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「社畜の国よ。で、で、お肉どうするの? 焼く? ローストビーフ作る? あ! シチューにする!? あんた好きでしょ?」
はりきってそんな事を言う私を見てクリスは頬を少し染めて「おう」と小さく呟く。
「じゃあシチューにしよっか! 絶対余るから残りはステーキで食べよう、そうしよう!」
「マジか! 2日続けて肉とかヤバいな!」
「ヤバいね! あ、でも今日はトワが作りに来てくれるの?」
「らしいぞ。さっき騎士団の下っ端がメモ持って来たから。見る?」
「うん」
「ん」
クリスはそう言ってぶっきらぼうにポケットからくしゃくしゃになった手紙を取り出した。
「あんた、これメモじゃなくて手紙じゃない?」
「紙に字書いてりゃメモだよ」
「あ、そ。随分と大雑把な妖精だこと。あ、ほんとだ。でもトワってご飯作れるの?」
「さあ? 知らね。でもあっちこっち遠征とかしてんだろ? 簡単な物は作れるんじゃねーの?」
「どうなのかな。私、トワの口から聞いた料理って兎汁しか知らないんだけど」
「僕も」
「……」
「……」
私たちは息を呑んで顔を見合わせると、急いでトワに丁寧なお断りの返事を書き、クリスにマッハで城に届けてもらった。野宿をしている訳でも戦場でも無いのに兎汁は嫌だ。
その後、私はどうにか立ち上がってキッチンに向かい、ぎっくり腰のお見舞いにと色んな人達が持ってきてくれた食材を切った。
シチューはいい。ブラウンソースを作って冷凍しておけばすぐ出来るし美味しいし何より切って煮込むだけなので楽だ。
全ての食材を切り終わり鍋に放り込んで一時間。待てど暮せどクリスが戻って来ない。いつもの私なら少々クリスが戻らなくても気にもしないが、どこかを痛めていると気弱になるのは人の性だ。
「何かあったのかな……」
何となく不安になった私が玄関まで壁伝いに移動してドアノブに手をかけようとしたその時、突然ドアが勢いよく開いてクリスが家の中に転がり込んできた。
「び、びっくりした! えっと、おかえり?」
文字通り転がり込んできたクリスは床に突っ伏したまま動かない。肩でゼェゼェ息をしている所を見ると、どうやら全力で飛んで帰ってきたようだ。
「ちょっと大丈夫? ドアマットと一体化してるけど……」
「誰、が、ドア、マット、だ! はぁはぁ、あいつ絶対ヤバい! 怖い!」
「あんたにも怖いものあんのね。お茶入れたげるわ」
「あり、がと……はぁ……もう、絶対、城行かない……」
そう言ってクリスは這いずるようにしてテーブルまで辿り着くと、よろよろしながらどうにか椅子に座った。
私はとりあえずお茶を入れてクリスの向かいに座ると、クリスが私にクッションを放って寄越す。
「腰痛いんだろ。椅子と腰の間にそれ入れとけよ」
「ありがとう。で、どうしたの」
「聖女だよ聖女! 城に行ったら聖女様が僕を待ち構えてたんだよ! おまけに何故か俺がトワに手紙持ってきた事も知っててさ!」
「待ち構えてた? トワへの手紙も知ってた?」
「そう! それだけでめっちゃ怖いだろ!?」
鼻息を荒くして言うクリスに私もコクリと頷いた。
(それは怖い。確かに怖い)
「聖女様は……預言者かなんかなの?」
「知らね。でもまぁ聖女として召喚されるぐらいだからなんかあるんじゃね?」
「そりゃそっか。わざわざ召喚されてこっち来たんだもんね」
「そうそう。どっかの誰かさんみたいに社畜から逃亡して自らこっちに来た守銭奴と違って、多分何か神秘の力的な奴とかあるんじゃね? 僕も聖女とか初めてだから知らないけど」
言いながらクリスは立ち上がってコトコトと音を立てて煮込まれているシチューの蓋を取って目を輝かせている。本当に自由な妖精である。
「あんたは本当に一言多いわね。ていうかクリスって長生きなんでしょ? それでも聖女は見たことないんだ?」
「無いね。僕は確かに長生きだけど、妖精の中じゃまだまだ若いから。それにいつ誰の所に行くかを決めるのは予言書だし、今回の予言書だって虹色に光ったから当たりだって思ったけど、ハズレの当たりっぽかったしな」
そう言ってちらりと私を見たクリス。
だが言わせてほしい。それはそっくりそのまま私のセリフだと!
「ハズレの当たりね、そうですか。よ~く分かりました。あんたには金輪際肉なしね。真のハズレを味あわせてあげる」
痛い腰をさすりながらクリスの手からお玉を取り上げると、みるみる間にクリスの羽根が灰色にくすんでいく。
「嘘! 冗談だって! この間も言っただろ! 僕にはお前ぐらいがちょうどいいんだって!」
「はいはい、どうせ雑いですからね」
「そうじゃなくて! こういうやりとりが出来んのが好きだって言ってんの! 僕に変な気遣わないし、拝んだりしないし普通に扱ってくれんじゃん……そういうのが楽なんだって」




