31
「そんな事なんでもありませんね。もう慣れましたよ。今までで一番重かったのは配達代をケチりたいから漬物石を家に運べ、でしたから。愛より何より金が好きなヒマリはいつかあなたを売っ払うかもしれませんよ?」
「そ、それはもう言われたけど……今は違う! はずだ! そんな事言ったらお前はどうなんだよ! 言っとくけどこいつはマジでガメついぞ! 想像以上だぞ!?」
「そんな事はもう知っていますよ。誰が相手でもズバズバ言うし二重人格だしお金が大好きだしとてもはっきりした性格だと言うことも知っていますよ!」
(うん、これは悪口を言われているな?)
私はそんな二人を無視してまだ青ざめているフレッドに笑顔で言った。
「嫌よね~、もう何言ってんのかしらね? ほほほ」
マリアンヌっぽく笑ってみたが、フレッドはそんな私を見て一歩後ずさる。
「いや、あんたが一番怖いから! 高位妖精に炎天下の中草むしり!? 絶対零度の悪魔に漬物石運ばせた!? 遠方の国の女、怖すぎだろう!?」
「ちょっと誤解があるわ。炎天下の中草むしりさせたのは働かざる者食うべからずの精神を大事にしているからで、漬物石を運ばせたのは、トワが最近剣ばかり持ってるって言うから違うもの持たせてあげようと思っただけよ」
「……いや、それ聞いてその発想に行き着く方が怖いわ。で、とりあえず湿布どうする? 俺が貼るか?」
そう言って引きつりながらフレッドが私に湿布を渡してきたので、私は首を横に振った。
「んーん。誰が貼ってもうるさそうだし、あの岩の影で自分で貼ってくる」
「そうだな、それがいい。えっと、トワ? あの岩陰にヒマリ運んでやってくれよ。もう自分で貼るってさ」
それを聞いた途端、クリスと仲良く喧嘩をしていたトワがくるりと振り返りフレッドに背筋が凍りそうな声で言う。
「二つ名を止めろと言った途端に呼び捨てか?」
その言葉にフレッドは明らかに慌てた様子でぼそりと「ラドクリフさん」と呟くと、それを聞いてトワはようやく納得したように頷いて私を岩陰に運ぶべく歩き出した。
「ねぇ、ラドクリフって誰の事?」
ふと気になって私が言うと、トワは美しすぎる微笑を浮かべる。
「俺だよ。そう言えば言ってなかったっけ。俺の本名はトワ・リンゼイ・ラドクリフ。ヒマリの本名は?」
「私? 私はヒマリ・ユウキ」
「ミドルネームは?」
「無いよ、そんなの。私の居た世界の私の居た国では名字と名前だけなの。だからミドルネームって何か憧れるのよね。で、トワのミドルネームはリンゼイって言うの? 何か似合ってるね」
何気なく私が言うと、途端にトワの顔が耳まで赤くなった。え? なんでそんな照れるの?
意味が分からなくて首を傾げた私にトワが言う。
「ミ、ミドルネームは大抵親しい仲でないと呼び合わないんだよ」
「へぇ、そうなんだ。面白いね。それじゃあいつか私もリンゼイって呼べるようになるのかな~」
親しい仲というぐらいだからきっと親友とか仲の良い友人ぐらいの枠だろうと思っていた私が軽い口調で言うと、途端にトワはピタリと足を止めて顔を真っ赤にして私を凝視してくる。
「え……それってヒマリは俺と——」
トワが何かを言いかけたその時だ。後ろからクリスの怒鳴り声が聞こえてきた。
「いつまでかかるんだよ! さっさと岩陰にヒマリを下ろせよ!」
「ごめんってば! トワ、そこでいいよ。ありがとう」
「あ、はい……」
私が岩陰を指差すとトワは何故かしょんぼりと項垂れて私を岩陰に下ろしてくれた。トワが後ろを向いたのを確認して、ドレスをたくし上げどうにか腰にペタリと湿布を貼る。
「終わったよ」
「え、もう?」
「うん。湿布貼っただけだから」
湿布を貼るなど一瞬だ。岩に掴まり立ち上がろうとした私を見てトワは慌てて抱き上げてくれる。
そう言えばさっきも思ったが、あちらの世界でこんな風に男の人に抱き上げられた事なんて無くて何だか照れよりも感動してしまう。
「やっぱ騎士様は鍛え方が全然違うんだね。筋肉とかもヤバそう。腹筋割れてる?」
「ふ、腹筋? まぁ、そりゃある程度は……」
「やっぱそうなんだ? いや、腰が痛くてあんまり堪能出来なかったけど、胸筋とかも地味に凄いもんね。それにしても一見優男風なのにねぇ……うわ、すご。硬っ!」
言いながらトワの胸をペタペタ触っていると、トワは顔を真っ赤にしてそっぽを向きながら言った。
「ヒマリ? あの、あんまりそんな風に男にベタベタ触るのはどうかと思うんだけど?」
「あ、そうだよね、ごめんごめん。ついついこういう商売出来そうだなって考えちゃった」
「しょ、商売……? 俺に何やらせる気!?」
私の言葉にトワが一瞬で青ざめる。




