。同じ十八歳というのもいい。

 毎日眺めて暮らしましょう。美しいものは精神衛生に効く。


 決定。


 三人目は、悠珀《ゆうはく》。


 線が細く、肌が白い。ほかの男たちより静かに立っていて、長い指を体の前で重ねている。

 楽器や絵が得意な芸術家だという。

 わたくしと目が合うと、悠珀はやわらかく笑った。その笑みだけ、張りつめた広間の空気から少し浮いて見えた。

 いいわね。情緒は大切よ。心を潤してくれる男も必要だわ。


 彼も残しましょう。


 その隣の男へ目を移す。

 銀糸で有難い瑞獣を縁取った上等な絹を何枚も重ね、歩くたび腰の玉が鳴る。西域の香もきっちり焚き込んでいる。

 盛り過ぎ。

 選ばれることを疑っていない顔で、わたくしを見返している。


 景鶴鈴《けいかくれい》。


 顔立ちは悪くない。

 でも、顔より先に自信のほうがこちらへ歩いてくる感じがした。


 ないわね。


 視線を次へ滑らせると、景鶴鈴の口元がわずかに引きつった。


 颯真。理珂。悠珀。


 三人で十分かしら。


 そう思った瞬間、選んだ男たちの名前が、頭の奥で強く響いた。

 胸の内側を冷たい指でなぞられたように、皮膚が粟立つ。


 ……あ。


 この名前を、わたくしは知っている。

 前世で読んだ物語の登場人物だ。


 どうして、いままで気づかなかったのか。

 けれど、いまははっきり思い出せる。


 この国は、陽輝《ようき》帝国。

 ここは、ファンタジー小説『陽輝帝国物語』の世界だ。


 そして、わたくし――華音は、母である女帝とともに、物語の最後で処刑される。

 悪役として。


 背中を冷たい汗が伝った。


 冗談じゃないわ。

 物語の中でこの三人を夫に選んだことは覚えている。つまり、何も変えなければ、わたくしはもうあの物語どおりの道を歩き始めている。

 なら、最初の一手から変える。


 わたくしは、居並ぶ男たちをもう一度見渡した。

 そして、列の中に彼を見つける。


 怜鳳鳴《れいほうめい》。


 危険なほど整った顔立ちの男だった。姿勢はくつろいでいるのに、こちらの動きを一つも見逃していない。

 目が合うと、怜鳳鳴はわずかに片方の眉を上げた。


 あの物語では、主人公側についた男。

 つまり、わたくしの敵になった人。

 だからこそ、手元に置く。

 敵になる前に、味方にしてしまえばいい。


 それに、顔が好き。とてもいい。

 好みが多すぎるって?

 ストライクゾーンが広いだけよ。打席に立つのは得意なの。


 四人。


 普通は二人、多くても三人ほどらしい。わたくしは、とんでもない好きものと思われるかもしれない。

 まあ、いいわ。

 好きものでも、悪役でも、次期女帝でも、生き残った者の勝ちよ。


 わたくしは官吏《かんり》へ四人の名を告げた。


「颯真。理珂。悠珀」


 一度、息を継ぐ。


「それから、怜鳳鳴」


 広間の空気が、ほんの少し動いた。

 官吏が目を丸くし、男たちの衣がかすかに鳴る。

 怜鳳鳴だけが、面白いものを見つけたように笑っていた。


「承りました、殿下」


 官吏が深く礼をする。


 これが、前世で読んだあの物語――『聖典』から外れる、最初の一歩。

 聖典どおりに処刑されるだけの悪役なんて、まっぴらごめんだわ。

 後宮と、四人の夫と、まだ見えない敵。


 全部まとめて、わたくしが相手をしてあげる。

お読みいただきありがとうございます!


全三部、完結まで執筆済みです。

恋も謎も、最後までお楽しみいただけたら嬉しいです。


続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。