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『モテ男が欲しい女たち――略奪したら駄目ですか?』  作者: 蒼


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6/7

第六話 本当の悪女

「大体――!」

セシリアがフェリクスを睨んだ。

「あなたが悪いのよ!」

「僕?」

「あなたがエリーゼ様なんかにうつつを抜かすからでしょう!」


一同がフェリクスを見る。

(まあ、それは確かに)


堂々と別の令嬢を目で追い続けていた。

婚約者なら怒る。

全員、ちょっと頷いた。


「私は……」

セシリアの声が震えた。

「私は、ずっとあなたの気持ちが戻ってくるのを待っていたのよ」

今までとは違う涙が落ちた。


「あなたが他の令嬢に優しくするのも我慢した。毎日のように女の子に囲まれて、手を握って、笑いかけて……」

「診察だよ!?」

「分かってるわよ!」


一喝。


フェリクスが黙った。


「分かっていたから我慢したの! 私は婚約者だから。最後には私のところへ戻ってくるって!」

セシリアは唇を噛んだ。


「エリーゼ様に心を奪われても待っていたわ。あなたが目を覚ますのを」

涙が頬を伝う。


「なのに、これがその結果ですか」

誰も何も言わなかった。


計算高い。

性格も悪い。

取り巻きを利用した。

自分だけ手を汚さなかった。


でも――。

フェリクスを好きだったことだけは、本物だったらしい。

一同の胸が、ほんの少しだけ締め付けられた。


全員の視線がフェリクスへ向いた。


冷たい。


「ご、ごめん。だって仕方がなかったんだ」


さらに冷たくなる。


「違う! そういう意味じゃなくて……!」

フェリクスは慌てた。


「どんどんエリーゼ嬢に惹かれていくんだ。君には悪いと思ってた。ただ、駄目なんだ。どうしてもエリーゼ嬢が好きなんだ」


ガラッ。

扉が開いた。

エリーゼとクラリスが立っていた。

揉め始めてすぐ、クラリスがエリーゼを呼びに走っていたのである。


フェリクスの顔が真っ赤になった。

「僕は……僕は……」

もう後の祭りである。


逃げ道はない。

フェリクスは腹を括った。

「エリーゼ。君だけが好きなんだ」


ヘタレの最後の勝負強さを見た瞬間だった。

観衆は心の中でガッツポーズ。

(言った!)


「ほら、エリーゼ……」

クラリスが親友の背中を押す。


エリーゼは、おずおずとフェリクスへ近づいた。

フェリクスは期待に満ちた顔で覗き込む。

皆が息を止めた。


「ごめんなさい」

「え?」

「私は、分かりやすく好きと伝えてくれる人が良いです」


沈黙。


「……えええぇぇぇえええぇぇぇ?」

モテ男が振られた瞬間である。


フェリクスは膝から崩れ落ちた。

「そ、そんな……」


その横で。

セシリアが腕を組んだ。

「ざまぁみなさい」


フェリクスが顔を上げる。

「私も、こんな男要らないわ」

髪をバサリとかき揚げる。


セシリア姐さんの爆誕である。


なお。

性格が良くなったわけではない。

猫を被るのをやめただけである。



クラリスは膝から崩れ落ちたフェリクスへ近づいた。

肩をポン。

「仕方ないわね」

「クラリス……?」

「私がフェリクスを支えるわ」


皆が顔を見合わせる。

まあ……。

クラリスなら。


いじめられていたエリーゼを必死に守った。

半年かけてエリーゼを外へ連れ出し、周囲の男性まで振り向く美女に仕上げた。

二人を結びつけようと、最後まで背中を押した。

全部。

クラリスである。 


…………。

ただ。

食堂でフェリクスの思い人を周囲に知らせたのも、クラリスだったよな。


ガチャン。


あの日のスプーンの音を、何人かが思い出した。

あれから、エリーゼへの嫌がらせが始まった。


…………。


一同の胸に、同じ言葉が浮かんだ。

――お前が、一番の悪女じゃん。


❖❖❖❖ 


その後。

エリーゼは、自分とよく似た薬師科の学生と婚約した。

彼は想いを伝えてから、誰が見ても分かるほど真っ直ぐにエリーゼへ好意を伝え続けた。

エリーゼには、そちらの方が合っていたらしい。


セシリアは一皮剥けた。

猫を被らなくなった彼女は、なぜか『姐さん』と慕われるようになった。

性格は相変わらずである。

そして、なんと公爵令嬢ロッテの兄と婚約。

まさかのシンデレラストーリーを歩むこととなった。


フェリクスは、しばらくエリーゼへの恋心を諦められなかった。

しかし、やがて『親友の婚約者』という絶妙なポジションへ落ち着いた。


少々不器用。

かなりヘタレ。

そんなフェリクスの世話を焼くことに、クラリスは満足しているらしい。


フェリクスもまた。

クラリスに上手く操縦されながら、それなりに楽しい人生を送ったのである。


クララは、予定通り脂ぎった中年男爵の元へ嫁いでいった。

サラは、誰からも求婚されることなく、その生涯を終えた。



クラリスが最初からどこまで考えていたのか。

それを知る者はいない。


ただ一つ。

彼女は昔から――


とても世話好きな令嬢だった。



――終――

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