追記――エリーゼのために
グスン、グスン。
エリーゼは薬草畑の前で泣いていた。
「私の薬草が……」
薬師科の学生には、それぞれ畑が振り分けられている。
「毎日、毎日……一生懸命育てたのに」
薬師科の学生は、この畑をとても大切にしていた。
育て方で効能も変わるため、薬師独自の栽培方法も研究していた。
「ねぇ、聞いて、クラリス。私の薬草畑が荒らされたの。毎日、毎日世話していた畑が」
クラリスに相談した。
心配はしてくれたけど、植え替えの手伝いは習い事があるから……と素っ気なく断られた。
少しだけ、クラリスなら手伝ってくれるかもと期待していた。
放課後、エリーゼは泣きながら薬草の植え替えをした。
中には、まだ生きている薬草も僅かにあった。
ただ、そのほとんどが折られ、踏みつけられていた。
土にポタポタと涙が落ちる。
「うぅ……もう嫌だよ。つらいよ。誰か助けてよ」
つい最近は、教科書をビリビリに破かれたばかり。
今まで、なくなっていたと思っていた物も、いじめられていたからだと知り、エリーゼは傷ついていた。
「これは……酷いな」
顔を上げると、そこには薬師科の学生がいた。
確か、一つ上の学年の先輩だったと思う。
「確か、エリーゼ嬢だったよね?」
「僕も手伝うよ」
そう言うと、シャツのボタンを外し、腕をまくってスコップで掘りだした。
固くなった土を耕していく。
「うぅ……ありがとうございます」
土と涙でドロドロになった顔で、エリーゼは笑顔でお礼を言う。
二人はせっせ、せっせと、夕方が訪れるまで薬草畑で作業した。
❖❖❖❖
それからというもの、すれ違えば挨拶する関係になった。
段々と綺麗になるエリーゼを、薬師科の男子はチラチラ見る。
しかし、恋愛偏差値が激低の彼らにとって、エリーゼは高嶺の花だった。
その上、毎日、毎日、教室を覗くフェリクスに勝てる気もしなかった。
そして、あの日の断罪劇だ。
離れた薬師科にも、その情報が流れてきた。
聞き逃さなかったのは、エリク。
畑を手伝った男子学生である。
彼は、あのドロドロな顔で笑うエリーゼの顔が忘れられなかった。
ただ、フェリクスに勝てる気がせず、諦めようと日々戦っていた。
すれ違うたびに心が動き、忘れることができなかった。
今だ。
彼は、すぐに行動へ移した。
「エリーゼ嬢、あなたが好きです。是非、婚約者になってください」
一度は諦めた身。
振られるのは怖くなかった。
「私も、エリク様の婚約者になりたいです……」
クラリス嬢がフェリクス様と付き合うようになり、昼食も一人で食べることが増え、心細くなっていた。
エリクは、エリーゼがつらい思いをしないようにと、せっせ、せっせと弁当を準備し、薬草畑の前のベンチで仲良くランチするのが日課になった。
そして、毎日のように。
「愛してる」
「大好き」
「いつもありがとう」
と言葉を浴びせ続けた。
エリーゼの心が、自分へ向くように。
そして――。
あの日、一緒に植えた薬草の種から、芽が出ていた。
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