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「クリス……」
耳まで真っ赤にしてうつむき加減でそんな事を言うクリスを見て私は思わずクリスの肩を叩いた。
「当たり前でしょ? だってあんたはもう私の大事なパートナーなんだから。パートナーにそんな気なんて使わないよ」
「え!? ヒマリ、それって……」
「そもそもあんたが居ないとどうやってうちの商品作ったらいいの?」
「……」
「それに誰が部屋から虫を追い出してくれるの?」
「……」
「何より私が買い物に行くよりクリスが行った方がおまけが沢山ついてくるの。流石高位妖精だなっていっつも思ってるし、何より私の夢を手っ取り早く叶えるには絶対にクリスの存在は必要不可欠なんだから。あんたが居るだけで人生イージーモードよ」
お得が一杯の高位妖精との生活にすっかり慣れてしまった私は、もうクリスを追い出そうなどとは思っていない。
そう言ってにっこり笑った私をクリスが半眼で見上げてくる。
「お前だけは本っ当にブレねぇな! 一瞬期待した僕が馬鹿だった!」
「期待? なんの?」
「何でも無いっ! さっさと座れ! 飯食うぞ! あと魔女の一撃は癖になるんだからあんま動き回んな!」
クリスは無理やり私を椅子に押し戻していそいそと夕食の準備を始める。そんなクリスを見て私は声を出して笑ってしまった。
「ありがと。クリスのそういう所、本当に大好きだよ」
何だかんだ言いながら優しいクリスは、口は悪いが根は相当良い奴だ。
私の言葉にクリスは驚いたように振り返り、すぐに忙しなくシチューをかき混ぜながら耳まで真っ赤にしてポツリと言う。
「そ、そうかよ……あ~すっげぇ良い匂いだな~」
棒読みでそんな事を言って二人分のシチューをクリスがよそってくれた所で、リビングのドアが開いた。
「今日はシチューですか? 外まで良い匂いがしていましたよ」
「トワ? ちょっと、どうやって鍵……あ!」
クリスがさっき戻ってきた時に私はまたうっかり鍵をかけ忘れたのだろう。それに気付いたクリスが眉を吊り上げて私に詰め寄ってくる。
「ヒマリ! お前はまた鍵かけずに! なんでそんな不用心なんだよ!」
「ご、ごめん。クリスがドアマットと一体化してたからそっちに気を取られちゃって……」
「言い訳はいい! 大体お前はいっつもいっつも——」
「あーもう! ほら、ご飯食べよ! シチュー冷めるよ!」
まるでお母さんのようなクリスの言葉を遮って言うと、クリスはハッとしてまたシチューに向き直る。
そんな私達を見ていたトワはおかしそうに笑ってコートを脱ぎ、まるで自宅にでも帰って来たかのようにナチュラルにいつもの席に座る。クリスもクリスでまるでそれが分かっていたかのようにトワの前にも律儀にシチューを置いてやっていた。この二人は案外仲が良いのかもしれない。
「はい、今日もお疲れさん」
「ありがとうございます。クリスさんからの手紙だと聖女に告げられた時は何事かと思いましたが、俺の兎汁より断然こっちのが良かったです。それにしてもヒマリ、腰はもう大丈夫なんですか?」
「まぁね。まだ派手には動けないけど、料理とか家事ぐらいなら何とか大丈夫。いつまでもクリスに任せとくのも悪いし、お店もそろそろ開けないとね。待っててくれてる人たちもいるし」
マリアンヌの友人達が首を長くして店が開くのを待ってくれていると聞いてはいつまでも休んでいる訳にはいかない。そんな私に二人は半眼になる。
「ヒマリにしては随分殊勝な事言うじゃん」
「ほんとですね。でもどうせそれは建前でしょう?」
もう知っているぞ、と言わんばかりの二人を見て私は付け加えた。
「稼ぎ時なのよ! マリアンヌ様が大量にカモネギを連れて来てくれるの! このビッグウェーブに乗り遅れる訳にはいかないのよ!」
スプーンを握りしめて言う私を見て二人は呆れたように頷いて、挨拶もそこそこにシチューを食べ始める。
「ちょっと、聞いといてその態度!」
「いや、もうほんとお前だなって思ってさ。カモネギってのも意味分かんねぇけど、どうせロクな意味じゃないんだろ? こんなでも料理だけは一級品なんだよなぁ。これが胃袋を掴まれるって奴か……」
「全くです。もちろん俺はそれだけではないですけどね?」
「何だよ、僕だってそれだけじゃないに決まってんだろ?」
何だか火花を散らし始めた二人を他所に私は出来立てのシチューを頬張る。
美味しい。この世界の料理はあちらで調理した時とは比べ物にならないほど何でもかんでも美味しい。
(何故だ。調味料が違うのか? いわゆる天然物だからか?)
ただ一つ残念なのは、総じて肉が硬い! どんなに筋切りをしても硬い!
多分この世界はナチュラル思考が故にまだ肉質を柔らかくする牛の育て方とかそういうのをしていないのだろう。




