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「たまには良い事言うじゃないですか。腐っても高位妖精なんですね。で! 俺がここに住むって?」


 嫌味なトワにクリスは羽根を真っ赤に染めて怒るが、そんな事お構いなしに私は話を続けた。


「そう。そうしたら万事解決でしょ? 王の勅令にも逆らった訳じゃないんだし、要はクリスと一緒に居ろって事なのよね?」


 とても良い案だと思うが? 私はそんな事を考えながらトワをじっと見上げると、すぐにトワにそっぽを向かれてしまった。


「まぁ嫌なら別にいいんだけどさ」

「嫌な訳じゃ! ただ……俺も一応男……なんですよ?」

「知ってるよ。どう見たって女子には見えないじゃん」

「いやいやお前、そんな事言ってんじゃねぇんだよ、トワは」

「そ、そうですよ! ヒマリ、前から言おうと思ってたんですが、ちょっといろんな事に無防備すぎやしませんか?」

「無防備って、もうそんな歳でもないんだもん。それに私の居た世界じゃそんなの普通だったんだし、しょうがないじゃん」

「け、結婚してもないのに男性と暮らすのが、ふ、普通だったんですか!?」


 驚いたように早口で言うトワに私は頷く。


 同棲なんてそこら中で皆しょっちゅうしてたわ。何なら私の弟もしてるわ! 姉ちゃんよりも先にな!


 私の反応を見てトワは分かりやすく項垂れた。


「そ、そんな……ヒマリ……も?」


 トワの言葉に私はピクリと肩を揺らして反応した。脳裏に彼女と同棲すると決まった時のあの弟のドヤ顔がチラつく。


「……私? 私はしてないわよ……悪かったわね! 彼氏なんて中学生の頃に一人居ただけよ! それも速攻で振られたわよ! その後は女子校、女子大と続いて出会いすら無かったのよ! ふん!」


 思わぬ飛び火に私がついつい怒鳴ると、それを聞いて何故かトワの顔が輝く。そしてそんな私達をルチルとクリスが何故か悲しい顔をして見てくるのだが、それは無視しておく。


「なんだ! そうなんだ! 中学校って言うのがよく分からないけど、あまりにもヒマリは人生を達観してるから俺はてっきり——なんだ、そっか!」

「おーおー、分かりやすく喜んでんなぁ」

「トワは多分、女の子に夢を見過ぎだと思うの。女子を美化しすぎなのよ」

「まぁそういう意味ではヒマリはトワの前でぜんっぜん取り繕わねぇもんな。ていうか、何度も言うけどヒマリのパートナーは僕だから! ヒマリに何かしたら承知しないからな!」

「大丈夫です、クリス様。トワは染み付いた騎士道のせいで絶対にヒマリには手出ししないと思いますよ」

「それはそれで何か色々心配だな。何か血迷って僕にも手出すなよ!?」

「出すわけないでしょう! 頼まれてもごめんですよ! でも確かにそれが一番良さそうですね……それじゃあヒマリ、来週から俺もここにしばらく住ませてもらっても構いませんか?」

「いいわよ。その代わり知ってると思うけど——」

「働かざる者、食うべからず、ですよね?」

「そ。じゃ、改めてよろしくね、トワ」


 そう言って私はトワに向かって右手を差し出すと、トワは少しだけはにかんだように笑って私の手を握ってくる。


「はい、よろしくお願いします」

「いいな~楽しそ~。私もここに住みたいな~」

「あんたは無理でしょ、お姫様なんだから」

「ちぇ~! お姫様って性分じゃないんだけどな」


 ルチルは自分の事をとてもよく理解している。そんなルチルのセリフに思わず頷いた私だったが、目の前のトワはそんなルチルを冷たい視線で見ている。


「姫、それは絶対に城では言わないでくださいね、お願いですから」

「分かってるわよ。はぁ~あ、私も自由になりたいな」

「まぁまぁルチル。連絡さえくれたらちゃんと今まで通りあんたのご飯も用意してあげるから。もちろんビールも」

「絶対だからね! 約束だから!」

「はいはい」


 こうして、偽物の婚約者と押しかけ妖精との奇妙な同居生活が始まろうとしていた。


 あれから3日。トワとルチルが至るところに掛け合ってくれたようで、市井に前回の号外の訂正が急遽配布された。


 とは言っても私の事に関しては微塵も、これっぽっちも訂正されてはいなかったが、トワとクリスの同居先がトワの実家ではなくトワの婚約者の家という事になったのだ。


 世間ではクリスの名付け役とトワの婚約者が同一人物だという事を知っている人の方が少ない。それは高位妖精と高位妖精の名付け役の事を守るためでもあるらしい。


「あんたって本当に貴重な存在なのね~」


 号外訂正新聞を読みながら言うと、対面に座ってコーヒーを飲んでいたクリスがフフンと鼻を鳴らした。


「まぁね。この国に高位妖精が来たって事しか知らされないんだよ、どこの国も。でないと名付け役が危ねぇからな」

「どういう事? 私が危ないの?」

「そうだな~最悪命狙われたりするんじゃね?」

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