第一話 誰が本当の悪女?
全7話です。
是非ご覧ください。
うわ! お前が、一番の悪女じゃん。
一同が内心で毒づいた。
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私はクララ。家は没収寸前。
父親がおいしい話に騙されて、膨大な借金を作ってしまった。
私は、卒業とともに借金のかたで売られる。
相手は、成金男爵。
四十過ぎの脂ぎったおじさんで、腹は突き出していた。
初めてお会いした時、上から下まで舐めるように見られ、舌舐めずりされた。
私には学園までしか自由がないの。
私から夢の世界をとらないで――。
別にセシリア様が好きなわけではない。
ただ、セシリア様の取り巻きでいれば、結婚してからも付き合いがある。
そうすれば、セシリア様の婚約者であるフェリクス様にお会いできる機会があるかもしれない。
今でなくても、いつか私を見てくださるかもしれない。
そんな打算だらけの付き合い。
ただ、セシリア様になりたかった。
セシリア様みたいに、フェリクス様の隣にいたかった。
一番近くで見ていたい。
だから、セシリア様は私にとって大切な方だった。
それに、セシリア様なら許せた。
だって、フェリクス様はセシリア様を好きではなかった。
セシリア様の片想いなだけ。
貴族の政略結婚なんて、こんなもの。
そう納得すれば、私だって結婚できた。
フェリクス様は誰のものでもない。
そう思っていられた。
それなのに――。
フェリクス様は恋をした。
私でもなく。
セシリア様でもなく。
エリーゼに。
私が諦めるために作っていた世界を、お前だけが壊した。
エリーゼ、お前は絶対に許さない。
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誰もいなくなった放課後。
サラと共に薬師棟へ向かう。
あらかじめセシリア様が話してくださった、エリーゼの教室。
サラは見張り役。
「クララ。大丈夫。誰もいないわ」
私はエリーゼの机の引き出しを開け、インクを空のものと入れ替える。
ドキドキした。
初めて悪いことをした。
見つかったらどうしよう。
怒られたら。
家に知られたら。
そう思うのに、胸が高鳴る。
高揚する。
そして、なんだかスッキリする。
サラに見せると笑顔を見せ、私達ははしゃぎながら薬師棟を離れた。
初めは、失敗するかもとドキドキしていた。
でも、物を盗むのは意外に簡単だった。
何も起こらない。
誰にも見つからない。
スリルにも慣れて、なんだ、こんなものかと感じ始めた。
「なんで、あんなに気付かないのよ。
クララ、これじゃつまらないわ。最近、慣れちゃったし。」
サラは、肩をすくめた。
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昼食時。
食堂でエリーゼの近くに座るのが、最近の私達の楽しみ。
「ねぇ、聞いて、クラリス。最近、よく物がなくなるの。私の気のせいかしら?」
私達は思わず可笑しくて、クスクス笑ってしまった。
まだ気付かないの?
なんて愚鈍な方。
やっぱりフェリクス様にはふさわしくないわ。
あまりにわからないから、わかるようにして差し上げましょう?
まずは、そうね……。
教科書を破ってみようかしら?
私達は、いつものようにエリーゼの机に向かう。
引き出しにしまわれていた教科書を取り出す。
ビリッ。
もう一度。
ビリビリに破いてみた。
ああ……気持ちいい。
これなら、さすがにわかるでしょう?
ところが次の日。
また机へ向かってみると、中はすべて片付けられていた。
やられた。
クラリスが先手を打ったのね。
どうして邪魔をするの?
エリーゼが悪いのに。
私は、怒りが煮え滾る。
仕方なく薬師棟を離れようとした。
ふと見ると、薬草畑がある。
青々とした薬草が、綺麗に並んでいる。
そうだわ――。
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「ねぇ、聞いて、クラリス。私の薬草畑が荒らされたの。毎日、毎日世話していた畑が」
エリーゼがいつもの様にクラリスに報告する。
今日は、泣いているみたいね…ふふ…
泣けばいい。
私だって、何度泣いたと思っているの。
もっと泣けばいい。
「クララ、あなた、よくやったわ。これでセシリア様が喜ぶわ。見て、あの泣き顔、みっともない。本当に令嬢かしら?」
サラの顔が醜く歪む。
私は、やり遂げたのだと達成感が湧き上がる。
それなのに――
夜になると、罪悪感に苛まれる。
私は、どんどん堕ちていく。
汚くなっていく自分の手を、一日に何度も洗う。
石鹸をつけて。
何度も。
何度も。
それでも汚れている気がした。
止めたい。
もう、やめたい。
なのに、止められない。
どこで間違えてしまったの。
今日こそ、もうやめよう。
そう思う。
でも学校へ行って、フェリクス様がエリーゼを見に行くと――。
やっぱり許せない。
あの人を見る目。
私には一度も向けられなかった目。
見たくない。
なのに、見てしまう。
どうしてエリーゼなの?
どうして私ではないの?
……嫌い。
やっぱり嫌い。
エリーゼに直接わからせないと。
そんな使命感が湧く。
食堂でしか会えないので、やれるのはその時しかない。
エリーゼがやって来た。
スッと足を前に出す。
ドテン。
思いっきり転んだ。
一瞬、静かになる。
すると、令嬢の皆さんがクスクスと笑った。
初めて、私が中心になった。
みんなが私を見ている。
みんなが笑っている。
私のしたことで。
フェリクス様は背後にいるから気付いていない。
セシリア様は何も言わない。
誰も私を咎めない。
みんなに受け入れられている。
――またやっていいってことよね。
ゾクゾクっと高揚した。
「さっきのエリーゼ見た?何もない所で転んで。私なら学校に来られないわ。」
「ほんとよね。」
エリーゼにも聞こえるように話しながら、食堂を後にした。
それから、エリーゼを見かけたら足を掛けることにしていた。
最初は面白いように転んだ。
けれど、段々と避けられるようになった。
つまらない。
そして、気付いた。
エリーゼは綺麗になっていた。
少しずつ。
少しずつ。
私が汚れていく間に。
選ばれ、想われる人間は、綺麗になっていくのか。
フェリクス様に想われているから?
愛されているから?
だったら私は?
ふと、自分の手を見る。
何度も。
何度も。
汚れを落とそうと洗った手。
カサカサになった自分の手を見て、絶望した。




