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「ベッド!? 聖女用に買い換えなかったんですか!?」
まさか自分の家具までそのまま使われるとは思ってもいなかっただろうトワが青ざめると、三人は真顔で頷いた。
「表向きには、そんな贅沢出来ないわ……なんてしおらしい事言ってたんだけどさ、あれは単純にトワのベッド使いたいだけだろ」
「私もそう思います……すみません」
何に謝っているのかよく分らないが、ヒューはがっくりと項垂れる。そんなヒューを見てレイモンドが苦笑いを浮かべた。
「あー、気にせんでやってくれ。こいつは聖女に並々ならぬ憧れ、というか夢があっただけだ。でな、まぁそれは別にいいさ。気味悪いなってだけの話なんだが、その後だよ」
「まだ何かあるんですか?」
「あるもある。何を思ったか寮自体を改築しようとしだしてな」
「はあ」
「まずは風呂だ。鍛錬で疲れている騎士を大浴場に入れるなんて! とか言い出したんだよ。で、個別に風呂をつけるべきだって言い出してだな」
「どこにそんな予算が?」
呆れたトワにノーマンは深く頷いた。
「それなんだよ。そんな予算ないっつうの! 騎士団はただでさえ戦争無い時は金食い虫だっつうのに。あと食事な。騎士団の飯ってそれぞれの寮で順番に自分たちで作るじゃん?」
「ええ」
「それをちゃんと栄養管理をして皆の分を全部私が作るわ! とか言い出しちゃってさ。もう既にやりたい放題なんだよ」
「ん? それって何か問題あんの? ご飯作ってくれるならありがたくない?」
思わず私が言うと、トワは静かに首を振った。
「それが逆なんですよ。寮の料理を分けているのには理由があるんですよ」
「そそ。どっかが食中毒とか起こしたら、その間の業務を違う騎士団がすぐに対処する事になってんだよ。だからいっぺんに全部まとめるってのはさいっこうに悪手な訳」
「なるほどねぇ。パイロットみたいなもんか。あれ? でもトワは毎日私のご飯食べてるけど、それはいいの?」
「それは別に構いませんよ。トワがあなたを信頼しているというだけの話ですから。それにこの人は警戒心がとても強いですからね。疑わしい人の食事など絶対に食べません。もし何かあってもそれは寮外で起こった事なので、完全に自己責任です」
「ああ、自己責任ね。嫌な言葉よね~。プライベートならそれでいいけどさ~、仕事となったら話は別よ。個人で働いてる訳じゃないんだからさ」
「おっと~? ヒマリの社畜スイッチが入ったか~?」
茶化したように言うクリスを睨んで私はドン! と机を叩いた。
「自業自得はいいのよ! それは完全に自分のせいだからね! でも自己責任って言って何でも突き放すのは違うと思うの! 世の中にはね、不可抗力でそうなってしまう事だって山のようにあるんだからね!」
そう、例えば悪質なモンスターからのクレームに対して、そういう事を言われるような接客をしたんだろ? とネチネチ責められたり! 会社のルールだとか何とか言ってほぼ強制だったくせに、マズイ展開になったら途端に手の平を返したり!
鼻息を荒くして言った私にトワは手を叩いている。何故かトワは私がハッスルすると喜ぶ。何故だ。
「あー……なんか分かる。そういう話なら騎士団にもあるよな~」
ノーマンが言うと、ヒューとレイモンドも深く頷く。
「だいたいね! 都合が悪い時だけ自己責任を押し付けてきて、普段は同調圧力でねじ伏せるってどうなってんのよ! 矛盾してない!?」
「そう! ほんっとうにそう!」
トワは何か思う所があるのかただ単に酔ってるのか、何故か涙目だ。
「はぁ、やっぱりヒマリと居るとスッキリするな」
満面の笑みでそんな事を言いながらお茶を飲むトワを見て、団長三人組がもう一度何かに納得したように頷いた。
「なるほど、噂のお直し屋さんは心の鬱憤を代弁してくれるのか。これは重宝されるな」
「一緒に怒ってくれると言って淑女の皆さんが言っていましたもんね。こういう事だったんですね」
「いいじゃん、可愛くて気が強くて一緒に怒ってくれるって最高じゃね?」
三人の男に褒められて私がニコニコしていると、横からクリスがヒソヒソと耳打ちしてきた。
「おい、褒められたからって調子のんなよ?」
「分かってるって! この3人がいずれうちのお客様になるかもしれないからね! 騎士なんて特大のカモネギでしょ?」
「……お前、本気でガメついな」
カモネギの意味を話した時のクリスの顔を、私はきっと一生忘れない。
「まぁまぁ。イライラがお金で解決出来るなら安いもんでしょ? 言っとくけど体の病気よりヤバいのは心の病気だからね? むしろストレスが全ての病気を引き起こすと言っても過言……かもしれないけど、ほぼそうよ」
「ほぼって……またフワっとしてんな。まぁでもそれはあながち間違っちゃいねぇな」




